第25話

 イキシーのゲームプレイを見てた。


「……」


 カチッカチッ。


 ずっと無言でモニターと睨めっこしてる。


 俺とルゼルはイキシーの左右に椅子を置いてその必死のゲームプレイを見てた。


「おなかすいたな」


 そう言ってイキシーは部屋を出ていったけどすぐ戻ってきた。

 手には電気ポットと何個かのカップラーメン。


 それを見て思った。


(こいつ廃人になるわ。部屋に引きこもる気満々だ!)


 そろそろドクターストップといこう。


「イキシー」

「ん?」

「2は実際に自分で言って結末を見て見ないか?」

「そういえばフブキは2の世界にも入れるんだったな」


 そう言って立ち上がった。

 それから俺の両手を握って話してくる。


「私と一緒に対抗戦を優勝しよう」


 この子、やる気なさそうに見えるけど、実はやる気満々なようである。


「フブキは素晴らしい。ゲームファンとしてゲームの中に自由に出入りできる能力というのは本当に素晴らしい、と私は分析した」


(どっぷりゲームにハマったなぁ)


 それにしても異世界人がここまで現代に染まると思わなかったな。


 そう思いながら


(異世界が見たい2)


 そう願うと穴が開いた。


 穴が繋がる先は俺の希望としては


「ヨワール学園でどうかな?」


 ヨワール学園。2の世界で一番弱いドンケツの学園だった。


「私もそう思っていたところだフブキ。ヨワール学園で構わない」


 そう言って部屋にかけてあったローブを羽織るイキシー。


「とうっ!」


 穴に向かってダイブしてたけど、ガツン。


「入れないぞ」


 俺はイキシーに説明してからルゼルに目を向けた。


「ルゼルも行こっか」

「はい!」


 そうやって入ろうとしたところだった。


 バタン!


「待て!私を置いていくな?!フブキ殿ぉぉ?!!」


 聞き耳を立てていたのかエルーシャが部屋に入ってきて俺たちを押し込むようにして一緒に穴の中へと落ちていくのだった。


 しばらくすると俺たちは2の世界に入った、んだけど。


 ドサッ。


「いててー」


 顔を起こすとエルーシャがとりあえず謝ってきた。


「みんな、すまない。勢い余って押し込んでしまった。しかし何故私に話をしてくれなかったんだ?」


そう聞かれてイキシーが答えた。


「枠がないんだよ。あなたの分の。ここからのイベントは4人一組で行われる。5人でパーティを組むのはあなたたちの世界の決まりであって、ここは4人」


(さすがゲーム廃人。もうそこまで理解してらっしゃるのか)


「でも、私たち4人じゃないか」


エルーシャに答える。


「ごめん、エルーシャ。もう1人の枠は決まってるんだ」


この世界の大会ルールにこういうのがある。

一人は絶対に学園の生徒であることが義務付けられている。


残りの三人は部外者でも構わないが……絶対にひとりだけは学園の生徒でないといけない、というもの。


だから俺たちは3人で組めるけど、残り1人をこの世界で探す必要がある。


「2,2で別れよう」


そう言ってくるエルーシャだけど、この後の流れを知っているイキシーが首を横に振った。


「論外だ。それなら私が抜けよう。私は日本に帰ってゲームがしたい」


それも論外だ。


なんのためにお前をここに誘ったと思ってる。

イキシーちゃんが廃人にならないためだよ!


「ワガママばっかり言ってごめんなさい。頑張ってお友達探してきます」


とぼとぼと歩いていくエルーシャ、見てられなくなった俺はエルーシャに言った。


「エルーシャ。一応補欠がある。その枠でもいい?」


そう言うと俺に向かって走って飛びついてきた。


「フブキ殿だいすきー!!!!」



ヨワール学園は一般解放されてる。

食堂の利用客とかもいるし、なにより、多くの生徒に対抗戦に参加して欲しいと思っているからだ。


部外者立ち入り禁止だと実質学園の中から探せとなってしまうから。


とは言え、部外者も誰でもいいというわけではなく年齢制限がある。本来なら学生であるくらいの年齢の者という条件。


とりあえず食堂に向かってみる。

俺達も何も食べてないしなにか食べながら話そうということだったのだが。

そうして食事をしていると。


「い、今の言葉はほんとうなんですの?!答えてください皇太子!」


突然声が聞こえた。

そちらに目をやると。


巻き髪ツインテールの女がそう叫んでいたようだった。


見た感じ、あぁ、言葉にするとこういう表現が一番伝わりやすいかな。

悪役令嬢みたいな見た目をした女の子だった。


そして、その令嬢に対して前に立っている金髪の男が口を開いた。


「君が僕の幼なじみのビーチの悪口を言っていたと聞いてね。婚約破棄をさせてもらうよ」


男は隣にいる性格の悪そうな女を抱き寄せながらそう口にしていた。


それからもちょっと会話が続く。


「皇太子?!では次の対抗戦はどうすれば?」

「もちろん、君とは出ないよ。頑張って組んでくれる人を探すことだ。君みたいな性格の悪い女と組んでくれるやつはいないだろうが」


それから男は幼なじみと一緒にたくさん悪役令嬢(仮)をケナして歩き去っていった。


コッテコテのテンプレ悪役令嬢ものってやつじゃないだろうか?これは。


俺はエルーシャたちと相談した。

あれ、とか丁度いいんじゃないかって。


みんな頷いてくれたので俺は立ち上がって、悪役令嬢(仮)に近付いて声をかけた。


こういうときに掛けるべき声は、これだと思う。


「ひどいね、さっきのやつ」


そう言ってみるとゆっくりした動作で俺に振り向いた悪役令嬢。


「あ、あなた様は?わ、私の気持ちを理解してくださるのですか?」

「俺はフブキってものだよ。君は?」


目を合わせてそう聞いてみると令嬢は名乗る。


「私の名はアンリエッタですわ。アンリとお呼びくださいフブキ様」


そう言って立ち上がる彼女に俺は口を開いた。


「対抗戦、俺たちと組んでくれない?対抗戦の噂を聞きつけて、ここまで来たんだけどさ、組んでくれる人がいなさそうで」


そう切り出すと俺の目を見て聞いてくる。


「い、いいんですの?!私と組んでくださるのですか?!」

「うん」

「ゆ、夢のようです」


そう言って涙を流し出した彼女を連れて俺はエルーシャたちの紹介をすることにした。


一通り紹介が終わると、


「では対抗戦の手続きをしてきますので、ここで待っていてくださいね」


そう言って職員室の方に走っていくアンリを見送って俺は口を開いた。


エルーシャが無理やり入ってきた時点から考えてたことなんだけど。


「俺は別行動しようと思ってる」

「そ、そうなのですか?」


ルゼルがそう聞いてくるので答える。


2には目玉アイテムが7種の神器のうちのひとつ、大賢者の杖というものもあるが、まだある。


それは。

そのとき、イキシーが口を開いた。


「まさか、アドレアの洞窟に行くつもり?」


頷いた。

アドレアの洞窟。


2のクリア後に訪れることになるダンジョンだ。


そこには金銀財宝が眠ってるのはもちろんのこと。


大魔法アースフレアを覚えられるというアイテムがある。


アースフレア。

30メートルほどのドラゴンを包み込んで焼き尽くした、と呼ばれる魔法だ。

俺はそれを覚えたいと思ってる。


「だから、ここからは別行動で」


そう言うとみんなが頷いた。俺はルゼルに頼み事をしておく。


「動画撮影の方、よろしくね」

「は、はい!」


エルーシャとイキシーが2の世界で大暴れ。

その様子を見たいと思ってるのは俺も一緒なんだから。


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