第11話 日本に帰って約束を果たす

「あたしがその日本っていう場所についていくわ」


オーカマーさんの発言に時が止まった。


「ん?なにをそんなに驚いてるのかしら、ルゼルキティちゃんは通れたのよね?ならあたしも通れるでしょ?」


たしかに言う通りだと思う。


ルゼルは連れて日本に戻れた、となると。この人も日本に連れて行けるんだろうけど。


チラッ。

オーカマーさんと手を繋ぐ、か。


いや、別にこういう人達に抵抗があるわけじゃないけどさ……女の子と手を繋ぐのとじゃハードルが高すぎやしないか?


そう思っていたら


「気にしなくていいわよフブキちゃん。あたしの好みはもっと筋肉質な男だから」


と、俺は振られていた。


まぁいいんだけど、そういうことなら俺の方のハードルも下がった。

けど


「待て。オーカマー殿」


そこにずっと傍観を決め込んでいたフードの女が会話に加わってくる。


「あら、どうしたの?エルーシャ」

(やっぱりエルーシャだったか)


フードの女を見た。


エルーシャが続ける。


「あなた、彼の世界に行ってなにをしようと思ってるの?我々が安易に踏み込んでいい場所ではないだろう。秩序は守るべきだ」


おそらくエルーシャはオーカマーさんを疑ってる。


でも、俺は知ってるので口を挟む。


「いや、この人は大丈夫だよ」


気さくな人だ。


すべて善意で口にしてる。


こんな見た目だけど聖人と呼ばれる人種だ。


原作をやった俺だからこそ分かるが。


そこで俺に目を向けるエルーシャ。


「フブキ殿。私も同行しましょう。その日本という場所へ。この男と行くのは不安が残るでしょう?」


え?


となると。アヤメも口を開くわけで。


「面白そうだな!私も連れてけ!弟子!」

「いや、あんたは残りなさいなアヤメ」


それを咎めるのはオーカマーさん。

そのあとオーカマーさんは論理立てて説明してくる。


「あたしは別に観光に行くわけじゃないわよ。話を聞く限りこの子の親が腐ってるからひとこと物申しに行くのよ」


それは親としての意見なんだと思う。


この人裏で孤児院経営してたりするからさ。


「で、でもお前オカマじゃん?オカマが異世界行ってなにができるんだ?」


オーカマーさんがギロッとした目をアヤメに向けた。


「オカマ 舐めんじゃないわよぉ!!あたしはどこに行ってもスターよ。問題ないわ」


理屈が全然分からないけど、まぁ俺はこの人を信用してる。


この人はもともと別の街から来たみたいだけどそれなのにこの街でも有名なカリスマになってたから、どこでもやっていける実力はあると思う。


俺はエルーシャに目を向けた。

するとフードを外しながら口を開いた。


「フブキ殿。話を聞くに家族にも虐待をされていた、との事だが。私は大陸最強の

。保険としては申し分ないと思うが」


ちょうどフードを脱いだ時俺は違和感を覚えた。

エルーシャの耳の周辺。


そこの空間が歪んでるような。


(認識阻害の魔法か?)


認識阻害……リンゴを見てオレンジだと思わせるような効果のある魔法だ。


俺がそれに気付くと。


エルーシャの耳の当たりにモヤがかかって、モヤが消えたらそこにはエルフの耳があった。この魔法は魔法の存在に気付かれたら強制解除となる。


アヤメ以外の全員がその耳に目を向けた。

俺はエルーシャに話しかける。


だよね?」


その瞬間アヤメが話しかけてきた。


「気付いたようだな弟子よ。やるじゃないか。こいつの認識阻害を破るなんて」


これは見ているものを違うものだと思われせる魔法。


エルーシャは自分を『人間』だと俺たちに思い込ませていた。

全員の視線を受けるエルーシャ。


ちなみにこの世界にエルフはいない。

つまり俺のようにどこか別の世界から来た人。


「なるほど。鋭い人だ」


俺はそんなエルーシャに問いかけた。


「なんのために日本へ?」

「私には記憶が無い。おそらくここに来た時に失ったんだろう。その前の記憶を探したい」


そう言って俺を見てくるエルーシャ。


俺を守るうんぬんは建前だった、ということか。


まぁいいけど。


俺はふたりにいくつかの条件を付けることにした。


1.人前で魔法を使わない。

2.俺からは極力離れない。

3.なにか問題があればすぐに相談すること。

4.余計なことは極力しない

5.異世界から来たことを公言しない



「このあたりを守ってくれる?なら俺が連れて帰るのに抵抗はないよ。誓える?」


ふたりは頷いた。


「よし、じゃあ連れて帰るよ」


俺はアヤメ師匠に礼を言ってから少し離れた場所で


(日本へ帰りたい。自室。俺の部屋。マイルーム)


穴を作り出した。


「すごいわねぇ、本当に穴ができたわぁん。きゃっほー」


オーカマーさんは穴に飛び込もうとしたけど、俺に触れてないからかビターンと叩きつけられていた。


やはり俺に触ってないと通り抜けられない、か。


「こんなにガバガバそうな穴なのに入れないなんて」


そう言って戻ってきたオーカマーさん。

日本に帰る前に俺はエルーシャに目を向けた。


wiki民との約束をここで果たそうと思う。

彼女がなんで大陸を徘徊していてのか、初代ファンの中でずーっと不明だったポイントを俺だけが明かすことができる。


それをエルーシャにしゃべらせることができる。


「エルーシャ、帰る前にちょっといい?」

「構わないが」





「ふぅんここが日本ってわけね」


穴は俺の部屋にちゃんと繋がっていた。


経過時間だけど。

あの世界にいた分だけ時間が進んだわけ……ではなさそうだけど、入った日の翌日になっていた、部屋に置いてるPCがそれを教えてくれた。


このあたりの時間の進み方についてはまだまだ要検証、ってところか。


それを確認してから俺はふたりにこの世界のことを軽く説明した。



理屈はわからないけど穴を通れば日本の知識はある程度身につくようで詳しい説明はいらなかった。


「さてと」


説明が終わると俺の部屋を出ていこうとするオーカマーさん。


「どこへ?」

「両親に物申しにいくのよ。そういう約束だったじゃない」


俺は時計を見た。

昼の12時。


両方働きに出てるし、俺たち意外誰もいない。


「今親いないけど」

「それはほんと?!いけないわぁ!」


そう言って部屋を出ていくオーカマー。

そうしながら俺に振り返ってこう言った。


「とりあえずお金稼いでくるわね。うふん。楽しみにしてなさいよフブキちゃん。あたしの手腕を!」


投げキッスしながら出ていった。

なんだろう背中がゾクッとした。


残されたのは俺とエルーシャとルゼル。


「フブキ殿。大丈夫なのだろうか?あれは」

「大丈夫だよ」


いざと言う時の連絡手段はもう渡してある。

俺は金持ちじゃないし契約ができないので渡したのは、お古のWi-Fi専用スマホだけど、今はコンビニいけばフリーWiFiくらい拾えるし、無料SNSで通話もできるし。


って思ってたら


プルるるるるる。


スマホを見るとオーカマーから電話がきてた。


『連絡はこれでいいわね?フブキちゃん聞こえてる?コンビニからかけてるわ』

「ん、うん」

『そう、困ったことがあればなにか言う事ね。あたしはいつだってフブキちゃんの味方よ』


ブツっ。

通話を切って思う。


あの人何気に高スペックだよな。


スマホ渡してすぐに使い方理解してたし、すげぇや。


で、電話を終えてとりあえず……異世界で撮影してきた二本の動画を確認してみた。


ウルフ戦とエルーシャへの質問動画だ。

まず1本目、スマホの真ん中に見える再生ボタンを押してみる。


「再生は……できるな」


動画撮影ができた時点でこうやって地球世界に動画を持ち帰れることは察してたけど……やっぱ大丈夫みたいだな。


それで、次に動画サイトの公式のヨーチューブアプリを起動して。


下にあるメニューの+マークをタップ。


それから、【動画をアップロード】の項目をタップして、手順に従う。



スマホに表示される文字


【アップロードが完了しました】


お、おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!


「やっぱアップロードもできるんだ!!!」


でも、こんな動画誰も見ないかもしれないけどさ。


次の動画もアップロードすることにした。

どっちかと言えばこっちが本命だ。


エルーシャへの質問動画だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る