第40話
ジェシーは笑顔でスティーブンを送り出した後に、セレニティを思いきり睨みつけた。
しかしセレニティは怯むことなく、にっこりと張りつけた笑みを浮かべたままジェシーの目を真っ直ぐに見つめていた。
「あ、あんたのせいでスティーブン様を怒らせちゃったじゃないっ!どうしてくれるの!?信じられないわ」
「わたくしのせいでしょうか?」
「……っ、スティーブン様が怪我をさせたわけでもないのに、こんな風にセレニティに気遣うことないわ!スティーブン様は優しすぎるのよ!」
セレニティの件がなければ、スティーブンがこうしてシャリナ子爵邸に足を運ぶことは絶対にないだろうと思っていた。
しかし、そんなことはすっかり忘れてしまったらしい。
隣ではジェシーに同意するように母が首を縦に振っている。
「そうね。それにセレニティ一人では心配だわ。やっぱりジェシーも行くべきじゃないかしら」
「わたくしは大丈夫ですわ。お母様」
「スティーブン様にああ言われたら致し方ないだろう。セレニティ、くれぐれも粗相はしないようにしてくれ。走り回るのは邸だけにしてくれよ」
「はい、お父様」
母は心配そうだが、父はスティーブンの態度に思うところがあったのか、セレニティに注意をしつつ納得したようだ。
「──ちょっと!本当にセレニティだけで行かせる気!?ネルバー公爵夫人にもアピールできるチャンスだったのに……っ!わたしは絶対に行くから!それにスティーブン様に認められるチャンスなんだから逃せないわ」
しかしジェシーは両親が味方になってくれないことが気に入らないのか吠えるように暴言を吐き散らしている。
父は額を押さえて、母はジェシーの暴走に困惑気味だ。
ブツブツと呟きつつ、爪を噛みながらジェシーは去って行ってしまった。
しかしスティーブンに直接『セレニティだけ』と言われた以上、守らないわけにはいかないのだろう。
悩んでいる両親を横目に、セレニティも自分の部屋に戻るためにマリアナを連れて歩き出した。
──お茶会当日
セレニティはマリアナに髪を整えてもらい、久しぶりにドレスを着て支度を行なっていた。
小動物のような大きな目と優しい顔立ちのセレニティには可愛らしいドレスがよく似合う。
以前のセレニティが一番お気に入りのパステルピンクのドレスを着て、ふわふわに巻いた髪はハーフアップにして編み込んでもらった。
するとドタバタと慌ただしい誰かの足音が部屋の外から聞こえてきてセレニティは首を傾げた。
乱暴に開く扉とどこの舞踏会に行くの?というほどに着飾っているジェシーの姿がそこにはあった。
「ちょっと、まだ準備は終わらないの!?」
「ジェシーお姉様、何をされているのですか?」
「何って、お茶会の準備でしょう!?」
ここであえて「どこのお茶会ですか?」とは聞かなかった。
聞いても無駄だと思ったからだ。
(こうして人の意思や忠告を無視して自分本位に振る舞う人もいるのね……)
人の顔色を見てなるべく迷惑をかけないようにと気遣って生きてきた。
ジェシーのような人種を見ることが今までなかったので、セレニティは衝撃を受けていた。
こうしてみるとこの頃からジェシーの行動はめちゃくちゃであることがわかる。
スティーブンのことになると尚のこと、その傾向が強くなるようだ。
小説のセレニティはそんなジェシーに振り回されてしまった。
マリアナが匂いが入り込んでセレニティの気分が悪くならないようにと扉へ向かう。
「ジェシーお嬢様、セレニティお嬢様は準備がまだ終わっておりませんのでお部屋の外でお待ちくださいませ」
「わたしに指図しないで!生意気な侍女ね!クビになりたいの?」
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