第16話
(セレニティが可哀想で惨め……そう思いたかったのね)
ジェシーはセレニティの言葉に咄嗟にどう反応すればいいのかわからないようだった。
「ジェシーお姉様、今日まで励ましてくださってありがとうございます。お姉様のお陰で、わたくしとっても元気になりました」
「そ、そう……でも昨日まで、あんなに落ち込んでいたじゃない……!いきなりそんなことを言うなんておかしいわ!何かあったんでしょう!?」
「えぇ、ですがジェシーお姉様には内緒です」
「!?」
ジェシーは戸惑いつつも笑顔を作って頭の中を整理するためなのか「また……来るわ」と言ってジェシーはフラフラと部屋を去って行った。
手を振ってジェシーを送り出したあと、セレニティはふかふかのベッドに寝転んで口元を押さえた。
「ふふっ……!」
自然と笑みが溢れていたセレニティだったが顔の左半分、包帯が巻かれている部分が痛みでズキズキと疼いていた。
王家のお茶会の日から、ほとんどベッドの上にいて体を動かさずに、食事をしていなかったセレニティの体には先程、がむしゃらに動いたことで疲れを感じていた。
以前とは違って息苦しさを感じることはないが、体のだるさと疲労感はしっかりと感じていた。
それに加えてお腹がいっぱいになったことで眠気が襲ってくる。
耐えていたが次第に瞼が重たくなっていく。
(ああ、神様……夢ならば醒めないで)
そう願いながらセレニティは眠りついた。
───次の日
セレニティが瞼をゆっくりと開くと、部屋は暗く真っ白な天井が目に入る。
(……やっぱり夢だったのかしら?)
しかし腕を持ち上げてみると骨張っていない小さな手のひらに気づく。
慌てて長い髪を掴むとピンクベージュの色が視界に入り、ホッと息を吐き出した。
顔の皮膚が引っ張られる感覚に顔を歪めたが、すぐに笑顔になる。
(夢じゃない……!本当に現実なのね)
セレニティは体を起こして地に足をついて、鏡を探すが昨日マリアナが鏡を片付けていたことを思い出して、カーテンを開く。
まだ外は薄暗く夜が明けていない。
窓を開けると冷たい空気が入ってくる。
しかしセレニティは窓を開けたまま、外の空気に触れながら呼吸を繰り返しては感動していた。
(朝だけど苦しくないわ!すごいっ、こうして思いきり息を吸ったり吐いたりしても咳き込まないなんて)
どのくらいそうしていただろうか。
日が昇り周囲がすっかりと明るくなっていた。
マリアナがノックをして部屋に入ってくるが、窓から身を乗り出しているセレニティの姿を見て「はやまってはいけません……!」と慌ててセレニティの体を掴む。
危うく外に落ちそうになったセレニティだったが、マリアナによって部屋の中へ。
セレニティが外を見ていただけで勘違いだとわかったマリアナはホッと息を吐き出していた。
この行動を見ていて思うことはただ一つ、マリアナはセレニティを心から心配しているということだ。
(マリアナを見ていると、ばあやを思い出すわ)
そう思いながらセレニティは「よかった」と安心しているマリアナの背を摩った。
「……ありがとう、マリアナ」
セレニティがあの時まで壊れなかったのはマリアナが最後まで寄り添ってくれたからだろう。
セレニティは朝食を食べて温かい紅茶を飲みながらマリアナと話していた。
「ねぇ、マリアナ……わたくし今日は外に行きたいと思うのだけど、いいかしら?」
「外、ですか!?」
「えぇ、ダメかしら?」
「セレニティお嬢様、傷のことはもう大丈夫なのですか?そんな急に外に出たら……私は心配ですわ」
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