20.ペンタゴン②

……最初に口を開いたのは、萩山さんだった。


天音「……分かっているのですか?その言葉の意味が。」


光「……分かってもいないのに、言うような人間だと思うのですか?」


萩山さんは少し考えたような素振りを見せて、再び口を開いた。


天音「……分かりました。では最期に理由だけ教えていただいても?」


光「……いいでしょう。見つけたのですよ、私が真に仕えるべき輝きを。」


天音「……そうですか。分かりました……では、今から地獄に堕ちるお覚悟を、どうぞ。御三方は、下がっていてください。今から、八寒地獄、その第六……嗢鉢羅とここを繋げます。」


辺り一帯が冷気に包まれる。萩山さんの異能力がその片鱗を見せ始めた合図だ。

そしてそれと同時に、部屋から残りの三人は退避した。

萩山さんの異能力は……現世と地獄を繋ぐ門を生み出す異能力。


光「……実に厄介、ですね。」


天音「そんなに悠長で良いのですか?本来なら八寒地獄の第一……頞部陀から味わってもらうことになっているのですが……貴方には特例処置です。」


光「八寒地獄における第六の地獄……嗢鉢羅地獄、ですか。どんなものか聞かせていただいても?」


天音「いいでしょう、冥土の土産です。嗢鉢羅地獄……その寒さで、全身が凍傷を起こしひび割れ……青い蓮のようにめくれ上がってしまう。それ故、青蓮地獄、などとも呼ばれますね。」


光「……そうですか、ありがとうございます。では私はこれで。」


私は窓を開けて、そこから飛び降りた。


天音「なっ!?ちょっと待ちなさい!地獄と現世を繋げるには少々時間を要すと言うのに……あの男!」


天音が地獄への門を閉じると、部屋に梓忌が戻ってくる。


天音「……屍哉さん。すいません、逃がしました」


梓忌「……そうかな?三角くんは兎も角、あの女……白雪くんはあの男を逃がすとは思えないがね」


天音「……それは?」


梓忌「……なに、窓から下を見てみればわかる。」


そう言って、天音と梓忌は光が飛び降りた窓から顔を出し、下を覗き込んだ。


……私は窓から飛び降りてすぐ、空中で静止した。

まるで私にかかっている重力が無くなったように。そう、かかっている重力が、無くなったのだ。


光「……先回り、ですか?白雪さん。随分性格が悪い。」


私の予想通り、下を見るとそこには白雪さんが不敵な笑みでこちらを見つめていた。


貉「……よぉ、簡単に逃がす訳ねぇよな?久しぶりの獲物なんだ」


光「……獲物なら、なんでも良いのですか?」


貉「……あ?どういうことだ?」


光「……私は、新たに仕える人を見つけた、と言いました。明日の早朝四時、その人と仲間たちが、ここに襲撃を行います。」


貉「……へぇ?」


光「……獲物が欲しいなら、そこまで待つべきでは?」


白雪さんは少し考えたあと、口を開いて告げた。


貉「……分かったよ、じゃあ殺すのはその時だ。覚悟しとけやクソ野郎」


光「……話がわかるようで助かる。それでは。……おや?なぜ二人してこちらを見ているのですか?」


天音「……白雪さん。ここで逃がすつもりですか?」


梓忌「……それは、利敵行為となるが。」


貉「……っせーな、私は獲物が大量に来る方が楽しめんだ、口出しすんな」


天音「……それでも、その行為は理解できかねます。」


そんな会話をしていると……何処からか、私に向かってミサイルが飛んできた。


貉「っぶねぇ!」


その瞬間、白雪さんが私にかけていた反重力を解除し、地面に下ろしてくれた。そのお陰で、ミサイルは宙を切り裂いて、どこかへ飛んでいってしまった。


光「……これは」


貉「……あのさぁ、私の楽しみの邪魔してんじゃねぇよ、沙織」


そこには、全長約4メートル程のサイズをした、白い人型の機械の肩部に座っている三角さんが居た。

そう、あの機械が……三角さんの異能力だ。


沙織「……でも、ここで止めなきゃ、ダメ、じゃないですか……!」


逃げたい私と逃がして獲物を増やしたい白雪さん、それを止める残りの三人……

二対三の構図が、ここに生まれたようですね、さて、どうしたものか。

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