第41話
「ジェシーお姉様、今……マリアナに何か言いまして?」
しかしジェシーのマリアナに対する言葉に怒りが込み上げてくる。
セレニティから笑顔は消えてジェシーを睨みあげる。
怒りでむせかえるような花の匂いは気にならなかった。
たじろいでいるジェシーはセレニティの圧に押されて簡単に引いた。
「な、なによ……!侍女くらいでっ」
「わたくしにとってマリアナは大切な家族ですわ。それに許可なくわたくしの部屋に立ち入らないでくださいませ。では」
セレニティはジェシーの前で鼻を摘みながら扉を閉める。
これで意図が伝わったら苦労はしない。
「ほんと生意気……!傷もののくせに何よっ」と、セレニティを悪く言う声が次々と聞こえた。
今度はジェシーの言葉に不快感をあらわにしたマリアナが袖を捲ってジェシーの元に突撃する勢いだったが、セレニティがそれを止める。
マリアナの手を掴んで鏡を指さして「準備の続きをしましょう」と促した。
どうやらジェシーはスティーブンの言葉を無視してお茶会に強行するつもりのようだ。
(お父様とお母様の許可は……もちろん得ていないでしょうね)
両親の様子から、ジェシーの独断だと推察できる。
この社交界で身を引いていてばかりいては損をしてしまう。
結局は手に入れたものが勝ちなのはわかるが、思いやりや配慮を捨ててまで手に入れたものが果たしてどう自分に返ってくるのか……セレニティはそう考えてため息を吐いた。
貴族の令嬢はこのくらいのしつこさがなければならないのかと思いつつも、セレニティは鏡に映った自分の顔を見た。
数ヶ月たった今も、まだ傷はくっきりと残っている。
そんな様子を見ていたマリアナがセレニティに優しく声をかけた。
「大丈夫ですよ、セレニティお嬢様。スティーブン様がお嬢様のことを考えて用意してくださった場なのですから」
「えぇ、そうね」
セレニティの心臓はドキドキと音を立てていた。
小さなパーティーに出席していたものの、かけられるのは辛辣な言葉が多かった。
それから積極的に公の場に出ることはなかった。
マナー講師に半年間の間、一通り教わって「もう教えることはありませんわ」と、引き気味に言われてはいたが、実践するとなるとやはり違う。
今回もこのお茶会に合わせて復習したセレニティだったが、うまくできるのか不安がないといえば嘘になる。
(わたくし、スティーブン様のご友人達の前でキチンと振る舞えるかしら……いいえ、たとえ何を言われたとしても、強くいなければ)
セレニティが邸から出て、マリアナと抱き合って挨拶していると、まるで自分が主役だと言わんばかりにジェシーが玄関の前に立っている。
(厚かましいというか……この世界の令嬢は皆、こんな感じなのかしら)
ドレスで着飾っていてもセレニティの顔に残る傷を見てか、ジェシーが馬鹿にしたようにフッと息を漏らす。
両親もジェシーとは違い複雑な表情でセレニティを見ている。
本当に大丈夫だろうか、走り回らないだろうか……そんな心配が見て取れる。
しかしセレニティもさすがに公の場ではキチンと振る舞うつもりだ。
「セレニティ、誰でもいいから気に入られるように振る舞うんだぞ!?絶対にチャンスを逃すな」
「大人しく、淑やかになさい……!」
やはり以前のセレニティも感じていたことだが、シャリナ子爵達は上昇志向が強いからか、娘達を利用することしか考えていないようだ。
スティーブンと婚約してないセレニティに対して全く違う対応だ。
今回ばかりはスティーブンの友人といえば高位貴族ばかりだと思っているのか、周囲の令息達の出会いに期待しているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます