第14話
「…………。はい!?」
「わたくし、こんなに幸せでいいのでしょうか?ドルフ医師はどう思われます?」
「いや……あの、それは……」
ドルフ医師はセレニティの突然の問いかけに、どう答えればいいかわからずに戸惑っているようだ。
しかしセレニティはというと、この気持ちを誰かと分け合いたいという思いでいっぱいだった。
瞳をキラキラと輝かせながら手を合わせていた。
「あら、ごめんなさい。つい興奮してしまって!ウフフ」
「…………」
あまりのセレニティの変わりようにマリアナと同じようにドルフ医師も口をポカンと開けている。
ドルフ医師に「ほ、包帯を換えましょう」と言われてセレニティは「よろしくおねがいします」と言って、ドルフ医師の方を見て目を閉じる。
ドルフ医師は手際良く消毒をして薬を塗って包帯を巻き直す。
「終わりました」と、その声に瞼を開くと気まずそうに顔を伏せたドルフ医師がセレニティを見て暗い声で告げる。
「セレニティ様、お顔の傷は一生残り続けて治ることはないかもしれません」
「まぁ、そうですの。残念ですわね」
「お気持ちはわかりま…………え?」
「お力を尽くしてくださりありがとうございます。ドルフ医師には感謝しております」
「えっ……?セレニティ、様……ですよね?」
「わたくし、本当に〝セレニティ〟なのですね」
「???」
ドルフ医師は噛み合わない会話に終始、頭上にハテナを浮かべている。
セレニティは御礼を言ってドルフ医師を送り出した。
今のセレニティには顔の傷が残ってしまうことよりも、普通の生活を普通に送れることの方が重要だった。
包帯を換えてもらい、スッキリした状態で寝転んだセレニティだったが瞼を閉じてしまえば、夢が醒めてしまうのではないかと思い、なかなか眠れずにいた。
そしてドルフ医師から話を聞いたのか、慌てた様子でセレニティの両親が入ってくる。
「セレニティ!ドルフ医師から聞いたが……まさか、部屋のカーテンが開いているだと!?」
「それにマリアナから食事も完食したと聞いたけど……本当なの!?」
「えぇ、少々食べすぎてしまいましたわ。眠たくなってきたのですが、寝るのが勿体無いと思いまして頑張って起きておりますの」
「それに一生、顔に傷が残るかもと聞いたが……」
「えぇ、そうみたいですね。残念ではありますが仕方ありませんわ。それに今のわたくしには健康な体がありますから」
「「…………」」
「無敵ですわ」
うっとりと恍惚そうな表情を浮かべているセレニティを見た両親は顔を見合わせて驚いている。
「……ど、どういうことだ?目の前にいるのは誰だ?」
「セレニティ、よね?」
「えぇ、そうみたいです!」
「「???」」
「神様がわたくしにご褒美をくださったのかしら……とっても幸せ」
一日にしてどん底から天国にいるような感覚。
ご機嫌で体をくねらせているセレニティを見て両親は呆然としている。
セレニティの脳からはドバドバとアドレナリンが出ていて、両親の反応はどうでもよかった。
「一体、何が起こっているんだ……?」
「わからないわ。まるで元のセレニティに戻ったようね」
セレニティはマリアナに温かい紅茶を淹れてもらうと、カップを傾けながらホッと一息ついていた。
(こんな風に好きな時に好きなものを飲めて、大量のお薬も呼吸器も必要ないなんて…………夢で終わらせたくないわ)
セレニティの様子を見て絶句している両親を眺めながら「今日はいいお天気ですわね」「ところでわたくしは十二歳のセレニティ・シャリナであっていますでしょうか?」と、不審がられないように質問をして、自分が読んだ小説の知識として擦り合わせていた。
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