オサムの成長 その③

戸塚オサムの決心。

 二学期の始業式を終えたオサムは、早々に帰宅していた。


 夏休み最終日のド深夜に開かれたJK組送別会は、学生としてあるまじきことに明け方にまで至ったのである。


 オサムは、タクシーに同乗して各人を家まで送り届け、怒り心頭となっていた家人への偽証行為は天王寺キララに頼んだ。


 キララの祖母が急病で倒れて云々という、朝帰りの理由としては意味不明だったのだが、元アイドルブランドが功を奏したらしく不問とされている。


 その後、キララと共にボロアパートへ帰り、着替えてから学校へ直行――ということで寝る間も無かった。


「うむ――ようやく、読める」


 オサムは、丸いちゃぶ台の上に、「身上調査票」と記載された書類を並べながら呟いた。

 睡眠を取るよりも、フェーズ4を優先したわけである。


 身上調査票には、女子のプライベートな情報を得るため、オサムの厳選した設問が並んでいた。


 家庭環境から性的嗜好に至るまで、凡そ普段は口にしないであろう事柄ばかりである。


 だが――、


「ううむ」


 最重要ターゲットであるクラリスの身上調査票を最初に開いたのだが、初っ端からオサムは頭を抱えてしまった。


「――読めん」


 泥酔状態で記入したせいか、ミミズがのたくったような文字が並んでいる。後は、やたらと💕が落書きされていた。

 

 仕事で飲み、送別会でも飲んでいたキャバ嬢組は、全て似たようなものだ。ひょっとしたら、オサムのジョークか何かと考えたのかもしれない。


「ほう、これは読み易いな」


 双葉アヤメは、几帳面な字でびっしりと記入していた。真面目な性格が祟り、怪しいアンケートにも律儀に答えるタイプなのだろう。


「だが――どういう意味だ――?」


 性的嗜好に関する回答欄は空白になっているのだが、なぜか枠外に水筒のイラストが書かれていた。


「――絵が上手――と主張したいのか」


 明日、イラストを称賛して会話の糸口を掴むかと考えたのち、一度告白して振られたことを思い出す。


 ――時間の無駄だ。止めよう。


「ふむ、こちらも大丈夫だな。やはり酒が入ってない方が良い」


 白鳥ミカも割とマジメに回答している。意外に優しい彼女は、心の病人を刺激せず労わろう考えていた。


 なおかつ全てを明け透けに書いており、オサムは大いに好印象を抱いた。


「優しくする。浮気をしない。力持ち」


 記載内容を総合すると、前述の三要件を満たすのみで落とせそうである。問題となるのは、彼女が巨乳ではなく並の乳という事実だけだ。


 ――いや、待てよ。


 再び、オサムは身上調査票に目を落とした。


 服の上からは並に見えるが、記載されたスリーサイズが正確なら、平均を僅かに上回っている。


 平均より僅かに上 = 低ランクの巨乳。


 とも、言えるだろう。


 ――盲点だったが、これが正解なのかもしれない。


 そう自らを納得させたオサムは、白鳥ミカに告白すると決心した。


 ――告白する手段と場所について検討しないとな。


 残る身上調査票は天王寺キララのみなのだが、閾値を調べるまでもなく彼女は巨乳ではないし、オサムの関心事はミカへの告白方法へと移っている。


 見る必要もないか思い、身上調査票をまとめて押し入れに仕舞ったところで、部屋のインターフォンが鳴った。


「オサムきゅ~んっ」


 毒液でオサムが倒れた際に合鍵を作っていたキララは、オサムの返事も待たずにドアを開けて室内へ飛び込んで来た。


 肩に下げたエコバックから、青ネギの頭が飛び出している。


「ご飯、作りに来たよぉ~💕」


 ◇


「美味しい?」

「実に、美味い」


 オサムは世辞など言わない。


 少し前から、キララが夕食を作りに来るようになっているのだが、見事な腕前を披露してくれていた。


 金に困っており、弁当と夕飯を作るので食費を出してくれと彼女から頼まれたのは、林間学校から戻って直ぐのことだ。


 だからこそ、JKを使うというリスクを背負いながらも、彼女たちをバイトとして雇ったわけである。


「良かったぁ。い~っぱい食べてね」


 キララが幸せそうに微笑みながら言った。


 その表情を見て、自分の中で何かがチクリと痛んだことにオサムは気付いたが、初めて味わう感覚だったためか理由は分からなかった。


 その不思議な感覚を飲み下すため、オサムは口いっぱいにご飯を詰め込んでいく。


「あ、そうそう、オサムきゅん」

「(もぐもぐ)?」

「二年の二学期といえば、修学旅行でしょ」

「(もぐもぐ)」


 そういえばそうだったな――と思いながらオサムは頷いた。


「勿論、キララも行くからねっ💕」

「(もぐもぐ)??」


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きゅんきゅんっ。

勉強シーンゼロで、修学旅行編へ!!

ぜ、せったいに、ゴク飲みさせるぞおおおお。


 

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