第26話 アドレアの洞窟

 スマホを胸ポケットに入れてカメラの部分だけを上から出るようにしてる。


 それで動画撮影を始めた。


 アドレアの洞窟を


【フェイトブレイク】で攻略する。


 この武器はほんとに人気が高い武器だ。

 シリーズ通して人気投票を行ったことがあるという話を聞いたことがあるがこの武器はぶっちぎりのナンバーワンを取っていた。


 まぁそれもそうか。

 1ではこの武器を入手するときの演出が……って俺はひとりでなにをベラベラと考えてるんだろう。


 でも、オタクあるあるな気はする。

 早口でベラベラ喋りたくなるんだ。


 アドレアの洞窟はそんなに大きなダンジョンではない。


「まさか、この武器でここに来れることになるとはなぁ」


 感慨深い。


 2以降ではゴミ、店売りの木刀の方がマシという評価を下された武器だからだ。


 俺はそんな武技を持って歩いてた。


 すると、かすかに感じるのはモンスターの気配。


 俺は別に探知が優れてる、とかってワケではないけど。


 ゴブリンの吐息くらいはたまに聞こえたりするわけで、現にほら。


「ギィィィィィィィ!!!!!」


 岩陰から飛び出してきたゴブリン達を。


「フェイトブレイク!」


 原作にあった掛け声と共に俺は剣を振った。


 ズパーン!!!!!

 ゴゴゴコゴゴゴ!!!!!!


 原作にあったようにフェイトブレイクから斬撃が飛んでいったのはいいんだけど。


「おぉ……まじか……」


 さすが1仕様のフェイトブレイク。

 斬撃は止まることなく進んでいってダンジョンを抉りとってしまった。


 ダンジョンの中に新しい道ができてしまった!


 それにしても、俺はフェイトブレイクを見た。


「まさか、こんな形で夢が叶うなんて思わなかったな」


 俺はいつか1仕様のフェイトブレイクと一緒にいろんなシリーズを回ってみたいと思ってた。

 でもそれは結局叶うことは無かったんだけど。


 俺は今そんな願いを叶えることが出来ていた。


「くぅぅぅぅぅぅ……」


 まじで感!極まりますわ!


 俺の穴は、最高だ!!!!


 そう叫びたい衝動を我慢しながら俺は道を歩いていく。


 すると地底湖に着いた。


 ポチャーン、ポチャーン。


 地底湖の天井から湧き水か?なにかは知らないけど垂れ流れてるような地底湖。

 そこには


「グルルルルル……」


 ザバアァ。


 水の底から出てきたのはドラゴン。

 全長10メートルくらいの巨大なドラゴン。


 こいつが今回倒すべき敵。

 本来であれば2をクリアした後に倒すモンスターだけど。


 俺は強くてニューゲームのままここに立ってる。

 キュイーーーーーーーーン。


 そんな効果音を鳴らしながらドラゴンは口の周りに気流を作り出していた。

 この後の行動を俺は知っている。


「ブレス、だろ?」

「ガァァアアァァァアァァァァ!!!!!!」


 溜めたエネルギーをブレスとして吐き出してきたドラゴン。

 そのブレスに俺は剣の先を向けた。


 すると


 シューーーーーーン。


 と掃除機がゴミを吸い取るように、剣はブレスを吸い取ってしまう。


「ゴアッ?!」


 それを見てビビっているドラゴン。


「最初で最後のフェイトブレイクだ。良かったな?ドラゴン」


 お前を討伐するのはシリーズの原点にして頂点と呼ばれてきた武器だ。


「錆になるのは光栄なくらいだろ?」


 俺は剣を振った。


「返すよ。お前がくれた、この力」


 フェイトブレイク……この武器にできないことは無い。

 例えば吸い込んだ今のブレスを、もう一度こうやって吐き出して


「ゴアッ……」


 ドラゴンにそのまんま跳ね返すこともできる。


 ユラッ。

 ドラゴンは飛んでいたそのバランスを崩してユラユラと落ちていき。


 ザバァァァァァァァン。


 地底湖の中に沈んでいった。

 それを見ていると、ドラゴンは光になって消滅していって。


 ポトッ。


 ドラゴンの代わり、というように俺の目の前に赤い宝石が落ちた。

 その宝石の中では炎のようなものが渦巻いてる。


 これがドラゴンの落とす宝玉で


【アースフレア】を覚えられるアイテム。


 俺はそれを確認して、カメラにめっちゃ映しこんでから動画撮影を終えた。


 めっちゃウザく見えるだろうけどわざとそうした。


 ソシャゲでSSR出たら自慢したくならない?

 それと似たような感覚で自慢しました。

 言葉には出さないけどね?

 俺だけ手に入るとか自慢したくもなるよね。


 てかそもそもフェイトブレイクが強すぎるんだよなぁ。

 でも、やっぱこれくらい強くないとな!



 予定よりアドリアの洞窟を攻略できた。

 本当は一日くらいかかるかなぁとか思ってたけど


(たぶんモンスターがビビってたよなあ、あれ)


 この世界はゲーム世界だけどゲーム世界じゃない。


 どちらかと言えば現実世界よりの場所だ。


 つまりモンスターよプログラムで動いてるわけじゃなくて、彼らも怖いとか生きたいとか思うんだと思う。

 その結果俺に襲いかかってこなかった。


 たぶんフェイトブレイクを持っているからだと思う。

 この武器は本当に強いからね。


 まぁ俺も思うよ、無駄に命を散らさなくていいじゃんって。

 勇敢と無謀は違うってさ。


 ま、そんなこんなで半日くらいで帰ってこれたんだけど。


 俺がヨワール学園の庭園を歩いていたときだった。

 前からゾロゾロと人が歩いてきた。


 そいつらを避けるために横に移動したんだけど、


「なぁ、君」


 声をかけられたようで顔を上げると、そこに立っていたのは今日食堂でアンリに婚約破棄って言ってた皇太子とかって呼ばれてたやつだった。


「なに?」

「今僕はムシャクシャしててね」


 そう言って周りの人間に指示を出して俺を囲ってくる奴ら。


 はぁ……。

 さっきアドレアの洞窟でドラゴンを始末してきた俺の敵じゃないって言うのにな。


「やめておいたほうがいいよ」


 俺はそう言って間を通り抜けようとした時、手を伸ばされたのでその手を掴んでへし折った。


「あがぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


 その場にのたうち回るひとりの男。

 その後にもうひとり来たけど足を蹴ってやると変な音が鳴ってその場に倒れた。


 最後に皇太子を見る。


「今なら見なかったことにするけど」

「ほ、ほざけぇ!」


 顔を殴りつけるとその場で一回転して頭から落ちていった。


「だから言ったのに」


 周りには誰もいないから今のは見られていない。

 だが、見つかるのは時間の問題だろうし俺はさっさと食堂の方に向かっていくことにした。


 一応俺が攻略を終えたら食堂で落ち合うことにしてたんだけど。

 既にエルーシャたちが座ってた。


「お、お疲れ様」


 俺は声をかけながらルゼルの隣に座った。

 聞かなくても結果なんて分かるけど、聞いておくことにする。


「勝てたかい?」


 ルゼルの頭を撫でながら聞いてみる。


「ば、ばっちりです。ヨワール学園代表に決まりましたよ、私はなにも出来ませんでしたけど……そのイキシーさんが強くて」


 まぁ予想していたことではある。


 イキシーに目をやると彼女は目を瞑ってこう言ってきた。


「ふん。ヨワール学園の戦力を考えれば私たちがヨワール代表として出ることなど100%決まっていたことだがな。こんなものできて当たり前だ」


 そのセリフを聞いて俺はルゼルに聞く。


「ルゼル?録画はまだしてる?」

「い、一応してます」

「よし、いい子だぞ!」


 俺はそのままイキシーに話しかける。


「イキシー?対抗戦は誰が勝つと思う?」

「私を置いて他にいないだろう。私の分析した情報によると勝率は優に100000%。絶対に負けん。私が負けるなどありえない」


 そう言って珍しく表情を変えている。


 初めて見たなー。イキシーが表情を変えるところ。


(あとでヨーチューブにイキるイキシーってタイトルで投稿しておこう)


 あ、もちろん流石に投稿していいかの許可は貰うけどね。


 アンリはよく分かってなさそうな顔をしていたが俺は彼女にひとこと謝ってイキシーたちを連れて日本に帰ることにした。


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