第14話 誰も俺を知らない始業式

始業式が終わって、クラスに移動するために廊下を歩いてた。

俺は相変わらずボッチだった。


元から高校生活はずっと一人で送ってたけど、二年になってそれが加速した。


なぜなら普段の俺には高安が絡んできてひとりにさせてくれないのだが、今日はその高安すら絡んでこないからだ。


ちなみになんの因果かは知らないけど、高安とはまた同じクラスになってしまった。

新学年になったってのに、鬱が加速する。


(はぁ、トラックと事故って肉塊になって死んでればいいのになぁ。高安)


そんなことを思いながらちょっと視線をあちこちにやってみた。


すると高安が俺のちょっと後ろを歩きながらこっちを見てることに気付いた。


俺は変わってもあいつは変わらない。

いつも通り金髪のヤンキーだったからすぐに分かる


「あれ、誰だよ。俺らん学年にあんなのいねぇだろ」


高安は俺の方を見ながら取り巻きと話してた。


「ですよねぇ、高安さん。あんなイケメンいませんでしたよね」

「転校生か知らんが、おい、あいつ合コン誘うぞ。あのツラのやついりゃ女なんていくらでも食いつくからな」


まさか高安の口から俺を合コンに誘うなんて言葉が出るなんて思わなかったよ。


それにしても俺が二木 吹雪の席に着いた時のあいつの反応が楽しみだな。


教室に入った時後ろから高安が俺の肩に手を置いてきた。


「おい、お前。転校生だろ」


俺が振り向くと高安は名乗ってきた。


「俺は高安だ。このクラス仕切らせてもらうからよろしく頼むぜ」


まだ新学年始まって新クラスになったばかりだってのに仕切る、か。ほんとに面白いよねぇ。


ヤンキーって生き物はさ。


「お前は?」


そう聞いてきた高安の言葉に鼻で笑って答える。


「高安 カズキくん。あらためて名乗らないとダメかな?俺の名前、忘れちゃった?」

「あ?」


首をかしげる高安に言い直す。


「それとも、俺の名前忘れちゃいましたか?高安さん。こう言った方が良かった?」


そう言いながら俺は自分の席に向かっていく。


なぜだろう、この前まであれだけ怖かったのに。もう高安なんて怖くなかった。


異世界で相手してきたウルフたちの方がよっぽど殺気をまとっていたし怖かったよ。


その時に声が聞こえてきた。

クラスメイトの声。


「お、おい。このクラスに転校生いないぞ。あいつ元からこの学校の生徒だ!」

「う、うそ?!」


そんな声が聞こえてきて。クラスメイトの動揺は続く。


「お、おい!そういえばこのクラスには二木がいたよな?!あいつどこいった?!まだ来てないのか?!休みなのか?!」


誰かがそう叫んでる。


俺は高安の目の前で窓際の席に座った。


そうそう、この学校。

座席の左側上部にネームカードが貼られるんだ。


俺が座った席にももちろん


【二木 吹雪】


という文字が書かれてるわけで。


それを見た高安が震えた指で俺を指してくる。


「お前座席間違えてんぞ?そこは」

「ニキビブタの席だって、言いたいのかい?」


そう言いながら立ち上がって俺は高安にだけ聞こえる声で囁いた。


「美容師ごっこは楽しかったかい?君のセンスは壊滅的だったよね」


そう言ってやると高安は俺を見てきて。


ワナワナと震えてから。


「てめぇ!!!」


右手の拳を振り上げて俺に向かって振ってくる。


だが俺には【視力強化Lv10】がある。

そして【ライブラリ】も


名前:高安 カズキ

レベル:3


(ノロイな。当たり前か。ただのヤンキーだもんなぁ)


パンチを右手で受け流しながら左に移動して、助走をつけてた高安をこかしてやる。前のめりにこけそうになる高安の首をうしろから掴む。


「ガッ……」


そのまま高安を持ち上げて窓から上半身を半分出してやる。


「ここ、3階だけど落ちたらどうなるかな?知りたがってたよね?3階から人が落ちたらどうなるかって。ここで試してみる?」

「ぐげっ」


首を掴む手にどんどん力が入っていく。


加減を間違えたらこのまま殺してしまいそうだ。


そのときだった。うしろから声が聞こえる。


「お、お前ほんとに二木なのか?」


振り返ると高安の取り巻きだ。


「許してくれぇぇ!!」


取り巻きは逃げ出そうとしていたので、そばにあった椅子を蹴り飛ばした。


背中に当たって前に突っ込むようにしてこける取り巻き。


そのまま泣きながら走って逃げていった。

あいつはもうどうでもいいや。


高安に視線を戻す。


「落ちたらどうなるかなぁ?なんてな」


そう言ってから俺は高安を教室の中に連れ戻した。


それから教室の壁に投げ飛ばして近寄る。

ゆっくりとした動作で俺を見てくる高安の顔は青くなってる。


「なんだかんだお前は俺を飛ばしたことは無いからね。お互いそこはフェアにいこうと思う」


そう言いながら高安を見下ろしてから胸のあたりに足を乗せててグリグリ力を込めていく。


「話聞いてる?さっきからお返事ないけどさ」


しゃがみこんで高安の髪を掴んで俺を見させた。


で、ボソッとつぶやく。


「ここは人目があってよかったね。なかったら、殺してたよ。言葉の意味、分かるよね?」

「ひっ……う、うわぁぁぁあぁああ!!!!」


高安はそのまま走り去っていく。


まぁこんなものでいいだろう。

あんまりやると俺が悪くなる。


ぜんぶ終わったあとに近寄ってくる女子がいた。


「今までごめん二木くん。でもすごいね。今のはいっぱい努力したんだよね?」


そう聞いてくる女子生徒にはなにも答えない。


そのまま自分の席に戻って席に座るもまだ話しかけてくる。


「これまでのこと先生に話そうよ。それで先生にどうにかしてもらおうよ」


そう言ってくる女子生徒に答える。


「別にいいよ。ってか話しかけないでくれる?無駄な情報を俺の頭の中にいれようとしないでくれるかな?」

「えっ……」


女子生徒が動揺してたけど。気にせず授業を受けることにした。


そのあとクラスの雰囲気は最悪に近くなったがどうでもいいよね。


むしろいい気味だ。



放課後になって俺は一人で歩いてると


ブルルルルルル。

スマホが震えた。


着信したようで画面を見てみると。


【王・夏魔亜】


と表示されてた。

オーカマーさんだ。


日本で仕事するときの名義がこれだったっけな。


「はい」

『あら、こんばんは、フブキちゃん』


もう聞き慣れた声が聞こえてくる。

その向こう側からは、さらに別の人の声が。


『王さん?誰と電話してるんですか?今ちょっとやばいんですよ?予定してたモデルが来てないんですよ』

『うるさいわね!ちょっと黙っててちょーだい!今からあんたのケツ拭こうとしてんのよ?!』


そんな会話が聞こえてくる中俺はオーカマーさんに話しかけた。


「用事は?」

『あたし今。仕事してるんだけど、ちょっと指定の場所まで来れるかしら?人手が足りてなくてー』

「俺でもできるの?」

『むしろあなたしかできないわよーん。バイト代出すから手伝ってくれなーい?』


俺しかできない、か。大げさだよなぁ、でもそう言ってくれるとうれしくもなるけど。

あとバイト代も出してくれるのか。

ありがたい話だな。


あの人は俺のために動いてくれてる。

こんな異世界まで来てくれて、必死に働いてる。


俺のこれからの生活を見るために働いてるってオーカマーさんは言ってた。

そのための恩返しができるならって思う。


「分かったよ。どこ行けばいい?」

『タマキンデパートよ!なるはやでよろしくぅ!』


通話が切れた。


なんのバイトか分からないけど、向かってみようか。タマキンデパート。


どうせ大したことはないんだろうけどさ。

簡単な仕事だといいよなぁ。

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