第16話 新生活ってやつだろうか

 バイトの翌日。

 学校から家に帰ってきて俺は部屋の中に穴を作ろうとしていた。


(異世界に行きたい、4)


 コォォォォォォォォォォォ。


 俺の願いに反応してすぐに穴は出来て、穴の上には【4】という数字が浮かんでいた。


 ソロー。

 そっと手を伸ばして穴に触ってみた。


 バチィ!

 弾かれたようになってすぐに手を引っこめる。


 反射だった。


 沸騰したヤカンに手で触れて引っ込めるような、そんな感覚。

 別にこの穴が沸騰してるとかってわけじゃないけど、俺の本能は多分この穴の先を危険なものだと認識しているんだと思う。


 そして、文字が浮かんできた。


【警告:この先の敵はかなり強いです。それでも進みますか?】


 首を横に振る。

 フェイテッド・ファンタジー4はシリーズ最高難易度と認定されたナンバリング。


 キャッチコピーは【数多あまたの死を捧げる物語】


(難易度設定とかは実際のゲームと同じなのかな?)


 そう思いながら別のことを考える。


 ずっと前からこの穴はどこまでできるのかを考えていて、今日検証してみることにした。


(異世界4番の世界を見てみたい)


 そう願うと穴は一度縮小してまた拡大した。

 そこに映っていたのはフェイファン4の世界。

 一面砂漠の世界だ。


「フブキ殿、これは?」


 そう聞いてきたエルーシャに答える。


「4の世界。終末世界だよ」


 俺達の前に広がる穴の中ではガスマスク(鼻と口だけを守る簡単なもの)を装備した少女が映っていた。


 これが4の主人公。大気汚染がひどくてガスマスクなしで行動できなくなってる。


 砂漠をひとりで歩いてモンスターを倒していく。


 主人公のレベルは301。


 モンスターのレベルも298とか、すさまじいレベルになっている。


 そんな世界を使って、一度も試していなかったことを試してみる。


 俺はコンビニのパンを手に取ってそれを穴に投げ入れてみた。

 すると、ストっと落ちていった。


(なるほど。俺が直接触れたままじゃなくてもモノを落とせるのか)


 俺が直前まで触れていたものであれば、ゲーム世界に落とせるようだ。


 ちなみに落とされたパンは砂漠に落ちて、主人公が慎重に観察してから食べ始めた。


 ちゃんと向こうに届いてるらしい。


 いろいろ確認してから穴を閉じたとき。


 ブルルルルルル。


 スマホが震えた。

 オーカマーさんからの連絡だったので出てみる。


「なに?」

『今玄関にいる。本当に大切な荷物をまとめて外に来てくれる?エルーシャたちも連れてね』


 俺の部屋の窓からは道路が見えるようになってる。

 そこから道路を覗いてみるとオーカマーさんがこちらに向けて手を振っていた。


 その近くにはリムジンがあって、たぶんこれに乗ってきたんだろうなぁ。


(あの人はどこの世界でもすごいね)


 俺はエルーシャたちを連れて外に出ることにした。


 大切なものは別にないし、足音を立てないようにして玄関に向かう。


 もう癖になってた。


 玄関を開けて外に出るとさっそく口を開くオーカマーさん。


「単刀直入に言うわね。私がお金を稼いでたのはあなたをこの家から出してあげるため。それでお金は溜まって家も買ったわ」


 そう言って俺にスマホで撮った写真を見せてくる。

 そこに映ってたのは、普通の一軒家。

 

 すごくない?この人ここにきて数週間くらいでこれ買えるくらいに稼いだってことでしょ?


「すげぇな、オーカマーさん」


 思わずそう口に出て。

 にっこり笑ってくるオーカマー。


「オカマ舐めんじゃないわよー」


 はい、もう絶対に舐めませんって思ってたら。


 そこで父さんが出てきた。


 で、オーカマーさんを見て口を開く。


「ウチの前に車止めんでくれ。ってかウチの前で会話せんでくれ」


 そう言ってきたのを聞いて口を開くオーカマーさん。


「お父さん、よね?フブキちゃんの」

「それがどうした?フブキに用事か?部屋にいるだろうが呼んでやろうか?」


 俺は普段親と顔を合わせない。

 というよりもう一年くらい顔を合わせてないし、もちろんココ最近も一緒だ。


 俺の顔なんて見たくないと言うのでずーっと顔を合わせないで生活してたせいで、俺が目の前にいることに気付いてない。


 そこでオーカマーさんが口を開いた。


「息子にこれだけ興味がない親なんてほんとにクソね」


 そう言ってリムジンの扉を開けてくれた。


 先にエルーシャたちを乗せてから、父さんに話しかけるオーカマーさん。


「私は王・夏魔亜ってもんよ。これからフブキちゃんを預かることにするわ。親権を放棄してちょーだい。あなたには任せられない」


 ピラッ。

 名刺を投げ飛ばすオーカマーさん。


 それを受け取って父さんは喜んでた。


「あのクソデブを引き取ってくれるのか?!なんていいヤツなんだ!あんたは!」


 自分で聞いてて笑っちゃうよな。


 知らない大人に自分の息子を引き取られて喜ぶなんて。

 こんなに愛されてないなんて、ほんとに笑っちゃう。


「はは、はははは」


 てか思わず心の底から笑ってしまった。


 父さんが俺に目を向けてきた。


「吹雪の知り合いかね?君のようなイケメンと吹雪とどこで接点があるのか知らないが、あのクソデブを見たら笑ってしまうだろうね。あー、私の息子も君のようにイケメンだと良かったのに」


 父さんも笑いだした。


(このまま名乗り出たらどんな反応をするんだろう?気になるけど、それじゃつまらないか)


 俺がいなくなったことにいつ気付くのか、それを見守るのも楽しみだ。


 俺もリムジンに乗り込んだ。

 窓を開けて父さんの顔を見てやると


「うらやましいなぁ、リムジン。君のようなイケメンには本当に似合っているよ。私も乗ってみたいなぁ、息子が優秀なら私も乗れたんだろうなぁ」


 そんなことを腕を組んでしゃべってる。


 あーもう。全部バラしてみたいよな。

 どんな顔をするのか気になるけど。


「で、王さん。クソデブはいつ引取りに来てくれるんだ?」

「もう引き取ったわよ、じゃあね」


 そう言ってオーカマーさんは父さんに近寄ると腕を振り上げてた。

 殴ろうとしてるのだろうか。


「やめときなよ。わざわざ(こんなやつらのために)リスクを犯す必要なんてない」


 声をかけてやめさせた。

 暴行になるかもしれないし、気持ちだけで十分だって思うようになってた。


「分かったわ」


 オーカマーさんも乗り込んで運転手に声を出した。


「出してちょーだい」


 そのまま車は進んでいく。

 俺の父さんはずっとうらやましそうに俺を見てた。


「息子ガチャ外れちゃったよ〜」


 俺は親ガチャ大ハズレだと思ってるから別にそう思われるのはどうでもいい。


 もう、あの家とは関係ないし窓を閉じる。


 窓越しに外の景色を見ながらオーカマーさんに聞く。


「これからその家に向かうんだよね?」

「ええ、そうよ」


 しばらくすると家に着いた。

 中に入って電気をつけてリビングまで歩いていくと、そこにあった机にはいろんな料理が置かれてた。


 ピザ……ハンバーガー。

 すし、とか。


「こういう門出というのはしっかり祝わないとね」


 オーカマーさんはウィンクして


「じゃ、あとは若い人達で楽しんでね。ちょっと用事があるから席をはずすわ」


 俺の胸ポケットに紙をいれてきた。


「明日、連絡があるわ。出てあげてね。悪くない話よ」

(連絡?)


 俺がなにか聞く前に部屋を出ていってしまった。

 本当ならオーカマーさんとも食事をしたかったくらいだけど。


(遠慮したっぽいし仕方ないよな。とにかく好意には甘えておくか)


 エルーシャたちに目をやった。

 すると、エルーシャが俺を見ていた。


「私は若い人じゃないんだが、私も席を外した方がいいだろうかフブキ殿」

「え?外さなくていいよ?そういえば、エルーシャは何歳なの?」


 今まで気にしたことなかったけど。

 エルフだもんな、エルーシャは。


 エルフは人間と比べて老けにくいらしくて長生き。

 彼女の見た目は10代くらいに見えるが、実年齢何歳なんだろう。


「こまかい数字は忘れたが、私は200年近く生きてるぞフブキ殿」


 やっぱ長生きなんだなぁ、エルフって。



 食事を終えた。


 それでそのあと自分たちの使う部屋を決めて俺はベッドで寝ようとして転んでた。


(そういえば、なにをいれたんだ?あの人)


 そう思いながら俺はポケットからさっきオーカマーさんに渡されたものを取り出すと


「ん?電話番号?」


 メモが入れられていたようだ。

 電話番号が書かれた。


 知らない番号だけど、番号の上にはこう書いてあった。


"明日土曜日に星将学園理事長 星川 大我たいがから朝10時くらいに連絡が来るわよ。連絡先は私が教えといたわ。勝手に教えてごめんなさい。でも大事なお話らしいわ"


 勝手に教えたのは別にいいんだけどさ。

 てか、なんで。


(私立の超名門の理事長?!なんでそんな人から?てか、なんの連絡?!俺はなんかしちゃんたんだろうか?)


 


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