第43話

「スティーブン様は優しい方ですね。本来ならばこんなことをしていただける立場ではないのに……」


「……!」


「それとジェシーお姉様のことで大変ですのに、律儀に会いに来てくださって逆に申し訳ないですわ」



セレニティが困ったような笑みを浮かべてそういうと、足を組んで顎に手を置いていたハーモニーは真剣な顔でセレニティを見ている。

ハーモニーから感じる圧力と緊張感にゴクリと唾を飲み込んでいた。

本音で話したのだが、わざとらしく聞こえてしまっただろうかとハーモニーの言葉を待っていた。



「ありがとう、セレニティ」


「え……?」


「いや、スティーブンはこのことに大きな責任を感じていたんだ。それを放り出すことは絶対にしない。最後まで責任を取ろうとするだろう。セレニティが前向きにそう言ってくれてスティーブンも救われるだろうな」



ハーモニーの言葉にセレニティは頷いた。

姉としてのスティーブンへの思い遣りが伝わってくる。

するとハーモニーは一転して笑顔を見せた。



「この話題は一旦、終わりだ。スティーブンからセレニティが騎士に興味があると聞いたが」


「はい。わたくし、騎士に憧れております!体も鍛えられるのもありますが何より強くて美しいではありませんか……!」


「そうか、そうか!同じ女騎士として歓迎する。セレニティ、君とはなかなか気が合いそうだ」


「わたくしもそう思いますわ」



それからハーモニーは胸に切り傷があることを明かしてくれた。

目立つ位置ではないが、将来結婚する男性に見られるのだと思うとなかなか気が進まないと話してくれた。

それから令嬢としての振る舞いを押し付けられることが苦痛でネルバー公爵夫人から逃げるようにして騎士としての仕事をしているそうだ。



「ここまで育ててくれた母には感謝している。しかし母には申し訳ないが、私はドレスで着飾って男性に媚を売り、自分を押し殺してまで息苦しい世界にいたくないと思っている」


「まぁ!ハーモニー様らしい、かっこいい生き方を選択したのですね」


「……!」


「どうされましたか?」


「そう言ってくれて嬉しい。なかなか令嬢でアタシの考えに賛同してくれる者は少ないからな。まぁ、でなければ訓練を受けたいと言うはずはないか」


「わたくしも最近、変わり者の変人扱いですから、今更何を言われようとも動じませんわ。一度きりの人生ですから自分の好きなことをしたいと思うのです」


「ははっ、それもそうだな」



正式に言えばセレニティは二度目の人生であるが、こうして自由を手にした今、遠慮している場合ではないと思っていた。

一日、一日を大切に、貪欲に生きていきたい。

一度死を経験しているセレニティにとっては時間は有限なのだ。

桃華が手に入れられなかったものを全て手にしたい。

セレニティの心は期待で膨らんでいた。



「セレニティのためならば協力しよう。白百合騎士団には様々な理由で騎士になった女性が集まっているんだ」


「そうなのですね……!」


「これもネルバー公爵家に生まれた恩恵ではあるのだが、こうして大役を任せてくれている父には感謝している。我々は主に男嫌いの王女、私の幼馴染でもあるトリシャの護衛をしているんだ」



アーナイツ王国には二人の王子と一人の王女がいる。

一番上がベレット、アーナイツ王国の王太子だ。

二十二歳でもうすぐ婚約者と結婚するそうだ。

その次にトリシャ王女、大の男嫌いとして有名だった。

故にハーモニー達、珍しい女騎士団が重宝されている。


ナイジェルが一番下の第二王子でスティーブンと同い年というわけだ。

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