第15話

すると不思議なほどに内容が一致していることに気づく。

やはり推していたレオンの母親であるセレニティになっているのだと思っていた。


長年、不自由な生活をしてきた桃華にとっては願いが叶ったといえるだろう。

セレニティの両親は最後まで首を捻りつつ、部屋から出ていった。


そして入れ替わるようにして入ってきたのは、小説でも終始不快感を与えられたセレニティの最大の天敵。

姉のジェシー・シャリナであった。



「セレニティ……?今、大丈夫かしら。お父様とお母様が不思議そうな顔をして部屋から出て行ったけど」



薄らと笑みを浮かべているジェシーを見て確信する。

しかしあえてセレニティも笑顔を見せた。

いつもとは違う反応を返したことが気になったのかジェシーは一瞬だけ真顔になる。



「ジェシーお姉様、ごきげんよう」


「……!?」


「どうかされましたか?」


「別に……なんでもないわ」



毎日毎日、地獄のどん底にいるセレニティに対して励ましの言葉をかけていたジェシーだが、スティーブンとの婚約話が持ち上がった途端に手のひらを返して攻撃的になる。

ジェシーを慕っていたセレニティにとっては悲しい出来事になってしまった。

心が弱っている時に裏切られてしまえば辛いだろう。

しかし、こうしてジェシーの表情を見てわかることはただ一つ。


(ジェシーはセレニティの不幸を間近で見たいだけ。キャサリンに近づいたことを考えると、セレニティが自分より幸せになるのは絶対に許せない……そう思っているのでしょうね)


本当に心配しているのは誰なのか、はたまた憐んでいるだけなのか、不幸を喜んでいるだけなのか……子供の時から色んな人達を見てきたからか、なんとなく理解することができた。

そしてジェシーは間違いなくセレニティの不幸を憐れむフリをして間近で喜んでいただけだ。



「セレニティ、どうかしたの?」


「何がでしょうか?」


「部屋も明るいし、なんだか……雰囲気が違うわ」


「ウフフ、わたくしにとって今日はとても幸せな日なのですわ」



そう言って返事を返すとジェシーは大きく目を見開いている。

セレニティは口元を押さえながらクスリと笑った。

するとジェシーは焦ったようにあることを口にする。



「さっきお母様とお父様に聞いたけど、今日は医師に傷が残ると言われたのでしょう?」


「えぇ、そうですね」


「……!?」


「それなのにどうして落ち込んでないの?と、言いたげな表情ですね」


「…………っ!?」


「違いますか?」


「なっ、何言っているのよ……そんなわけ、ないじゃない」


 

セレニティの言葉にジェシーは戸惑っている。


本来ならば大きなショックを受けて、学園に通うまで部屋に引き篭もるセレニティだが、こうして動き回れることを知った今、じっとしてはいられない。

それに小説の内容を知っているからといって、その通りに動く必要はなさそうだ。

『あなたの思い通りにはならない』『もう落ち込んでいる姿は見られない』とジェシーに知ってもらうためにセレニティは口を開いた。



「わたくし、これからはたくさんお外に行きたいと思っていますの!」


「なにを言っているの……?」


「うふふ、今から楽しみですわ」



ジェシーの口端がピクリと動いた。



「どういうこと……?セレニティ、あなた一体どうしちゃったの」


「何がでしょうか?」


「……だ、だって」


「ジェシーお姉様こそ、どうしてしまったの?」


「……っ」



セレニティの言葉にジェシーは明らかにたじろいでいる。

やはり今日もどん底にいるセレニティを見て励ましつつ、落ち込む姿を見て嘲笑いたいと思っていたようだ。

セレニティが自分より下にいるのだと、そう確認したいのだろう。

 

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