第2話 ここは異世界?レベルアップ?

土のニオイ。

草のニオイ。


どっちだっていいか……。


(なんで俺こんなところにいる?あの穴の底がこんなところに通じてるわけないのに)


思い出す。

あの穴のこと。


例えば工事で開けた穴なんだとしたらこんなところに繋がるわけないし、いいとこ下水みたいなところに落ちるんじゃないのか、それがなんでこんな草原に落ちてる?


四つん這いのままその景色に目を奪われていると。


「ちょ、ちょっと?!ブーちゃん?!」


その声でビクッとした。


ブーちゃん。俺のことを兄貴が呼ぶ時のものだったから。


声の聞こえた方を見ると


「ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」


ドカッ!


俺になにかがぶつかった。


(なんだなんだ)


衝撃で言うと兄貴に蹴られた時のような衝撃。

お腹に痛みを感じて思わず腹を抱えて地面を見ながらうずくまってると。


「だ、大丈夫ですか?」


俺に声をかけてくる人の声。

声の高さで顔を見なくても女の子なのはすぐに分かった。


それから


「ブゥゥゥゥゥゥゥゥ」


と俺を威嚇するようななにかの声。


その両方が気になって俺はなんとか顔を上げた。


すると、そこにいたのは


「ご、ごめんなさい。ブーちゃんが勝手に走っちゃって、て、手当しますので」


そう言ってしゃがみこんで来たのはボロボロの服に身を包んだ女の子だった。

黒髪で黒目の少女。


その子はに躊躇なく触ってきた。


「うわぁっ!!」


びくっ!


女の子に体を触られる。

そのことにいい思い出がない俺はそのまま飛び下がってしまう。


いつだってそうだ。

女が俺の体を触ったあとは


『きったな〜い』


とか言って高安を召喚。

からの


『女の子をいじめる様な豚はお仕置だぞ〜』


ってイチャモン付けられて殴られるまでが、いつもの流れになっていたからだ。


「お、俺の体に触るなぁぁぁぁぁぁ?!!!!」


そんなこと分かりきってるんだよ。


だから飛び下がらずにはいられなかった。


もはや反射になってた。


「なにが手当だ!俺がお前らの考えを分からないと思ってるのか?!」


そこまで言ってあまりの口の悪さに気付いた。


高安は周りにいないのに……。


「ご、ごめん。もう行くよ」


ここがどこだか分からないけど、バツの悪くなった俺はこの子から視線を外して背中を向けるとそれ以上話さないようにする。


それで、辺りに散らばってた入浴道具なんかを回収してもうその子を見ることなく俺は歩き出した。


それで森の近くに来てしまった。


「圏外……」


スマホを取り出してみたけど、電波が届かないのを確認した。


ここにきて、やっとそれを確認すんのか……って感じだけどいろんなことが起こりすぎてて失念した。


「まぁ、どっちでもいいか……っつぅ……」


さっきイノシシみたいなのに突進された時の腹が痛む。


痛みを抑えるようにして腹に手をやりながら。


チラッ。

森の中に目をやった。


「富士の樹海、だっけ。森なら最後を迎えるのにちょうどいいかも知れないな」


さいわい今の俺にはもあるし、受刑者の中には服でという報告もある。


もう生きていても仕方がないと思う。


誰にも愛されない。

誰にも生きて欲しいと願われない。


それが


二木ふたき 吹雪ふぶきという男なのだから。


森の中に入って、ちょうどよさそうな、俺の体重を支えられそうな木の枝を探す。


(生きてたっていいことなんてなかったさ)


誰も助けてなんてくれなかった。


それどころか親ですら敵だった。


すべてが俺を敵視していた。

味方なんていない。


なら、俺が消えてやった方がいいに決まってる……。


そのとき


「ギャッギャッ!」


シャッ!


「なんだ、こいつ!猿か?!」


一本の木の幹の上からなにかが降りてきた。

降りてくる時の声で存在に気付いた。


俺の目は自然とそいつに目がいく。

当然だろう。


すべてが停止した世界でそいつだけが動いてるんだから、人間の目は自然と動いてるものに目がいく。


その時に気付いた。

そいつが棍棒みたいなのを持ってることに。


(武器?!)


そいつは俺の腹に向かって棍棒を振り下ろしてきた。


「ギィっ!!!」


(くそっ!)


避けようかと思ったが間に合わなかった。

棍棒が腹にあたって


ボヨン!


と棍棒は跳ね返りその猿ごと後ろにすっ飛んで行った。


「ギィ!」


体は痛いけど、


「やらなきゃ、やられる……」


手に持っていたタオルを持って走り出した。

殺らなきゃ、こいつにどんな惨たらしい殺され方をするか分からないし。


走り出す。


さいわい、猿はうつぶせの状態になっており、まだ起き上がれてなかったので。


「悪いな」


猿の背中を踏みつけてタオルの両端を持ってから、猿の頭の上から回して首にかける。


「ギェ……」


絞殺だ。

こいつの首を絞めて殺す。


思いっきり、締める。

この猿が高安だと考えると、タオルを握る手にさらに力が入った。


「ギィィ……」


わずか数十秒の事だった。


その猿みたいなのは動かなくなった。


動かなくなってからもタオルを引っ張ってたら。


ブチッ!


タオルがちぎれた。

タオルを捨てて、猿を見下ろす。


「見たことの無い猿だな、こいつ」


足で突っつきながらゴロンと動かして、その顔を見る。

全身が緑色の猿なんて聞いたことないし、


こいつ


(猿じゃないのか?)


そう思い始めた時。


【レベルが上がりました】


ババーン!!!

と俺の視界になにかが出てきた。


「う、うわっ?!」


ここまで意味不明なことばっかだったけど、更に意味不明な事が起きた。


「れ、レベルアップ……?」


いきなり浮かび上がった、文字に手を伸ばした。


(なんだ、これ)


俺の指がレベルアップという文字に触れた瞬間。


ピピッ。


今度は別のものが見えてきた。



名前:二木 吹雪

レベル:6



「な、なんだこれ……れ、レベルアップだって?」


腰が抜けてその場に座り込んだ。


だって、信じられるか?こんなの。

俺はさっき工事現場かなんかの穴に落ちて、それで草原にいて。


そうしたらどうだ?俺はなんでレベルアップなんてしてるわけ?


ひょっとしてこれ


「異世界召喚、ってやつなのか?」


さっきの穴が召喚陣?みたいなのだとして俺がそこに落ちて、召喚されたってことか?


よく分からないけど。


「じゃあ、こいつはゴブリン?」


猿……おそらくゴブリンだと思うけど。

そのゴブリンの死体が光になって消えていく。


そこには


「ドロップ、か?これは」


ゴブリンの牙というものが落ちていた。

一応回収しておく。


俺は歩き出す。


タオルはなくなった。


「はぁ」


ってことで、とりあえず計画はお流しにすることにした。

今はそれどころじゃなくなった。


森の中を歩いていると。


(鼻歌?誰かいるのか?)


「ふんふーん♩」


鼻歌のするほうを見てみると。


「今日はカレーにでもしましょっか♩」

「ブゥ」


さっきの女の子と謎の生き物がいた。


謎の生き物……さっきはそう思ってたけど、たぶんあれはボアってやつだ。


それを見ていたときだった。


ペキっ。


落ちていた枝を踏んでしまって、女の子に気付かれた。


「ブヒィィィィィィ!!!!!」


ボアがまた突進しようとしてたけど、女の子が両手で掴んでやめさせていた。


「なんでも突進するのはやめましょう」

「ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」


じたばたしてるボアを見て、俺は女の子に近付いた。


実は、後悔してた。

さっきひどい事を言ってしまったんじゃないかと。


「さっきの人、ですよね?」


そう聞いてくる女の子に頷いた。


「うん。そのさっきはごめんなさい」


頭を下げた。

ここが異世界なのだとすれば、彼女はなんの関係もない。


この子が俺を騙そうとする必要なんてどこにも無い。


神経質になり過ぎてた。


それどころか100%の善意で声をかけてくれただろうに、それを踏みにじるようなマネをしてしまった。


「い、いえ。気にしないでください」


そう言って女の子は笑った。


「ルゼルです。近くの村で家畜の世話をしています」


そう言って手に持つボアの脇腹の辺りをキュッと両手で軽くしめると。


「この子達を立派な食料にするお仕事をしています。今日はポークカレーのつもりです」


ゲシッ!


「あだっ?!」

「ブヒィィィィィィ!!!!」


ルゼルを蹴りつけてボアは走っていった。


まぁ、そりゃそうだよな。

あんな事を言われたら誰だってそんな反応をするよな。


「あの子はペットだから、ただの冗談なのに」


残念がってるルゼルだけど、ボアを追いかける素振りは見えないので聞いてみる。


「追いかけなくていいの?」

「また新しいペットを捕まえたらいいので」


ボアへの興味はもう既になくなったのか、今度は俺の目を見てきて質問を続けてくる。


「ところで見ない顔ですが、旅の方ですか?」


そう聞かれてどう答えたいいんだろうかって思うけど、ルゼルって下の名前だろうし、俺も下の名前を名乗ることにした。


「フブキ」

「フブキさんですね」


俺が確認の意味を込めて頷くとルゼルは俺に近寄って


「ヒール」


その瞬間俺の体は緑色の光に包まれる。


ズキズキと傷んでた腹の痛みがなくなった。

さっきボアに突進された時の痛みが消えた。


(これは、魔法……?)


というより、俺は痛いなんて一言もいってないのに。


「驚きました?私これでも目がいいので患部くらいは分かるんですよ」


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