第22話 俺だけができること
金曜日の夜俺はイキシーだけを連れてゲーム世界に戻ってレベリングをしていた。
初代の世界にはこういうのがある。
キン!
キン!
俺は振り下ろされるイキシーの剣を弾いていた。
その度に視界の右上にこう表示される。
【経験値を獲得しました】
【経験値を獲得しました】
【経験値を獲得しました】
【経験値を獲得しました】
これはガードテックというもの。
初代の世界では敵の攻撃に合わせてガードを展開していればこうやって経験値が獲得できる。
この経験値はモンスターを倒した時に得られる経験値と同じ扱いだ。
つまり、剣を弾けば弾くほど経験値がもらえるし、こういう仕様もある。
相手のレベルや技量が自分を上回っていれば、それに応じた経験値を貰える、というもの。
本来はこうやって不正利用なんて出来ないが、俺だけは違う。
イキシーと相談して攻撃の出し方を固定してもらってるから、俺も剣を定位置に構えておくだけで勝手にガードが成功して経験値がもらえる。
イキシーを使っているのには理由がある。
彼女が出してくるデスワーム、これの攻撃も一緒に防ぐことで更にそのぶんの経験値も貰えるのだ。
そうして俺のレベルは200を超えた。
ここまで育てば正直十分だ。
ゲームの世界でも現実の世界でも。
まだまだレベリングを終えるつもりは無いが、今日のところはこれで終わろう。
もう日も暮れてきてるし。
「もういいのか、フブキ」
そう聞いてくるイキシーに答える。
「うん、大丈夫」
それにしてもすごい連撃だったな。
攻撃こそ最大の防御。
それを体現したような戦い方だった。
それもそうか4の世界では体力が150って書いてあってもその体力表示嘘だから信じるなって言われてるくらいだったもんなぁ。
だって4の世界は体力が1か0かしかなかった。
ワンパンだもんな全部。
回避以外の防御行動が全部無駄だから、他の行動は全部攻撃行動になるもんなぁ。
そんなことを思いながら俺は日本へと帰ってきた。
「フブキ」
部屋に入ろうとするとそう聞いてくるイキシー。
「なに?」
「話は聞いた。フェイファンを全て私に貸せ」
なんで命令形?って思ったけど、たぶんイキシーは人との付き合い方を知らないんだろう。
当たり前だよなぁ。
目覚めたら砂漠に一人。
他に出会う生物なんてぜーんぶデスワームだもん。
俺はイキシー用の部屋に呼んでパソコンを貸す事にした。
このパソコンは必要になると思ってあらかじめ買っておいたものだ。
俺の部屋に置いてたけど、あんまり使うこともないしイキシーにプレゼントすることにしよう。
また必要になれば買い足せばいいし、そのための資金はオーカマーさんが助けてくれる。
パソコンを起動してゲームを配信してるクライアントの【スチーマー】を立ち上げて俺のアカウントを入力した。
元々CSのゲームだったけど、PC版も配信してくれてるので、PC版を買い直した。
「これがフェイファンシリーズ」
持ってるゲームのライブラリ画面をスクロールしてイキシーに教える。
どうせ異世界人は機械だめなんだろうか、と思ってたけど。
カチッ。
カチッ。
一瞬で操作の仕方を理解してた。
それで全シリーズのダウンロード、インストールを行う。
(すごいな)
オーカマーさんタイプだった。
ダウンロードが終わると4を遊んでた。
イキシーがイキシーを操作。
自分で自分を操作してる。
(さすがに自分のタイトルくらいは遊びたいのかな?)
って思いながら見てたら開始1分で死んでた。
(これが4の日常なんだよな)
って思って様子を見てたら。
アプリケーション終了してアンインストールしてた。
「だめだな、4は面白くない」
どうやら本人すら投げ出すクソゲーらしい。
そんな彼女を見てから俺は部屋を出ていこうとすると
「フブキ」
部屋を出ていく前声をかけてきた。
振り返るとゲームをしながらもこう言ってきた。
「あの砂漠から助けてくれてありがとう。あのままなら私は原作通り亡霊になってもあそこにいただろう」
それきり黙り込んでしまった。
クールで無口なキャラだけど、感謝はしてくれてるらしい。
「気にしないでよ」
そう言いながら俺も部屋を出ようとしたら、いつのまにか俺の背後に立ってた。
そうして手を握ってきてた。
「これが、人の温度か」
そう呟いてるイキシー。
なんか言いたいらしくて言葉を待ってると。
「今日は横で寝てくれないか。生存者に会えたことが嬉しいんだ」
「別にいいけど」
「そうか。なら風呂に入ってきたらいい」
そう言ってくるイキシー。
「イキシーは?」
「私は戦闘服が常に体を清潔にしてくれているから問題ない」
そう言ってベッドに座って続けてくる。
「待ってる」
◇
土曜日の昼くらいまで寝てた。
休みの日にずーっと寝続ける悪い癖は抜けてない。
起きると既にイキシーは机に向かってゲームしてた。
挨拶しても返事が返ってこない。
(めっちゃハマっとる)
初代のもう魔王城くらいまで進んでた。
(いつからやってるのか知らないけど一日でここか。めっちゃ早いな)
邪魔しないように部屋を出ていく。
それから俺はアイテムポーチを開いて。
【フェイトブレイク】
を取りだした。
ずしりと重いその剣は確かに現実に存在している、ということを伝えてくる。
「これが今俺の手の中にあるのか……くぅぅ……」
コスプレ道具でもない、模造品でもない、レプリカでもなんでもない。
オリジナルの武器がここにある!
誰しも思ったことはあるんじゃないかな、ゲーム内の武器や魔法、スキルが手に入ったらいいなって。
俺だけはそれを手に入れることが出来る。その願望を現実のものにすることができる。
改めてそれが確認できてめっちゃ嬉しくなる。
(試運転がしたいな……これ)
とんでもないものを手に入れた。
飾ってていいものじゃない。
金は使うためにあるし、食べ物は食べるためにある。
つまり、武器はモンスターを殺すためにある。
「さて、どこにいこうかな」
オーカマーさんが金銭面に関しては特に心配しなくていいとは言ってくれてるけど、俺としてはそれもどうなのかなとか思ったりするわけで。
【神速】も手に入れた。
この世界に存在しないスキルを俺は手に入れた。
なら、やることは決まっている。
──────俺だけの現代ダンジョン攻略だ。
それを動画にしてもいいかもしれない。
エルーシャみたいな『参考になればいい、みたいな』立派な動機じゃない
俺の動機は、こうだ。
『俺だけが持つ力を使ってのダンジョン攻略、指をくわえて見ててくれ!』
そんな感じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます