第46話
「ありがとうございます、ブレンダ様。ですがスティーブン様は、わたくしにとてもよくしてくださいます。その気遣いが温かくてとても嬉しいです」
「…………!」
「逆にわたくしのために皆様にお気遣いいただいて申し訳ないですわ」
「……そう」
それからブレンダと談笑していた。
ブレンダは冷たい印象を受けたが、感情が表に出づらいだけでとても話しやすい。
スティーブンと似た雰囲気と大人びた彼女との話は楽しくてセレニティは夢中で話を聞いていた。
「なんだかジェシーから聞いていた印象と違うのね」
「え……?」
「いつも我儘で迷惑ばかりかけて周囲を困らせていると言っていたけどイメージと全然違うと思うわ。やはり自分の目が一番信頼できるわね」
「まぁ……ジェシーお姉様がそんなことを」
恐らくブレンダやスティーブンからのセレニティのイメージを悪くしたかったのだろう。
小説でもジェシーがセレニティを貶めていくやり方を見てわかっていたが、彼女はこうして周囲から固めていったのだろう。
目的のためなら手段を選ばないジェシーらしいやり方だと思った。
しかしセレニティが部屋にこもっているならまだしも、こうして外に出るようになり、直接セレニティの姿を見せればジェシーのついた嘘はバレていくだろう。
「どうやら嘘みたいね。あの子、スティーブンに近づくために、わたくしを利用するつもりだったんでしょう?」
「……!」
「利用してこようとしてくる令嬢なんて、ごまんといるもの。それくらいわかるわ」
「ブレンダ様……」
「あなたも大変ね。可愛い妹を貶めたいのね。そんなことをするよりも他にやることがあると思うけど」
どうやらブレンダはジェシーの思惑を見透かしているようだ。
セレニティは驚きつつもその言葉に頷いた。
するとブレンダは口角を上げて微笑んだ後に真顔に戻る。
「あなたはスティーブンに婚約を申し込まれて断ったみたいだけど、断ったのはジェシーのせいなのかしら?」
「もしわたくしがスティーブン様の婚約のお話を受けていたら、ブレンダ様の想像通りになっていたと思います」
「まぁ……」
「わたくしにはまだまだやりたいことがたくさんあって断ったのですが、スティーブン様が何故かなかなか引いてくださらなくて、とりあえずはなんとか保留にしていただきましたわ!」
「あの頑固なスティーブン相手に保留……?ふふっ、あなた面白いのね」
「あとは素敵な恋をしてみたいと思っているのです!」
「そうよね。わたくしもセレニティくらいの時はそう思っていたわ」
「はい、わたくしの夢なのです!」
「そう、頑張ってね。応援しているわ」
ブレンダはそう言ってセレニティを抱きしめてくれた。
それから「傷を隠すのにいい化粧品があるのよ」と紹介してくれた。
それからトリシャとハーモニーもセレニティ達に合流した。
相変わらずトリシャが光り輝く女神のようだが実際、トリシャは『アーナイツの宝石』と呼ばれているそうで、その美貌を目の当たりにした王子達からの婚約の申し出が絶えない。
トリシャは「ベール王国に傷に効く薬があると言っていたから取り寄せてあげるわ」と言ってくれた。
実際、ハーモニーの胸の傷もベール王国の薬で薄くなったそうだ。
それは幼い頃にトリシャを暴漢から守った勲章なのだとハーモニーは話していたが、トリシャは「ハーモニーが嫁ぐまではわたくし、なんだってサポートするわ」と気合十分で言っていた。
ハーモニーはトリシャの言葉に「それはこちらのセリフだ」と、肩をすくめている。
どうやらトリシャの男嫌いはこの事がきっかけのようで、互いに責任を感じているらしい。
そのあとは四人で理想の男性像や恋話、お洒落について盛り上がっていた。
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