第6話 原作知識もスマホも使えるようです

穴に入って繋がった先は前回の森だった。

ぜんぜん知らない場所なんだけど、エルガルダ大陸と聞くと不思議と知ってる場所な気もしてくる。


初代。


シリーズの頂点にして原点。


フェイテッド・ファンタジー。


初代の舞台となった大陸。


俺が大好きなシリーズの、大陸。


で、でも


(たまたま、同じ大陸名なだけかもしれない)


いまだにどこかで疑っていた俺は、最後に質問してみることにした。


「大陸ナンバーワンの剣士の名前はエルーシャ?」

「そうですよ」


ここは……紛れもなくゲームの世界だった。


(確定だなこれ)


原作での言動からゲームファンからは徘徊おばさんなどと不名誉なあだ名で呼ばれたキャラクター。

徘徊おばさんなどと書いたやつは悪意100%なんだろうけど、そのひびきの良さからネットではすぐに愛称となっていた。


もちろん俺はずっとエルーシャ呼びだけど、嫌われても仕方ないくらい本編ではなんもしないキャラなんだよな。


「詳しいですね。フブキさんは」


そう言って笑顔を見せてくれるルゼルに答える。


「ま、まぁね」


1番やり込んだシリーズだから主要なキャラは全部覚えてる。


フェイテッド・ファンタジー。


そのシリーズ一作目のキャッチコピーは。


【闇を消し去る物語】


闇、モンスターや魔物、魔王が存在しており、それを滅ぼすというのがメインストーリー。


ま、まさか俺にこの力が芽生えたのは世界を救えとかって言うつもりなんだろうか。


俺は別に世界なんて救わないけど。


日本でいじめられてきた俺。

今更世界を守ろうだなんていう気にはなれない。


主人公達で勝手にやっていろって思うし。


俺はルゼルと一緒にいられればそれでいいと思う。


って、俺ルゼルbotみたいになってるな。

まぁなにはともあれ。


ここがゲーム世界なのであれば都合はいいな。

時系列さえ分かれば起こるイベントとかの把握が出来るから。

だから今の時系列の確認を行う事にした。


「エルーシャは今どこにいるか分かる?」

「えーっと。現在位置は分かりませんが、少し前に始まりの街に向かったと噂で聞きました」


そこならゲームの進行度的に序盤の方……というかストーリーが始まったばかりくらいかな。

ちなみにこのゲームはエルーシャがどこを徘徊してるかでストーリー進行度がわかってしまうのだ。こんなところで無駄知識が役に立ったな。


よし。

あと確認するこちは


「えーっと。この森の名前は分かる?」

「ゴブリンの森ですよ」


と、なると。

スマホを取り出してみた。


「なんですか?その箱は」

「スマホってやつだよ」


そう言ってカメラをルゼルに向けてみた。


カシャッ。


写真アプリにルゼルの顔写真が追加された。


(カメラアプリも問題なく使えるんだな。なら動画とかも撮れる?)


俺のスマホを覗き込んでくるルゼル。


「わ!私が中にいますよ!すごい!魔法ですか?教えてください」

「これは写真ってものでさ。絵みたいなものだから君じゃないよ」


そう言いながら俺はルゼルの顔写真をホーム画面に設定してみた。

この子の顔を見ていると、なにが起きても頑張れそうな気がするんだ。


と、本題をやらないとな。


次に方角を確認するアプリを立ち上げてみた。


クルクルその場で回ってみて針の方向が一定かどうかを確認。


「よし、方位磁針も使えるようだ」


んで、北はこっちか。

なら行先は決まった。


「西に向かおう」


俺はそう言って西の方向に歩き出す。

ちなみにこの世界はレベル100超えてればまず負けることはないからレベルに関しては十分だ。


「西には何があるんですか?ていうかなんで西がそっちって分かるんですか?」


そう聞いてくるルゼルに答える。


「このスマホがあれば分かるんだよね。ちなみにこの先は始まりの街っていう街さ。聞いたことないかな?」


スマホは通信機能以外ならそのまんま使えるっぽい。

これはうれしい発見だ。



始まりの街に着いた。さいわいここにくるまでモンスターに会うことはなかった。

街の中に入っていく。


この街にやってきたのには理由がある。


(それにしてもゲーム世界は快適だな)


日本と違って誰も俺を見てこない。

太った人間というのが珍しくないのか、誰も特別視してこないし。


まぁ、それもそうか。


チラッ。


(……痛そう……)


大火傷を負ったような人たちも、体の一部がない人も普通に歩いている。

それに比べたら俺はなんだ……ただのニキビで太ってるだけなんだよな。


(そりゃ、誰も気にしないよなぁ)


異世界はいい人ばかりだ。

だからと言って魔王討伐とかに協力するつもりはないけど。


「ところで、この街には何をしに来たのですか?」


そう聞いてくるルゼルに答える。


「君に釣り合う男になりにきたってわけさ」


そう言いながら俺は表通りにあったひとつの建物の前に立った。


(やった!ゲーム通り店があった!)


ゲーム世界だって分かってても、実際に目にするまで本当にあるのか不安だった。

でも、目的地はちゃんとあった!


中に入る。


すると中にはしゃれた空間が広がっていて、カウンターがあるだけの小部屋。


そして、そのカウンターの中では一人のじょせ……男性が仕事をしている。


「あらあら〜随分ふくよかなお客さんが来たわね〜」


オネエ系とでも言うのだろうか。

そういう系統の人だ。体つきは細くてピンク色の髪の毛。


その人が俺に近付いてきて口を開く。


「ここがなんのお店か分かっているのかしらね?ボ・ウ・や?うふん♡」


背筋が凍りそうになったけど臆せずに答える。


「そ、その知り合いに聞いてきたんだけど。ここは特別なサービスをしてくれるって」


そう言うとギロッと目を細めた。


「なるほど。こんなふくよかなのを寄越してくるなん私の腕前を知っているようね」


ふぅ〜。ため息を吐いて名乗っくる。


「あたしはオーカマー。オーカマーちゃんって呼んでね♡」


オーカマーはここに入ってきてから一度もルゼルを見ていない。

ずーっと俺にだけ視線を注いでる。


つまりそれだけ俺に興味があるというわけだ。


「ふーん。見てくれはイマイチ……ってか最悪ね。でも……」


オーカマーは俺のデコに右手を伸ばしてきて、前髪を上げた。


俺の前髪はエロゲ主人公みたいに瞳が見えなくなるくらい長い。

伸ばしてる理由はある。


『生意気な目しやがって』『死んだ魚みたいな目』『気持ち悪い目見せないで』


そんなことを会う人ほとんどに言われてきたから……目が見えないように伸ばしてた。


俺のそんな曰く付きの目をオーカマーさんはしっかりと見てくれた。


「パーツは原石、ね。あたしが磨けば完璧に光るわ」


そう言うとオーカマーさんは必要なことだけを口にしてきた。


「条件付きで無料であなたの見た目をエクセレントにしてあげるわ〜ん」


その条件っていうのは俺は原作知識で理解してる。

この店の宣伝をしてほしい、ということだ。


この店は……なんというか。容姿に自信の無い人が来て、その人たちをイケメンや美女にしてくれるっていう店なんだけど。


その実績をオーカマーは欲しがってる。

ビフォーアフターの写真を撮らせてくれ、それを店に飾らせてくれ。

それがオーカマーの言う条件だ。ただそれだけ。


「呑むよ」

「条件の話も聞いてるみたいね。決まり、ね」


そう言うとオーカマーは今の段階での俺の全身の写真を撮った。


それから


「いらっしゃい。隣のキティちゃんもあたしの手腕を見てていいからね」


ウィンクしてオーカマーは店の奥に向かっていった。

俺も頷いてオーカマーさんに続いた。


ちなみに今から何が行われるか、という話になるんだけど。誤解を恐れずに単刀直入に言うと。


全身整形みたいなものだ。

あ、危険は無いけどね。

だって使うのはメスとかじゃなくて、全部魔法だから。


漫画やアニメみたいに痩せただけで見た目が変わる?

そんなわけないだろう。俺の小さな目も豚みたいに小さな鼻もそれだけで変わるわけがないんだ。

だからこの人を頼る。


ここまでの流れで確信した。

俺は今日【ニキビブタ】を卒業できる。


原作でこの人の評判は知ってる。

最高峰の美容師だ。というより一般的な美容師なんて言葉で片づけられる存在じゃない。


ちなみになんで店が空いてるのかというと、この人はよそから流れてきてまだ噂が広まってないからだ。


(原作知識は問題なく使えてる、きっとここからも使えるはずだ)


ここから俺のゲーム世界蹂躙は始まる。

俺はこの世界を知り尽くしてるんだから。

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