第27話
「はい」
「どうした?まさか何かあるのか!?」
「以前も申し上げた通り、やはりセレニティ様の一番深く傷ついた目から左頬にかけての傷は残る可能性が高いです」
「…………っ」
医師のその言葉を聞いたスティーブンは悔しそうにしている。
セレニティよりもずっと悲しげだ。
そして手のひらを握り込んだあとにセレニティに視線を送ると真剣な表情で告げた。
「セレニティ嬢、心配しないでくれ。この責任はとるつもりだ」
「え……?」
「傷が残る以上、セレニティ嬢は俺がもらい受ける」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!スティーブン様、落ち着いてください」
「俺は落ち着いている」
この流れは小説の中でも見たことがあるのではないだろうか。
以前は両親から間接的に告げられたが、今は目の前でスティーブンはセレニティに婚約を申し込んでいる。
(レオン様をとるか、自由を取るのか……!)
どちらを取るのか究極の選択ではあるが、今のセレニティは自由をとりたい気持ちが強かった。
スティーブンと婚約してしまえば小説と同じ流れになってしまうし、素敵な恋の機会もなくなってしまうかもしれないと思ったからだ。
(どうにかしてスティーブン様の婚約の申し出を断らなくては……!)
ドルフ医師が包帯を巻き直しているため、動かないようにしながらもセレニティは唇を開いた。
「スティーブン様、そんなに気を使っていただかなくとも大丈夫ですわ。スティーブン様もわざとではありませんし、事故のようなものではありませんか」
「だが、顔に傷を作っては嫁ぎ先に苦労するだろう?」
セレニティは小説を読みながら気になっていたことがあった。
スティーブンがここまでの思いをしてセレニティと頑なに婚約と結婚をし続けた理由だった。
スティーブンの心境を語ったパートはなくハッキリと理由は明言はされなかったが、セレニティを想っていたのではないかという描写はいくつかあった。
しかしセレニティはずっとスティーブンを拒絶し続けていたし、いくらセレニティを愛していたって普通の人だったらとっくに心が折れてしまう。
罪悪感にしても、スティーブンの地位的やこの世界のルールを考えるとあまり必要ではない。
スティーブンは何故、自分の幸せを犠牲にしてまでセレニティを守ろうとするのかが気になっていた。
実際、セレニティも大好きなレオンに会うことではなく自分の幸せを優先している。
つまり今のセレニティにはスティーブンの気持ちが理解できなかったのだ。
「そうかもしれませんが……スティーブン様はそれでいいのですか?」
「……どういう意味だろうか」
「間接的に怪我をさせただけで、本来ならばスティーブン様がここまでしてくださる必要はありません。わたくしもスティーブン様を責めるつもりはございません」
セレニティがそう言うとスティーブンはこれ以上ないくらいに目を見開いている。
そしてそれはドルフ医師も同様だった。
「それなのにどうしてでしょうか……?」
「そ、れは……」
スティーブンの頬がほんのり赤く染まったような気がした。
セレニティが首を傾げて答えを待っていたがスティーブンは黙りである。
やはり理由もないのにスティーブンが苦しむ必要もないだろう。
セレニティは親切心のつもりだったが、スティーブンは何かを告げようとして口を開いて閉じてしまう。
両親からセレニティの様子がおかしいと報告を受けていたのか、ドルフ医師が「不思議な行動を繰り返していると報告を受けましたが……やはり頭を強く打ちつけたのですか?」と心配している。
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