21.煙
光「……これは、手厳しいですね。」
私がそう言うと、いつの間にやら萩山さんが降りてきていたようで、私に声をかけてくる。
天音「……当たり前でしょう、そう易々と反逆者を逃してしまうと、ペンタゴンとして示しがつかないですから」
光「……そうですか、仕方ありませんね。白雪さん、目を閉じていてください。」
貉「……あ?」
私はその瞬間、研究所内の電灯全ての輝きをこれでもかというくらいには上昇させた。
光「……それでは皆さん、さようなら。」
そして、彼らがその輝きに目を閉じている間に……その場を退散した。
……さて、そこから私はどれくらい走ったでしょう。生憎運動は苦手なもので、息も絶え絶えになりながら、私は遠く離れた……いや、遠く離れたとは言っても、隣の市程の距離ですが。
光「……ふぅ、ここまで来れば追っては来れないでしょう……そろそろ異能力を解いてと……疲れましたね……」
……腕時計を見ると、既に時刻は日を跨ぎ、午前零時三十四分を指していた。
光「……さて、どうしましょうか。だとしても追手が来るのは時間の問題でしょうし……」
下げた首を上げ、辺りを見回してみると、公園が目に入った。
暗闇の中で、いくつかの少ない電灯に照らされている公園だった。
光「……少し、休んでいきますか」
私は公園の方に向かって歩みを進めた。
暫く歩いて公園の中に入ると、丁度よさそうなベンチが見つかった。
光「……ふぅ、少しは休めますね、これで。……しかし、どうしたものか……もう数時間後にはもう一度あの場に向かわなければなりませんし……どう勝ちましょう、あの人たちに」
そうやってベンチに腰をかけ、虚空に向かって独り言を呟いていると、少し焦げ臭い……これは、煙草でしょうか?
そんな匂いがして……私はその匂いがした方向を向いた。
そこには、煙草を吸っているスーツ姿の男がいた。
……こんな時間に?暗くてあまり姿はよく見えないが……恐らくサラリーマン、でしょうか?
……残業帰り、と言うやつなのでしょうか。私は経験したことがありませんから、あまり分かりませんが……
そんなことを考えていたら、男が口から煙草を離し息を吐くと、声をかけてきた。
???「……さっきからジロジロと、なんだ?」
男は、威圧的な口調でこちらに声をかけてきた。
光「あ、いえ……こんな時間にサラリーマンが一人でこんな所にとは、珍しいと思いまして」
???「……確かに、そうかもしれないな。でも、俺は……サラリーマンではない」
彼がそういうので、不思議に思い質問した。
光「……?では、何をされているんですか?こんな時間に一人で公園とは」
???「……その言葉、そっくりそのままお前に返すが」
光「……確かにそうですね……私は……逃げてきた、とでも言いましょうか。諸事情ありまして。」
そう答えると、彼は言葉を返してきた。
???「……そうか。俺は……ちょうど仕事を終えて、少し一服している所だな」
光「……そうなんですか。お聞きしますが、どんな仕事を?」
???「……そうだな、言うなれば……何でも屋、か。」
光「何でも屋、ですか?」
???「……あぁ、文字通り、依頼されたことを何でもやる……そんな仕事だ」
光「……なるほど、例えば……人殺し、なんかでもですか?」
そう私が聞くと、彼は険しい顔をして答えてくれた。
???「……そう……だな。依頼されれば、だが」
光「……へぇ、そうなんですか……そんなこと、私に教えてよかったんですか?」
???「……聞いたのはお前だろう?それに……お前も同類に見えたからな」
……雰囲気が変わった。
同類、という言葉が、お互いに何を意味するか理解していたからだ。
ベンチから腰を上げて、改めて彼を見る。
光「……よく分かりましたね、だとして……教えた意味は?」
???「……お前からも、その力で他人の命を奪った匂いがするんだよ」
光「……なるほど、お互いに人殺しである……そうなれば、隠す意味は無い、ですか。」
???「……そうなるな。で、どうする?」
光「……ここで殺し合うんです?あまりに無駄でしょう。それに、お互い危害を加えるつもりが無いことくらい、最初から分かりきっているはずですよ」
彼が私のその言葉を聞くと、スーツの胸ポケットから新しい煙草とライターを取りだし、再び煙草を吸い始めた。
???「……ふぅ、そうだな。むしろ、これからは同類として仲良くしたいものだ」
光「……へぇ、それが本心かどうかは兎も角として、私もそういうことなら喜んで受け入れますよ。……光、敷山光です。よろしくお願いしますよ」
???「……光、か。俺は……シューク、シューク・モークロウだ。よろしく頼む」
そう言って彼……シュークさんは再び煙草の煙を吹かした。
光「……おや、外国人の方でしたか。日本語があまりに流暢なものですから、てっきり日本人かと」
シューク「……まぁ、こっちに来て随分と経つからな。それなりに日本語には慣れたつもりだ」
光「なるほど……そういえばシュークさん、そろそろ帰らなくても大丈夫なのですか?もうすぐ一時になってしまいますが」
シューク「……確かに、もうそんな時間か。じゃあ俺はここらで帰らせてもらうか……じゃあな、光。お互い頑張ろうぜ」
光「……ええ、勿論です。それではまた。」
そう言ってシュークさんは歩いていった。
……さて、シュークさんも行ってしまいましたし……
あとの時間をどう潰しましょうか……
行くあてもありませんし……あと三時間ですか。
困ったものですね……
暇を潰せるようなものなんて持ち合わせておりませんし……
……本当に、どうしましょう?
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