第26話

「少し痛みますが我慢できないほどではありませんわ。腫れも引いたようですし。できれば包帯を替えてチェックしていただけますか?それと外に出てもいいか許可をいただきたいのですが」


「外……!?今、外に行きたいと言ったのですか?」


「ええ、わたくし外に出たいのですがマリアナがドルフ医師の許可がないと絶対にダメだと言うものですから……早く傷の具合を見てくださいませ」


「セレニティお嬢様、はしたないです」


「あら……そうでないと、わたくしはずっと部屋の中にいなければならないもの。そんなの嫌よ」



セレニティとマリアナの言葉を聞いて、スティーブンは呆然としている。

ドルフ医師は以前のセレニティを見ているからか驚いた様子はあるものの「わかりました」と返事を返す。



「それよりも折角足を運んでくださったのですからスティーブン様とドルフ医師に紅茶とお菓子の準備をお願い」


「かしこまりました。くれぐれも無理を言ってはなりませんよ!?」


「あらマリアナ、わたくしもそのくらいわかっておりますわ」



マリアナは心配そうに後ろを振り返りながら紅茶を取りに向かった。

セレニティはベッドに腰掛けるとドルフ医師に向かって顔を出して、早く包帯を替えてと言わんばかりに目を閉じて待っていた。

ドルフ医師はスティーブンとセレニティを交互に見ながら戸惑っている。

するともう一つの椅子に腰掛けたスティーブンは目を閉じているセレニティに語りかけた。



「セレニティ嬢、包帯を替えながらでいいから俺の話を聞いてくれるだろうか?」


「はい、もちろんですわ」



スティーブンとアイコンタクトをして確認を取ったドルフ医師はサイドテーブルに持ってきた木箱を広げている。

怪我の具合によっては外出許可が出るかもしれないと思ったセレニティは深刻そうに顔を歪めているスティーブンに気づくことなく期待に胸を膨らませていた。



「お茶会の件だが、本当に申し訳なかった」


「いえ、あれは事故ですから」


「だが……顔に傷ができてしまった」


「そうですねぇ。ですがスティーブン様が気に病むことではありません」


「……!?」



スルスルと包帯が外される感覚。

片目を塞がれていたからか眩しさを感じていた。

「目を開けて下さい」とドルフ医師に言われたセレニティは言われるがまま瞼を開いた。



「だいぶよくなっていますね。置いていった包帯も全てなくなっていますね」


「えぇ、マリアナにお願いしてドルフ医師の指示通りに汚れた包帯を替えておりましたわ」



以前は包帯を替えることなく抵抗していて傷が化膿してしまったが、やはりこまめに取り替えていたお陰で悪化することは防げたようだ。


するとスティーブンが今にも泣きそうな表情でこちらを見ていることに気づいてセレニティは驚いてしまう。

小説では淡々としていて冷たい印象で描かれていたスティーブンだが、やはりそれはセレニティ視点のものでまだまだ知らない一面がありそうだ。



「私の顔が見えますか?」


「えぇ、ハッキリと見えますわ」


「以前は腫れがひどくて見られませんでしたが、眼球は傷ついていないようですね」


「そうか……よかった」



セレニティよりもスティーブンが先に安心している。

ドルフ医師の言葉に焦ったりホッとしたりと、様々な表情を浮かべるスティーブンにセレニティは釘付けになっていた。

それから傷口を消毒してガーゼで膿を拭った。

いつもマリアナにやってもらっていることと同じだが、薬を塗る時に痛みを感じていたがグッと堪えていた。


(これも外に向かうためですわ……!我慢、我慢っ)


どうやら処置が終わりドルフ医師は傷の様子を見ているようだ。



「セレニティ様、スティーブン様……落ち着いて聞いてください」

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