第7話 緑揺れる影の日

「でっけぇ……」


 自分の身長と比べたら何十倍だろうか。

 とにかく巨大な木があった。


「入口はオレサマデザイン仕様。そこの看板はかなりのこだわりポイントだぜ」

「はいはい、ドアを開けるとすぐに壁とかじゃないだろうな?」

「僕達の理想の家へ出発進行ー!」


 そして、3人は新たな住居へ踏み入れた。


 中身はというと、思ったより広いというのが感想だった。

 とにかく広いというより、人が住むには丁度いい高さである。


「3階に個室、2階に趣味部屋、んで1階に」

「お客様対応のカウンター?」

「これから反撃でも始めるのか?」

「そっちじゃなくて、店員が対応する場所だ」


 案外脳筋かもしれない黒猫エイト。

 まだ素性も招待も分かって無いが、魔法の世界の不思議ネコと呼ばれたら納得してしまう。

 

 ドアやテーブルは全て木製。

 外の気温が熱くもなく寒くも無かったからか、家の中は適温だった。

 このままいたらうっかり寝てしまいそうなほど。


「でも、なんで? カフェでも経営したいの?」

「経営……か。憧れは少しあったかもな」


 たくみがほんのり笑う。

 窓から入った太陽光で、白く見えるカウンターを右手で撫でながら話す。


「将来の夢って言う程じゃないけど、喫茶店には思い入れがあって。けっこう前からお世話になっててさ」

「近くの喫茶店だと……『マスターセブン』?」

「っ、セブンか。面白い名前だな」


 家からだと、歩いて10分ぐらい。

 と言ってもたくみが言っている昔というのは、小学生とかその頃のこと。

 今とは1歩の大きさが違うから、かかっていた時間も違うかもしれない。


(正直言うと、唯一愚痴を吐けたのがあそこだけという)


「なんだか、兄さんが昔に戻ったみたい」

「そりゃどういうことだアヤト。今までは変わっていたタクミを見ていたってことか?」

「そう言うことよりかは、ちょっと幼くなった……みたいな?」

「なんで疑問形なんだよ!」


 尻尾の毛が逆立ちする程怒鳴るエイト。

 昔から喧嘩が多く、どこか危ない彩人あやと

 そんなんだから、簡単に目を離すことが出来ない。


 はぁ、とため息をつくと2人がこちらを見てきた。

 案外この2人? は相性が合うかもしれない。


「どうしたんだ? 一緒にこっちを見て」

「ううん…… あ、僕お腹空いた!」

「唐突だな。そういうや、家は出来た。あとは……」

「何を食べるかってことか? お前らが近くの魔物を倒せるなら止めないが」


 そこでようやく気付く。そう言えばご飯はどうする。

 衣食住の、住は出来た。

 衣は……多分魔法で何とかなるだろう。


 残り1つの食はどうする?

 まさか本当に魔物を倒す、なんてゲームの真似事が出来るだろうか。


「エイトはどうしてた? 何も食べなくても平気な地縛霊猫じゃあるまい」

「いーや、流石のオレサマも食事ぐらいはしていたぜ。と言っても、魔法で食べ物を集めていたが」

「魔法って……俺達は生まれて1度も使ったこと無い。そんな初心者でも使える魔法とかあるのか?」

「でも実際僕達で家作ったよ」

「……案外いけるかもな」


 明日どころじゃない。

 今日のご飯は一体どうなる!

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異世界は、キミと共に 遅延式かめたろう @-Suzu-or-Sakusya-

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