第7話 これが俺ってマジなのですか?!

歯医者とかにあるような台の上に寝かされた。


「これが今のあなたの魅力値ね。二度と見れないわよ、こんな数字」


魅力値:-200


カポッ。

オーカマーさんは俺のダラしないお腹に吸引機の口を貼り付けた。


「はいはいー。じゃあまずは余分な脂肪から吸っちゃうわね〜」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


ガクガクガクガク!!!!


ズルズルズルズルズル!!!!


吸引器が俺の脂肪だけを吸い取っていく。


「ここ、ね」


途中で止められた。


まだ脂肪は残っているように見えるけど。


「今からこの残った脂肪を筋肉に変換して行くわね」


そう言うとオーカマーさんは今度は俺の腹に手を置くと。


「はぁっ!!!!」


魔法を使う。

急に俺の全身から力が湧き上がるような、そんな錯覚に襲われた。


「湧き上がる力を抑えられないのでしょう?」


オーカマーさんに頷くと俺に何かを渡してきた。


「鉄球よ」


俺は拳に力を込めた。


バキャリ!


鉄球が砕けた。

少しだけ手を広げるとパラパラと鉄くずが床に落ちていく。


砕いた自分に驚く。


(オーカマーさんは脂肪を筋力に変換する魔法を使えるらしいけど……ここまでとは)


まさか鉄球を砕けるようになるとは。


脂肪を吸い取られる前よりも手は小さくなったし腕も細くなった。


なのに、この圧倒的な筋力。

すごい。


筋肉質ってわけじゃない身体なのに、こんなに腕力があるなんて。


「喜んでるみたいね」

「そ、そりゃ嬉しいですよ。こんなの」


そう言ってオーカマーを見るとこっちに近付いてきて、それで俺のほっぺたに右手を伸ばしてきた。


「次は顔、いくわね。肌荒れが酷いからねあなた、それとこれ鏡」


手鏡を渡してきた。


鏡なんて嫌いだった、本当は鏡なんて見たくないんだけど。

でも俺はオーカマーさんを信じている。


鏡を受け取って自分の顔が見えるように手鏡を持つと。


「行くわよ」


魔法を使ってきた。

すると、俺の顔のニキビは消えていく。


「お、おぉぉぉぉぉ!!!!」


悩んできた俺の顔のニキビ。

潰れてへこんだりしてボコボコだったクレーターもなくなっていく!

それはいとも簡単に消えていく。


でも、これではニキビがなくなっただけ。


俺の低い鼻は以前のままだし顔のパーツもお世辞にも良くは無い。


「鼻をもう少し盛った方がいいわね」


ツーっ。

鼻筋をなぞるようにオーカマーが撫でると俺の鼻が高くなった。


それから


「目も大きくした方がいいわね」


次に俺の目の前を撫でると


パッチリ


「まぁ、女の子みたいになっちゃったわね!うっかりうっかり!」


そう言ってもう一度俺の目の整形を行ってくれた。


すると


「おぉ、いいわ〜いいわ〜。これ」


俺は自分の顔に手を当てた。


「これが……俺……?」


手でペタペタ自分の顔を触りながら手鏡を見た。

そこにはさっきまでの豚ヅラのニキビブタは映っていなかった。


高安にいじめられていた、あの弱そうな男は映っていなかった。

オーカマーが話しかけてくる。


「いいわねいいわねー。シュッとした鼻!キリッとした目!やっぱりあなたは光る原石だったわね!おーほっほっほ。こんなところに光るダイヤが落ちてるなんて!」


俺は手鏡をずっと見てた。

本当にオーカマーが言った通り。


自分でも思う。


「すごい、こんな日本人見たことないや……」


高安でもイケメンって呼ばれてた。

でもあんなんじゃ、勝負にならないくらいのイケメンが手鏡に映ってた。


まるで、自分じゃないみたいだったけど、紛れもなくこれは俺だった。


その証拠が、俺の手首にはある。


そこには生々しいリストカット痕が残っているのだから。


「ずっと気になってたけどその傷は?ティガーキャットにでも引っかかれた?」


この世界にはティガーキャットと呼ばれる虎と猫が融合したみたいなモンスターが出てくる。

そいつに引っかかれればこういう感じの傷になる。


「うん、そうなんだ」

「そう。ごめんね、キズアトは私の専門外なのよ」


そう言ってこの痕を消せないことを謝ってくるけど、気にしてない。


このキズアトは俺がたしかに二木 吹雪である最後の証明なんだから。


「ううん、いいんだ。それよりありがとーオーカマーさん。おかげで自信が出たよ」


この見た目なら……俺はルゼルの横を歩ける。


見た目だけなら……。


「あらあら、まだ終わってないわよ」


それから、ルゼルを呼んでいた。


「キティちゃん」

「は、はい!」


そう言って施術室に入ってきたルゼルが口を開いた。


「だ、誰ですか?」


言われると思った。


「お、俺だよ?フブキだよ」

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!」


ルゼルがそう叫ぶと気持ち悪い顔をしてオーカマーさんは笑っていた。


それから俺の髪を触ってくる。


「なんで、テッペンだけチリチリなの?髪の毛」


俺のテッペンだけ天パのアフロみたいになってる。

なんでかって言うと


『今日は美容師ごっこでーす』


とかって高安共がよく分からない液体を俺の頭にかけてたらこうなったのだ。

たぶん、どっかの工場の廃油とかだと思う。


「まずストレートにするわね」


そう言ってオーカマーは魔法で俺の髪の汚れを飛ばしてからストレートヘアーにしてくれた。


それからルゼルに目をやる。


「キティちゃんは彼氏の髪色の希望とかある?」

「か、彼氏ではありませんよ?!」


そうやって否定してくるルゼル。


内心がっかりするけど、まぁそりゃそうだよな。

俺たち出会ったばかりだし。


とか思ってたら。


「銀髪、とか?」


って言い出してオーカマーが俺の髪を銀髪にした。


俺の髪は長いまんまだからすぐに髪色が変わっても気付く。


「こ、これじゃ困るよ」


学校に行けなくなるじゃないか。


(正直行きたくは無いけど、いつあの穴の能力がなくなるか、とか考えたらやっぱ学校は通っといた方がいいよな……心配性だよな)


そう考えたら銀髪はダメかなー?


「んー。やっぱりフブキさんは黒髪ですかねー」


ルゼルのひことこで俺の髪色は黒色に戻った。


「これでひととおりの施術は終わったわ」


そう言って姿鏡を持ってきてくれたオーカマーさん。


鏡の前に立ってみる。


そこに映ってるのは明らかに別人だった。


視界に映る新しい魅力値も俺が生まれ変わったってことを教えてくれる。

魅力値:9999


(夢みたいだ)


そう思ってると話しかけてくるオーカマーさん。


「施術前にも話したけど、あたしが使う魔法のことは知ってるわよね?」


頷いて、俺は今から話そうとしていただろう言葉の続きを口にする。


「細胞の方も俺の姿に合わせて、変化する、だよね?」

「イエス。その過程で熱が出たり体が痛くなったりするかもしれないけど気をつけてね」


オーカマーさんが行う整形の違うところはここだ。


地球の整形じゃ見た目だけしか変わらないんだけど、オーカマーさんが行う整形は内部にも働きかける。

なんでも遺伝子にまで働きかけて、その情報とかも体に合わせて書き換えられるそうだ。


簡単に言うと日本の整形で俺が変わったとして子供を産んでも子供は太った子供になる可能性があるけど、オーカマーさんにしてもらった場合今の俺に近い容姿として産まれてくる、ことになるわけだ。


つまり、以前の俺のように【ニキビブタ】などと呼ばれることは無い、ということだろう。


オーカマーさんはその遺伝子が変わる過程で発熱するかもしれないことを注意してくれてるのだ。


だけど俺も既に知ってることなので、そんなことは承知済み。


「じゃあ、できるだけ安静にしててね。そうね、だいたい今日の深夜くらいに発熱すると思うわ」


そう口にしたオーカマーさんの前で俺は服を着てみたんだけど。


当たり前だけどダボダボだ。


その様子を見てたオーカマーさんは俺に服を持ってきてくれた。


めっちゃキレイな服!


「お代はけっこうよ。フブキちゃん♡」


受け取ろうと思うとわざわさ着せてくれた。

似合うように。


「あ、ありがとございますっ!」

「いいのいいのよ」


そう言ってオーカマーさんはまだなにかを俺に渡してきた。

それは


「お、お金?!」

「お小遣いよ。少ないけど持って行って。応援させて欲しいのよあなたの冒険を」


そう言って渡してきたのはこの世界の通貨である一万ゼル。

ちなみに価値はほぼ円と同じだ。


オーカマーさんに頭を下げた。


「あ、ありがとございます!」


この人、原作通りだ!

聖人すぎる!!!



「ありがとうございました」

「いいっていいって。またなんか困ったらウチに来なさいな」


俺はオーカマーさんに頭をさげて店を後にした。


そうしてルゼルと一緒に歩く。


(やっとだ)


やっと、俺はルゼルの横を胸を張って歩ける見た目を手に入れた。


でも、見た目だけ。

中身はまだまだ


【ニキビブタ】


のままだった。


(強くなりたいな。ルゼルを守れるくらい。次は……そうだな。【神速】を覚えよう。このゲームのぶっ壊れ技)


俺がそう誓っているとルゼルがチラチラ見ているのに気付いた。


「どうしたの?」

「え、そ、その……イケメン過ぎて……見られると恥ずかしいです……」


そう言って俺から目を逸らしてしまう。


(えぇ?)


俺としてはもっとルゼルの顔を見たいんだけどな。


そう思いながらスマホを取り出した。

そこには満面の笑みを浮かべてくれるルゼルが映ってたけど、現実のルゼルはずっと俺と顔を合わせてくれないのだった。


(困ったなぁ)


実に困ったよ。

ルゼルが俺の顔を見てくれなくなっちゃった!


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