第9話 原作の強制敗北イベント
体長5メートルにもなる巨大なウルフ。
通常のウルフが大きくて1メートルのところ、そいつは5メートルもあるのだ。
グチャグチャ……。
口の中でなにかを噛んでいいた。
牙の間から血が垂れ流れてそれが地面に落ちる。
なにかを食い殺しているのは明らかだが口の中まで見えないが。
俺はなにを噛んでいるのかを知っている。
(ゴブリンを食ってるはずだ……なんて存在感だ……)
ちなみにこのビッグウルフとの戦闘は負けイベント。
有志がゲームを解析してくれたが、そのデータによると勝てないようになっているらしい。
ゲームの仕様上、どうやっても"倒しきれないようになっているそうだ。
ビッグウルフのステータスをもう一度見る。
名前:ビッグウルフ
レベル:168
攻撃力:100
防御力:80
素早さ:100
体力:350
状態:ダメージカット状態
これがこいつのステータス。
このダメージカットの倍率が高すぎて【武器】による攻撃がすべて1になる。
原作では勝てないから三分間耐えるか、それすら待てないなら棒立ちで負けるんだけど。
(これはゲームじゃない。リアルだ)
俺はルゼルに目を向けた。
「
「は、はい!」
「それで隠れてて」
ウルフに目を戻す。
(ゲーマーとして、こいつと戦ってみたい。原作ファンとしてこんなにもやりごたえのあるものはない)
宣戦布告の意味を込めて俺は日本刀の先端をビッグウルフに向けた。
グチャグチャとなにかを噛んでいたウルフの口の動きが止まった。
「ペッ」
ピシャッ。
口に入れていたものを地面に吐き出したウルフ。
そいつは人型で原作と同じゴブリンだった。
そして、この吐き出した意味は……
───────今度は
だが、俺としても入れられるつもりはない。
「お前を倒してみせる」
今の武器は今にも折れそうな日本刀だけ。
でも、そんな状態からでもなんとかしてやる。
それがゲーマーってもんだよな。
まぁ、こんな武器はもう使わないけどな!
ダッ!走り出した。
「ガルゥ!」
ガチン!
ウルフの噛み付き突進。
(大丈夫だ。目で追える)
それを確認して俺は森の中に走り出した。
「ガルゥ!」
獲物を追ってくるウルフ。
「はっ……はっ……」
走りながら落ちているアイテムを回収していく。
【バクレツノタネ×20】
説明:大きな衝撃が加われば爆発する種。取扱注意。モンスターに当たった場合固定ダメージ。
自分の獲得したものが文字として出てくる。
原作だとこうやって戦闘中にアイテムの回収ができなかった。
俺はさらに森の中を走って。
次のものを拾いに行く、そのとき
(右か、左か)
右!
右の茂みから先回りしてきたウルフが噛みつきを放ってきた。
(パニックになるな……)
その行動を見てから左に大きく回避。
噛みつきは動作を見てから大きく避ければ絶対に当たらない攻撃だ。
「当たらんよ」
ダッ!
さらに俺は森の中に入っていく。
次のアイテムを回収する。
【Y字の枝×1】
説明:ただのYの字になってる枝。
そしてその後、最後のアイテムを回収。
【ゴムノハ×1】
説明:ゴムのように伸縮性のある葉。
これで準備は完了だ。
そのとき、視界の端でこう表示された。
スキル【ランナー】を習得しました
だが、気にせずにウルフに目をやる。
今それどころじゃないからな!
(今度は俺がこいつを一方的に攻撃する番だ)
【Y字の枝】の二股の左右の先端部分に【ゴムノハ】をくくりつけた。
それでパチンコができ上がる。
このパチンコで最初に拾った【バクレツノタネ】を射出する。
(武器による攻撃は変動ダメージだけど、一部アイテムによる攻撃は固定ダメージ)
これを使えば俺の考え通りならあのウルフを倒せる。
体感時間はここまで一分半くらい。
(残り一分半……)
ここまでにかかった時間は一分半。
あと半分でケリをつけなければならない。
そのとき、
「ガルゥ!」
ガサァッ!
茂みの中からウルフが出てきた。
ウルフは必ず獲物の視界の外から襲ってくる……そして、自分の姿も隠せるところから襲ってくるという習性がある。
つまり、人間の歩く整備された道に立っていると、茂みのある左か右からしか襲ってこない。
これで出現場所を誘導することが出来て、
(反応もしやすくなる!)
パチンコを放つ。
ドン!ドン!
2発。
バクレツノタネがウルフに当たって弾けて爆発。
しかし、ウルフの動きは止まらない。
【デスクロー】
ウルフの爪が発光する。
(右の前足の爪か)
だから俺は
────あえて近付いて右前足に向かって、前転して回避行動を出した。
攻撃は遅れて出るような感じで俺には当たらない。
あの技はこうやってあえて突っ込めば当たらないようになってる。
「ガルッ?!」
そのままの勢いでウルフは反対側の茂みの中へと消えていく。
一発30ダメージで今ので合計60ダメージ。
それから体感時間だけど……今ので経過した時間は10秒。
このペースで行けば
「奴を倒せるぞ」
解析で討伐不可能と言われたゲーム上の敵を俺は倒せる。
こんなふうにいったん戦闘を離脱してアイテムを回収しながら戦うというのは原作ではできなかった。一度戦えばなぜか攻撃しかできないタイプのゲームだったから。
そういう仕様があったからだ。
でもこの世界にそうやって俺の行動を縛るものなんてない。
次、左!
ドン!ドン!ドン!
今度は慣れて三発ウルフに撃ち込んだ。
「ゴアァァァァァァァァァァ!!!!!!」
これで90ダメージ。合わせて150。残り200ダメージだが。
バクレツノタネにはスタン効果がある。
ヨロヨロ。
「これで終わりだ!」
スタン効果でその場にうずくまるウルフに向けてありったけのバクレツノタネを撃ち込んだ。
追加で10発以上。
確実に致命傷を超えている数だ。
ユラっ……。
ウルフはその場で横向きに倒れた。
完全に沈黙。倒せたようだ。
ちなみにこのウルフは特殊個体で少しデカいだけ。
ドロップするアイテムは通常種と変わらないからアイテムはマズイ。
ま、でも拾っておこうか。
ドロップは【ウルフの牙】だった。
それで思い出す。
(そういえば忘れてたけど最初にこっちに来た時ゴブリンの素材拾ったよな?どこいったんだろ、落としたかな?)
「す、すごいです!」
そのときひょっこりルゼルが横の茂みから出てきた。
「あんな強そうなウルフを倒してしまうなんて」
そう言いながら俺の近くに寄ってくるルゼルに俺からも駆け寄った。
「大したことないよ」
俺がそう言った時だった。
2人分の足音が聞こえてくる。
そちらに目をやると、ひとりはクノイチと言われればだいたいの人がこれを思い浮かべるだろうって姿の人間が立ってた。
(アヤメか。横のフードは……?エルーシャか?)
このゲームにフードを被った奴なんてエルーシャくらいだから。
「驚いた。まさかあの特殊個体を討伐してしまうなんて」
アヤメが話しかけてきた。
「君が倒れてウルフに殺されそうになったところを【奇襲】して倒そうと思ってたんだがな」
彼女が今まで出てこなかったのはそういうことだ。
一番おいしいとこだけかっさらうつもりだったのだ。
だが、俺が倒してしまったせいで出てくるタイミングを逃した、というところか。
原作だとウルフに負けた後プレイヤーのキャラは気絶してアヤメの家に運ばれる流れになる。
俺はウルフを討伐して原作の流れを改変してしまった、今さらだけどイベントはちゃんと進むのだろうか。ちなみにゲームだと改造で倒しても問題なく進んでたけど。
俺が勝手に心配していたら右手の親指で森の中を示すアヤメ。
「ちょうど近くに私の隠れ家のひとつがある。そこに案内しよう。さっきの戦闘で疲れただろ?」
(きた!よし、隠れ家にいけるってことは。ちゃんとイベントは継続してるな!)
ならこの後、俺は初代一のぶっ壊れスキルである【神速】を教えてもらえるはずだ!
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