第10話 初代のぶっ壊れ技を習得する
昨日はもちろん隠れ家に泊めてもらった。
布団から体を起こすと目の前にはアヤメが立っていた。
「お目覚めかな」
こうなることはわかっていたので頷く。
それで俺は頭を下げた。
「俺にスキルを教えてください」
アヤメ、この人はどのナンバリングを見ても飛び抜けた忍者だった。
シリーズ屈指の強キャラ。
それが初代のアヤメという忍者。
「いいだろう。ちょうど弟子でも取ろうかと思っていたところだからな。君なら期待できそうだ」
そう言って俺に背を向けてくるアヤメ。
そのまま扉の方に向かっていくと俺に顔だけを向けて。
「準備ができたら庭に来るといい。まずは影分身から教えよう」
「はい!」
特に準備するものはない。
俺はすぐに庭に出てアヤメに稽古を付けてもらう。
まずは影分身の原理からだが、ゲーム世界の知識が通じるのかの意味も込めてアヤメに聞く。
「影分身は一種の幻覚魔法……ということでいいんですよね?」
そう言うと口を歪めるアヤメ。
おそらく俺が影分身の原理を知っていたから、驚いたんだと思う。
「へー。そうだよ。そこまで知ってるなら、やり方も分かるんじゃないか?影分身は別に難しくない。慣れれば、ね」
影分身。
高速で動きその残像を分身と考えるようなものもあるが、アヤメが行っているのは違う。
幻覚魔法を使って自分が複数いるかのように見せている。
(屈折現象、だっけな。近いのだと)
自身の周囲を魔力の霧で満たして、入ってくる光をねじ曲げて自分が複数いるように見せる。
それがアヤメ式の影分身。
原理は分かっているので俺はとりあえず自分の中の魔力を感じる作業から入ることにした。
原作でもあった。
(たしか、こうするんだよな)
精神を研ぎ澄ませて、自分の中のものを、まずはカテゴリ分けする。
臓器、血、酸素、水分、それから……魔力。
それを感じられたなら。
あとは
「!」
全身からその魔力を押し出すように力を加えて周囲に魔力を垂れ流す。
するとそれは魔力の霧となって俺の周囲を囲って、分身が左右にふたつ。
「ほう……ダブルか。一発で成功なんて大したものだな」
ダブル、と言うのは俺の分身の数。
これが増えればトリプル、クワトロ、というように呼び方も変わっていく、はず。
「原理が分かってるなら、これはさほど難易度は高くない、か」
そう言って俺に影分身をやめさせるアヤメ。
それから彼女はこう言ってきた。
「センスがあるな。今度は私が当ててみようと思うんだが秘伝スキル【神速】を教えて欲しいんじゃないか」
その言葉に俺は頷いた。
秘伝スキル神速。
己の速度を限界まで加速させる忍者スキル。
初代フェイファンにおいて最強クラスのぶっ壊れスキルとされて、後続のタイトルでは強すぎてリストラされた技だ。
その技の効果とは
「まずは手本と行きたいが」
次の瞬間アヤメは俺の額に人差し指を当ててた。
「こんなものだ」
これが神速。
シリーズを通してアヤメと1部のキャラしか使えなかった、スキル。
これはさっきの影分身みたいなコテ先の技術じゃなくて、本物の体術のみによる芸当だ。
(ほんとに速いな)
しかし、神速は速いだけ。
基本は直線にしか移動できない。
だからタイミングさえ合わせれば!
「ちなみに、この手はなんだ?」
「すいません。師匠の演技が真に迫っていたので、思わず手が出ちゃいました」
俺はアヤメの首筋に手を伸ばしていた。
反射的に、だ。
それを見てニヤッと笑うアヤメ。
「まさか、合わせてくるとは……面白いな君は」
そう言って俺に座るように指示を出してきた。
「まぁいい。神速の使い方を教えよう」
準備体操みたいに俺の体をストレッチさせてくる。
「人間にはいくつものツボがあるのは知っているな?神速はそのいくつかを押して人間としての能力を越えさせる、というものだ。例えば、ここ」
俺の首の一部をグッと押してきたアヤメ。
その瞬間衝撃がはしった。
ビリッと、電気が駆け抜けたような感じ。
なんだか、体が軽くなってきた。
「ちなみに、このツボを押した効果っていうのは、一時的なものなんですか?」
「本来であれば一時的だが、私が押せば永続効果だ。その証拠に今電気が走ったみたいになっただろう?」
「は、はい」
確かにそうだった。
流石隠しキャラのアヤメ……いろんなことを熟知しているな。
そのあともいくつかのツボを押された。
そして、レベルアップしたときのように文字が目の前に浮かんできた。
【神速を覚えました】
【視力強化Lv10を覚えました】
【情報処理能力Lv10を覚えました】
視力強化は神速の速度に目が追いつけるようにするスキルで、情報処理能力は頭に入ってくる情報の処理能力をあげるスキルだったはず。
これらの文字を見たらなんだか、体がすごく軽くなった気がする。
ほんとに羽が生えたような。
本気で走ればどこまで行けるんだろうと思ったけど。
アヤメが俺のでこに手を当てて立てないようにしてた。
「まぁ、落ち着きたまえよ弟子。走るだけならイノシシでもできるんだよ。人ならば時には止まりたまえ」
そのときだった。
「フブキちゃん、体は大丈夫なんかしらねぇ。ウルフ相手に戦うなんて、安静にしときなさいって言ったのに」
そんな声が聞こえて声の方を向く。
そこに立っていたのはオーカマーさんだった。
手には俺が持ってきたコンビニの袋を持っていた。
(あっ。なんか忘れてると思ったら)
自分の顔も体型も変わったことで浮かれてて店に置き忘れたんだ!
「オーカマーか。なぜここが分かった?」
アヤメの問いかけにオーカマーさんは答える。
「つけさせてもらったわ。あたしこう見えて隠密は得意なのよぉん。あたしのお客さんが忘れ物したみたいでね。届けにきたってワケ」
そう言いながら俺に向かって歩いてきて横にコンビニの袋を置いた。
「あなた、異世界人でしょ?フブキちゃん。初めて見た時からそう感じてた。顔立ちも体型も全然この世界で見ないもの」
そう聞いてくるオーカマー。
この人はもう騙せそうにないよな。
たしか、原作のキャラ設定だとけっこう有能扱いされてたはずだけど、こんなところでその設定がいきるなんてね。
「そうですよ」
原作ではストーリーに絡んでくるようなことはいっさいなかったからこんな展開になるとは思っていなかった。
オーカマーさんは俺を見て続けてくる。
「元の世界に帰れるなら帰りなさいフブキちゃん。あたしの施術、アヤメのツボ押し。これ以上なにかすれば体が耐えられない可能性があるわ。いちおー言っておくけど、あたしはあなたの体を心配して言ってる」
そんなの言われたの初めてだった。
俺を心配してる、か。
家族ですらなんの心配もしてくれたこと無かったのに、何も知らないこの人は俺を心配してくれてる。
その気持ちは嬉しいけど。
「あの世界に帰りたくないんだ」
「どうして?」
俺はオーカマーさんに全部打ち明けた。
なんでこの人はこうやって人の悩みを引き出すのが上手いんだろうか。
分からないけど、俺は急にこの人に全部話したくなったから、話した。
いじめられてたこと、俺は穴を通ってこの世界に来たこと、とか全部。
「ひどい親ね。それは」
そう言ってあごに手を当てて考えるオーカマー。
それから指をパチンとならして俺の顔を見てきて
「いいこと思いついちゃったわ!オーホッホッホ!」
笑顔を浮かべて笑い始めた。
それより、いいこと?
なんだ、それは。
そう思ってたらとんでもない事を口にしてきた。
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