第19話 再生数がすごいことになってた

 俺が昨日アップロードした動画は朝起きたらバズってた。

 再生回数はなんと30万回を突破してた!


 ネット記事にも取り上げられてた。

 匿名掲示板でも話題になっていたようで。


 俺は電車に乗りながらスマホで匿名掲示板のまとめサイトを見てた。


【コスプレ!?MOD?!フェイファンのキャラ、エルーシャに激似の美女がメロンを斬る動画が公開!】


001 名無し

ガチで似てて草www

エルーシャに似すぎやろ。


002 名無し

見たわこれ。

めっちゃクオリティ高いよなこれw


003 名無し

日本人の骨格じゃないよなぁ、これ。

エルーシャにめっちゃ似てるわ。

コスプレだとしたらよく探し出してきたよなwこんなんwww


004 名無し

声はゲームから撮ってきたのを合成してんのか?

てか、剣術もやばいよな。

素直に会ってみたいわこの人に。


005 名無し

でもエルーシャは「ぴざ」とか言わないだろ。

キャラ崩壊にもほどがあるわwww


006 名無し

それなwww

ぴざは無いですわwww

コスプレめっちゃすごいのに、ぴざで台無しwww



 そんなような書き込みがズラーっと並んでた。


(本物なんですけどねこのエルーシャは。ウチのエルーシャはピザ大好きですよ)


 本物なのは俺だけが知ってる。


 そう思いながらスマホをしまおうと思ったのだけど


(ん?)


 俺のヨーチューブアカウントに企業の運営するニュースサイトから取材のDMが届いてたことに気づいた。


 取材させて欲しい、との事らしいけど。

 スルー。


 だって話すことないし、コスプレかMOD以外に言えないしね。まさか本物だなんて口が裂けても言えないし。


 そうして俺は相変わらず人々の視線を全身に浴びながら星将学園へと向かっていった。


 教室に入ると男子生徒が話しかけてきた。


「えーっと、二木だったよな。俺は木原だ」


 木原と名乗った男に頷く。

 俺とは正反対ですごく好青年ていう言葉が似あうような男。


「そうだけど」

「フェイテッド・ファンタジーって知ってるか?」

「知ってるよ。全作品やるくらい好きなんだ」

「マジかよ!じゃあこの動画見た?!」


 そう言って例の動画を見せてきた。


「このエルーシャのコスプレしてる人めちゃくちゃ本人に似てねぇか?!」


 と、そんなことを話してきた。


(似てるってか、本物なんだけどな)


 でもまぁ本物です、とは言えないよな。

 そう思って適当に返事をしながら俺は席に座る。


 そろそろ授業が始まるし、準備をしないといけない。



 昼休み。


 木原が俺に近付いてきた。

 

「食堂でも行かねぇか?」


 そう言われて俺は固まった。

 食堂?


 俺と?


「ん?フリーズしてどうした?弁当持ってきた、とか?」

「お、俺と?」

「お前以外誰がいるんだよ」


 気持ちのいい笑顔を向けてくる木原。


 食堂に誘われたことなんて初めてだ。

 この前理事長には誘われたけど、同じくらいの年齢のやつに誘われるのは初めてだな。


「行こうぜ」


 そう言われて俺は木原と一緒に食堂へやってきた。


 俺は理事長の言葉を思い出す。


『君にはこれを渡そう。これはウチの食堂の発券機に使えるカードだ。君の昼食代もここだけの話こちらで負担しよう』


 との事で俺はそんな魔法のカードをもらっていたのだ。


 なんでも優秀な成績を収めたら渡されるカードらしいけど、俺はカリンを助けただけで貰った。

 券売機で券を買っていると声をかけてくる。


「なぁ二木って彼女とかいんのか?」

「きゅ、急になんなのさ」

「いや。そんなにイケメンならいるのかなーって思ってさ」


 そう言って木原は周りを見た。


「気付いてるか?周りの女子みんなお前のこと見てるぜ」


 たしかに、ジーッと見られてたのは知ってる。


「二木は目立つよなぁほんと。すげぇよなぁ。ほんと」

「俺としては別にそこまで目立ちたくないんだけどね」


 そう言いながら今日はカレーにすることにした。


「お、じゃ。俺もカレーにするわ」


 そう言って木原もカレーを買ってて、なんか悪い気持ちになった。


 まさかお揃いにされるとは思ってなかったからだ。


「あ、ごめん。カレーじゃない方が良かった?」

「ぷはっ」


 笑われた。

 なんでか分からないけど。


「まさか、謝るなんてお前おもしろいよな。俺が好きで選んだんだから気にすんなよ」


 そう言った木原に俺はついていって席に座って昼食を食べ始める。

 普通の人にしてみればなにげないただの日常なんだろうと思うけど、俺がこれを手に入れるのにかかった年月は数年だった。


 それを思うと感慨深い、ってやつ。


 そうやって食事をしてると、スマホにメッセージが届いた。


(エルーシャから……?)


 エルーシャはオーカマーさんの手伝いを始めてからちゃんとスマホを持つようになって暇があったらこうやってメッセージを送ってくるようになってた。



エルーちゃん:今日はらめーん。以上



 なにが言いたいのか理解できないメッセージが来てた。


 そこで急に木原が謝ってきた。


「ごめん。見えちまったわメッセージ」


 そう言われて俺はスマホをしまいながら答える。


「見えたんなら仕方ないよ」


 俺だって他人のスマホの画面見えることもあるしな。そんなことをわざわざ謝罪するなんて珍しい反応だ。


「で、今の誰?アイコンめっちゃかわいくなかった?」


 そう聞かれて俺は思う。


 性格悪いかもしれないけど、自慢したくなった。


 そう思ってカメラロールを開いて一緒に撮った写真を見せてやることにした。ちゃんと変装はさせてるから絶対に気付かれない。


「うわー。めっちゃかわいー。金髪だし外国人?これ、彼女?」


 外国人どころか異世界人だけど、俺は答えた。


「いいや、違うよ」

「違うのかぁ、ちなみにこれまで彼女は何人いたことあんの?」


 なんでいた前提なんだろうな。


「え、いたことないよ?」


 そう言ってみるとすごい顔で言われた。


「は、はぁぁぁぁぁぁあ?!!!その顔でいたことない?!!!」

「え、う、うん」


 だって俺ニキビブタだったんだし。

 彼女なんてできるわけないし。


「印象変わったわ。正直言うとさ見た目で遊んでるんだろうなぁって思ってたけど謝る。お前めっちゃ良い奴そうじゃん」


 そう言って木原は俺に右手を差し出してきた。


「俺は木原悠斗だ。ユートって呼んでくれ」


 そう言ってニッと笑うユート。

 この時俺は生まれて初めて友達を得たようなそんな気持ちになった。


「あー。よろしく、俺のこともフブキでいいよ」


 と、そのとき。

 予鈴がなった。


「あ、やべ。早く食え!フブキ!」



 放課後になって家に帰るとエルーシャが玄関前で待機してた。

 正座で


「なにしてんの?」

「フブキ殿。ぴざの配達員とは会わなかったか?」


 まさか。

 ワクワクしてる顔のエルーシャに聞いた。


「ぴざを頼んだのか?」


 ドヤ顔で答えるエルーシャ。


「あぷりをたっぷして1000円って書いてるまるげりーたぴざを頼んだ」


 おぉ……嘘みたいだ。


 おばあちゃん、やればできるじゃん!

 ハイテクおばあちゃん、だ!


 俺はひとりで感動してた。


 そうやってワクワクしてるエルーシャの邪魔をしちゃいけないと思って、俺はそのまま部屋の中に戻ってこれからのことを考える。


 こういう毎日も悪くないけど、俺はやっぱり異世界に行きたいと思う。

 さいわい日本での新しい生活も軌道に乗ってきて慣れてきた感じだし。


 今日の夜にでもまたゲーム世界に戻ってみようかな。


 俺はこの力をもらった当時と比べていろいろとやりたい事が増えてきていた。


 例えば原作ではありえなかったストーリーの流れにするとか、ストーリー改変ってやつだ。


 まずは初代の世界でやれることをやってから、満足できるまで探索とかした後は


(他のシリーズの世界に行ってみようかな?)


 初代の世界でやろうと決めていることは最強武器である【フェイトブレイク】の入手、とりあえずのところはこれだけだ。


 これをゲットしたら


(初代の世界は用済みだな)


 これでもう、初代の世界に用事はなくなったようなもの。

 だから、次の世界に行くくらいしかやる事がなくなる。


(とりあえずは初代、だな)


 そうやって考えをまとめてると眠くなってきた、少しだけ仮眠しよう。


 

 目が覚めた。

 そろそろ向こうの世界に向かってみようか。


 そう思って廊下に出てふと玄関のほうを見るとまだエルーシャは座ってた。


 俺が帰ってきたのが午後7時くらいで、それまでも座ってたっぽいけど。


(配達員、いつくるんだろうな?さすがにかわいそうだ)


 今は午後10時。

 とりあえず声をかけよう。


「ひょっとしてずっと待ってた?」

「餓死しそうだ!フブキ殿」


 そう言ってくる。

 俺もさすがにおかしいと思って


「エルーシャ、スマホ見せて?注文したのスマホでしょ?」

「はい」


 渡されたスマホを見ると


(注文確認画面で止まってて……確定してない、そりゃこないよ。しかも店閉まってるし)


「エルーシャ。注文だけど、ちゃんとできてないからピザはこないよ」


 そう伝えると


「……」


 魂が抜けたような顔をしてた。


 仕方ない。冷食のお好み焼きがあるからピザの一種だって出して食べさせよう。

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