第44話


「アタシは明日にはトリシャの護衛に戻らねばならない。だから基礎はスティーブンや他の騎士達に手解きを受けるといい。ネルバー公爵家の者達には伝えておく。時間ができたら好きな時にくるといい。皆、そうしている」


「ありがとうございます!ハーモニー様」


「期待しているぞ」


「はいっ!」



セレニティが頬を高揚させて首がもげるほどに縦に動かしているのを見て、ハーモニーは「可愛いな」と言って吹き出している。

そんな時、馬車がネルバー公爵邸に到着したのか、御者が扉を開けた。

ハーモニーがセレニティをエスコートするように手を伸ばす。

赤髪がサラリと揺れた。


(ハーモニー様、かっこいいわ……!)


これとは違う小説に過酷な環境から女騎士となり活躍していく話を読んでいたため、その主人公を間近で見ているような高揚感があった。

ハーモニーの高潔さにセレニティが惚れ惚れとしていると、ネルバー公爵邸の門の前で待っていたスティーブンがすぐにこちらに駆け寄ってくる。



「スティーブン、お姫様を連れてきたぞ」


「姉上……!」


「こうして対面で話せてよかった。セレニティを受け入れようと思う。そこでだ。初歩的な剣の手解きを頼む」


「俺が、ですか?」


「本当はアタシが指導したいところだが、明日からトリシャ王女と共に隣国に行かなければならない。帰ってきたらアタシが説明のためにシャリナ邸に赴こう。理由があればセレニティ嬢をネルバー公爵邸に呼べるだろう?」


「姉上、セレニティ嬢の前でやめてくれ!」


「ハハッ、恥ずかしがることはない。だが今からアピールしておかないと横から掻っ攫われてしまうぞ?フワフワとした甘さがあるが、芯がしっかりとしていて強かだ。この可憐さに惹かれる令息は多いだろうな」


「姉上……っ!」


「ははっ、すまない。だが事実だぞ。なぁ、セレニティ」


「……?はい、そうですねぇ」



二人が仲良さげに会話しているところは微笑ましいが何を話しているのかはよくわからぬまま、頬を赤くして慌てるスティーブンと嬉しそうに笑っているハーモニーを見ていた。



「スティーブン様、本日はお招きありがとうございます」



そう言ってセレニティはマナー講師に習った通り、ドレスの裾を掴んで挨拶をする。

ハーモニーは「……やはり可愛いな」と言ってまじまじとセレニティを見ている。

スティーブンは「素晴らしい挨拶だ」と褒めてくれたことにホッと息を吐き出した。



「ああ、よく来てくれた。みんな待っている」


「緊張しますわ。わたくし大丈夫でしょうか?変なところはありませんか?」



セレニティがそう言うと、二人は「今日は仲のいい友人しかいないから安心してくれ」「緊張することはない」と励ましてくれた。

ネルバー公爵邸の金色に輝く門を通ってスティーブンと共に赤い絨毯の上を歩いていく。


セレニティはそこで目を見開いた。

スティーブンの近しい友人というには豪華な人達が集まっていると想像していたが、目の前には錚々たるメンバーがいた。


まずは第一王女、トリシャだ。

ハーモニーの姿を見つけたトリシャ王女はヘーゼル色の瞳を潤ませて、プラチナブロンドの髪を揺らしながらハーモニーに突進するようにして抱きついた。

そんな姿が美しすぎて令息達が釘付けになっている。

彼女も親しい友人達の中で男性克服に向けて練習中らしい。


そして第二王子であるナイジェル。

癖のある金色の髪、ブラウンの瞳と目が合うとセレニティに向かって元気よく手を振っている。

スティーブンとは護衛として常に一緒にいるそうだ。

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