第25話
ジェシーに聞けば手っ取り早いのだろうが、セレニティに隠そうとしていたあの様子では、その理由を明かしてくれることはないのだろう。
(やっぱり容貌が優れていらっしゃるのかしら……皆様、多感な時期ですものね)
小説にも美形だと描かれていた若かりし頃のスティーブン。
挿絵でもチラリと後頭部や横顔が見えていたがその横顔は麗しかった。
それを今から見られるのだと思うとワクワクするではないか。
(レオン様はとても端正な顔立ちをなさっていたけれど、どちらかといえば猫系の可愛らしい感じが強く出ていたわよね)
セレニティは可愛い系で目がくりっとしていて笑うと幼い印象を受ける。
そう思えばレオンはセレニティに似ているといえるだろう。
(そういえば、わたくし……レオン様の母親ということよね?ということはスティーブン様と結婚しないとレオン様は生まれないということですのっ!?)
そう考えてセレニティはピタリと動きを止めた。
推しであるレオンに会うためにはスティーブンと結婚して、尚且つ彼を自分が産まねばならないということに改めて気づかされたのだ。
(わたくし、どうすればいいのかしら……)
大好きな推しに会いたい気持ちと長年の夢や願いが叶いそうな今、どちらを選べばいいのか……セレニティは眉を顰めつつ困惑していた。
しかしセレニティの心は明らかに自由を選んでいる。
ずっと願っていた自由を手にした今、セレニティは誰にも止められない。
それにまだまだやりたいことがたくさん残っていた。
(……ごめんなさい、レオン様!)
複雑な心境のまま胸を押さえていたが、とりあえずはまだセレニティは十二歳である。
(考えても仕方ないことは考えない方がいい。こういう色恋事は時には流れに任せるのもいいって、ばあやも言っていたもの)
それにまだスティーブンに会ってもいないうちに自分の運命を決めてしまうのは早計だろう。
セレニティが外を見ながらボーッと考え込んでいると、扉をノックする音がしてセレニティは無意識に「……はい」と気の抜けた返事をする。
扉が開いてもセレニティの頭の中は今まで経験したことのない自由や恋愛、結婚のことで頭がいっぱいだった。
素敵な恋愛をしたい。けれど相手がいなければ成立しないし、一度も恋をしたことがない。
(悩ましいわ……)
考えていくうちに希望と背中合わせで不安もやってくる。
「セレニティ嬢?」
「…………」
「……セレニティ嬢?」
「不安ですわ」
「……!」
「わたくし、これから強く生きていけるのかしら。ましてや結婚なんて……」
「!?」
「ですが折角もらったチャンスですもの!頑張らないといけませんわね」
重たい考えを掻き消すように首を横に振って、脇を絞めて両手を握り腕を上げた。
未知のことは怖い。けれど今は素直に喜びに身を任せようと思った。
そろそろこちらにスティーブン達が来る頃だろうと、立ち上がって迎える準備をしようとした時だった。
振り返ると何故か気まずそうに頬を掻くドルフ医師がいるではないか。
その隣にいるバイオレットの瞳を大きく見開いている上品な青年を見てセレニティは口元を押さえた。
「あらまぁ……」
そしてセレニティはマイペースに頬を押さえながら首を少しだけ傾けた。
どうやら気づかぬうちにドルフ医師とスティーブンを部屋に招き入れていたようだ。
二人の後ろではマリアナが焦ったように身振り手振りでセレニティにアピールしている。
セレニティは気まずい沈黙の中、ベッドの前へ移動して静かに頭を下げた。
「申し訳ございません。少々、今後のことについて考えておりまして」
「いや……構わない。セレニティ嬢、具合はどうだろうか」
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