第24話

(随分と切り替えが早いのね……あんなにもスティーブンとセレニティを会わせることを嫌がっていたのに)


その逞しい行動力だけは見習いたいものだ。


阻止できないのならセレニティより目立ってスティーブンに気に入られればいい……そう思っているのが朝食の時に送られてくる視線で察することができた。

セレニティのお見舞いに来るのに気合いを入れるジェシーもジェシーだが、そんなジェシーの振る舞いも、スティーブンが来ることに興奮している両親は気づいていないらしい。


(貴族って本当に大変なのね……まぁ、わたくしの家もほとんど変わらないようなものだったわ。お姉様やお兄様は大変そうだったもの)


良い家に嫁ぐために己を磨く。家名に恥じないように能力が高くなければならない。

本来ならば桃華もそうしなければならなかった。

できることならば、自分もそうしたかった。

一人では何もできない虚しさといつも戦っていた。


ベッドに横たわっている桃華に唯一できること。

それは常に感謝して笑顔でいること。

苦しくても明るく振る舞うことだけだった。

それが健気に見えたのかもしれない。

両親は病弱な桃華を可愛がってくれたと思う。

しかし姉と兄にはとても厳しく接していた。

そんな桃華を見てどう思うのか……明白だろう。


(いつも笑っている能天気の役立たずと思われていたでしょうね……)


そんな桃華にも何か自分にもできることはないかと懸命に勉強をしていた時期もあった。

できるだけ知識をつけて、勉強をして、教養や愛嬌を身につけた。

父の会社の役に立とうとしても兄と両親に「必要ない」と否定されれば頷くしかなかった。

羨ましくて仕方なかった。

何も望まれていないと、そう言われているようだった。

しかし彼らは逆に何もしなくていい桃華を羨んでいたことだろう。

結局、役に立てるようなことは何一つしないまま病で死んでしまい、気づいたらセレニティになっていた。


笑顔で覆い隠して見えないようにしていた悲しみや苦しみは消えることなく心の中で燻り続けている。

しかし今回のことは願ってもないことだった。


(わたくしは神様にチャンスをもらったの……!以前、与えられなかったものをわたくしは得たのよ)


スティーブンの申し出を断り、傷ものと呼ばれて嫁ぐ場所がなくても、セレニティにはやってみたいことはたくさんあった。

もし修道院に行くとしても、厄介払いされたとしても、野垂れ死んだとしても、ずっと動けずにベッドの上にいるよりはいい。


ずっと恵まれた環境にいた。不自由なく暮らすことができたが体は病に侵され続けて、何一つ自由にできないままだった。

両親には心から感謝していたが、誰にも望まれず、期待もされることなく、何の役に立てないまま死んでいくのは二度とごめんだった。


(わたくし、今からどんな人生を送るのかしら……!)


そして何より素敵な恋をしたいと夢見ていた。

冒険やファンタジー、ミステリーやホラーも大好きだったが、なにより恋愛小説が大好きでずっと読み漁っていた。

この人のためならば何もかも捨てていいと思えるような恋をしてみたい…そう思っていた。


(ふふっ、楽しみ……!)


セレニティはマリアナとの会話を思い出しながら思っていたことがあった。

ジェシーはスティーブンの幼馴染、公爵令嬢のブレンダを通じてスティーブンに近づこうとした。

スティーブンには令嬢達がたくさん想いを寄せているらしい。


そして物語として楽しんでいた時には気にしていなかったが、ジェシーがなぜあんなにもスティーブンに執着しているのか理由が知りたいと思った。

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