オサムの成長 その①

戸塚オサムの決心

 戸塚オサムという個体が誕生した場所は、国連常任理事国である某国研究機関の試験管の中である。


 遺伝子コーディネイトと、非人道的な人体改造、さらには徹底した管理教育によって、あらゆる過酷な任務に耐える人材として育成された。


 政情が不安定な第三世界における某国の利権を守る要員とするためだ。


 完成品となったオサムは現場へ派遣され、同じ境遇の仲間たちと幾多の修羅場を経験している。


 だが――、


「どうも、順調とは言い難いな」


 ボロアパートの一室で、オサムがポツリと呟く。


 ――オサム――ここを出て――おっぱいの大きなカワイイ彼女を作れ……。


 実にくだらないうえ、その理由も分からないのだが、大切な友の遺言である。


 オサムは友の遺言を果たすため、とある組織の協力を得て某国を脱出した。


 遠く離れた国――日本へ。


 逃亡先を日本とした理由は、オサムの精子提供者が日本人だったという点が大きい。


 頬に大きな傷があるとはいえ、白人と黒人が多い某国で暮らすよりリスクは減るだろうと考えたのだ。


 身許の偽造は万全だが、オサムは某国エージェントに追われる身である。


 ともあれ、日本に来て二年近くが経過していた――。


 ◇


 既に百名に告白して、全て失敗している。


 学校だけではなく、近所のコンビニから飲食店まで、おっぱいが大きく妙齢の女性に対して残らず告白をした。


 聖水を飲むまでの一週間、謎の体調不良により活動を阻害されたが、明日からは再開できそうだと考えている。


 ――とはいえ、同じことの繰り返しになりそうだな。


 付き合ってくれ → イヤです。


 このループである。


 さすがの戸塚オサムも、自分には根本的な問題がありそうだと気付き始めていた。


 ――やはり――顔か――。


 研究所は個体に対して遺伝子コーディネイトを施すが、ルックスについては全く重視していない。

 

 そのうえ、彼の頬には大きな傷跡が残っている。

 良く言ってフツメン――いや、フツメン未満だろう。


 ――治すのは嫌だしな。


 オサムは、頬の傷痕を自分を戒めるために残しておきたかった。

 

 つまりは、自分勝手な願いだが、現在の風貌のまま受け入れてくれる巨乳女子を必要としているのだ。


 ――なお、もうひとつ問題がある。


 一年間、学校で観察と統計を取った結果、彼女を持っている男の多くは、同性の友達が多いというデータを得ていた。


 ――ボクには誰も友達がいない。


 そのため、毎朝元気に挨拶をしているのだが、誰の耳にも届かない――というより不気味に思われている。


 表面には出していないが、彼も少しばかりへこみ始めていた。


 ――どうするか……。


 悩みつつも、パラパラと学校のプリントを眺めていた時に、ハタと閃くものがあった。


 林間学校である。


 これだ――とオサムは思った。


 日常と異なる場所は、新たな人間関係を構築するチャンスである。


「よし決めたぞ。まずは男友達を作ろう!!」 

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