第20話 原作要素などない

 ゲーム世界に来た俺たち。

 オーカマーさんは日本が気に入ったらしくて、もうゲーム世界はいいと言っていた。


 俺はアヤメに話しかけた。


「師匠」

「なんだ?」

「ここにいる4人でダンジョンに行ってみたいんですけど」


 俺、アヤメ、ルゼル、エルーシャ、4人だ。


「四人で、か?」


 とつぶやくアヤメ。

 フェイファンのパーティは5人というのが一般的だ。


 だから人数がピッタリというわけではないのだが一人くらいはいなくても問題ないだろうも思うが。


 アヤメ師匠はけっこう人数を大事にするタイプの人らしい。


「残りひとり足りないが、どうする?埋めなくていいのか?」


 そう言われて思う。


(五人目、かぁ。呼べるには呼べそうだけど)


 五人目の候補としてちょうどいいのがいる。

 この世界にはいないけど、ね。


(いちおう人数に関しては解決策を用意していてよかったな)


 俺は師匠に目を向けて口を開く。


「ちょっと試したいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「ここの世界から他の世界に繋げるのかを試したいんです」


 そう言ってから俺は目の前になにもない場所に視線を向けて


(異世界4へ)


 そう願うと俺の前に穴ができた。


 その穴の下ではガスマスクをつけた少女が砂漠を歩いてる。


「相変わらず、すごいなこれ」


 そう言って穴の中に石ころを投げようとしてる師匠だけど通るわけも無い。


 まぁ通ったところで4主人公はこんなもの絶対に当たらないけど。


 4主人公は最終的にとんでもない化け物になる。

 レベルだけならどのシリーズの主人公も届かない数字になる。


 現状は……。


 レベル:368


 仮に暴れても俺とエルーシャ、それから師匠がいれば今は十分相手ができるレベルだろう。


 俺は日本から持ってきた釣竿を取り出して、釣り糸を穴に向けて垂らした。先端にはコンビニパンをつけてる。


 一応針は取り外してあるのでけがはしないだろう。

 砂漠に落ちるコンビニパン。


 それに目を向ける4主人公の名前は、イキシー。


 パンを手に取った。

 その瞬間。


 釣竿を思いっきり振って、イキシーを釣りあげた。


 というより向こうが、こっち側に上がってきた。


 ファサッ。

 頭に被っていたローブのフードが空気抵抗で自然に脱げながら、初代の世界に着地。


 本来いるはずのないイキシーが初代の世界に来た。


 キョロキョロと周りを見て口を開く。


「私以外の生存者か」


 俺たちにガスマスクを渡してくるイキシー。


 俺は説明する。


「この世界じゃガスマスクはいらないよ」


 4の世界はフェイファンの中でも異質だった。


 大気汚染は進み空気は酷く汚れてる。

 だからガスマスクが必須だった。


「コーフー」


 しかし、イキシーはガスマスクを外そうとしない。

 多分ガスマスクを外すのが怖いんだろう。


 まぁ俺としても気にはしない。

 この子にとってのガスマスクって俺たちにとっての靴みたいなものだし。

 それくらいつけてるのが当たり前のもの。


 そのイキシーにここの世界のことを話した。


「つまり、私に仲間になれ、という事か?」

「そう」


 頷くとバッと飛び下がって言ってくる。


「ならば力を見せてみよ生存者よ」


 飛び下がりながら移動するイキシーに俺は


【神速】


「?!」


 追いつかれると思っていなかったイキシーの腕を掴んだ。


 おそらくこのまま逃げ続けて俺たちをテストするつもりだったんだろうけど。

 逃げ回るイキシーを追いかけ回すなんて面倒なことはしない。


「捕まえた」

「……認めよう。あなたの実力を」


 こうしてイキシーが俺の仲間になった。


 ちなみに4の世界の話だが。

 あんな地獄に俺は今のところ行くつもりない。

 原作でも、ファンの間でも地獄と名高かった場所だ。


 それにしても新しい知識が増えたなぁ。


 イキシーの件で俺が直接ゲーム世界に移動せずともキャラを連れてこれることが分かった。



 ~魔王城1F~


 イキシーをメンバーに加えた俺たちは初代フェイファン最後のダンジョンと呼ばれる魔王城までやってきていた。


 魔王城、ここには隠しアイテムがあるから。


 俺自身イキシーが仲間になったとあればやりたい事があったりする。


 スマホを取りだした。


 圏外だけどカメラアプリは使えるので。


「みんな動画撮っていい?」


 みんなが顔を合わせて別に構わないと言ってきた。


 後で日本に帰ったらヨーチューブにアップロードしようと思ってる。


 だってさ、イキシーが絶対にいるはずのない初代の魔王城にいるなんて、原作ファンからしたら絶対たまらんでしょ!


 少なくとも俺はたまらない。


 イキシーはシリーズで一番強い主人公だった。

 キャラデザがよくて、キャラ人気も高くて、全作品でイキシー使わせろって声もあったくらいだ。


 その願いを俺は今叶えようとしてる。



 そうして魔王城の一番上。

 魔王の部屋までやってきた俺たち。


 扉を開けて中に入ると


「な、なんなのだ、お前たちは……」


 そう言って身構えてる女魔王様の姿。

 なんだかそれがあまりにもかわいそうになって来た。


 だって今のこの状況異常だもん。


 俺のパーティメンバー。


名前:アヤメ

レベル:98

称号:世界最高の忍者


名前:エルーシャ

レベル:128

称号:大陸最強の剣士


名前:イキシー

レベル:368

称号:あまたの死を捧げる者、光の奴隷、未来永劫救われぬ者



 これだよ?

 んで、魔王様は


名前:まおー

レベル:52

称号:魔王様


(イジメかよ)


 弱いものイジメダメだって俺は思う。


 それに魔王を倒すのは俺たちじゃない。

 そう思いながら俺はブルブル震えて縮こまってる魔王様。


「怖いよぉ、なんかいるんだけど……」


 そんな魔王様の横を通って後ろにあった宝箱に手を伸ばした。


 そこにはアイテムが入ってる。


【フェイトブレイク】


 という武器。


 このシリーズで一番強いと言われてる武器だった。


 それを手に取る。


名前:フェイトブレイク

詳細:定められた運命を打ち砕く武器。


 フェイテッド・ファンタジーはシリーズ通して根底にあるキャッチコビーがある。


 それは【定められた運命を打ち砕く物語】


 本編開始前にこのまま行けば定められた運命を辿るしかない、という提示をされてそれを打ち砕いていく物語。


 だからそれを打ち砕くための武器が【フェイトブレイク】


 ド直球だけどそんな名前を付けられた武器で、性能も高かったからすごい人気があった。


 ま、次のナンバリングから大幅弱体化食らうんですけどね。


 それを回収して俺はみんなを連れて魔王城を後にすることにした。


 チラッと最後に見えた魔王ちゃんはまだ震えてた。

 かわいそうに。


 ごめんね。もう帰るよ。



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