第3話 出会いの傘の日

 人の流れがいつもより早く感じる。

 靴が大丈夫だとしてもズボンは、踏んだ水たまりで濡れているかもしれない。

 そんな情報がチラッとよぎるが、何とか頭を振ることで探すことに集中させる。



(あーもう、流石に街中だと広すぎるっ!)


 走ってから時間は経ってないと思うが、兄の足の速さは学年トップレベル。

 数分でどこまで移動出来るか、長い間身近で見てきただけあって安易に想像できる。

 時々止まって周りを見ても面影も手がかりもどこにもない。


「……はぁ、はぁ。ぜぇ、はぁ」


 というかそれよりも先に自分の体力が先に終わりそうだった。

 手を膝に付けて何とか立つ状態を維持しつつ、信号が青になるのを待つ。

 街中と言っても都会方面ほどちょっと凄いお店が並んでいる訳では無く、ショッピングモールに時々昔からあるお店。

 それ以外のほとんどは一軒家と何かしらのお店。


(喫茶店とかお金が必要なお店はパス。となると残りは公園とかそっちの方?)


 カバンがあの状態で置かれたから、財布は持って行ってないはず。

 確か普段から財布は持ち歩いてない性格だったし……

 そこまで考えたら、あとは片っ端からポイントを消していくだけ。

 赤信号が青になった瞬間、如月きさらぎ彩人あやとは再度走り出した。


 

___



「懐かしいな、ここ……」


 たどり着いた所は、人気ひとけのない公園。

 残っている遊具はブランコと滑り台程度。残りはちょっとした広場ぐらい。

 家から少し遠いのもあって、小学校になった辺りから来ていない。


 最近は全く来ていなかったから、ここまで記憶の中の公園と変わってないのは驚きだった。

 雨が降っているのもあり、明るい雰囲気がある公園が雰囲気がガラリと変わっていた。

 入口まで入ると、ベンチに座っている人がいることに気付く。


「…………兄さん」


 走っている間、ずっと雨に打たれていたのだろうか。

 茶色が少し混ざった黒色の髪に、広い肩幅。

 白がメインに金色の装飾が付いた、自分が今着ているのと同じ造形の制服。

 フード部分がやや大きめの、校則ではルール違反扱いの赤いパーカー。

 間違いない、その人は自分が探しているその人だった。


「風邪、ひいちゃうよ」

「……彩人あやとか?」

「お父さんとお母さんが心配してたよ、早く帰ろうよ」

「…………いい」


 覇気が感じられない声だった。

 普段から大声で叫ぶタイプでは無いが、ここまで元気が無いという訳では無い。

 ゲームをやってる時は同い年の人と同じぐらい笑うし楽しむ。

 雨で濡れた髪が顔を隠している。


「ねぇ、帰ろうよ」

「帰らない。だから先に彩人あやとが帰ってくれ」

「どうして? いつもと同じように2人で帰ろうよ」

「っ、俺は帰らねぇって決めたんだよ! 家出するって言ってんだろ‼‼」


 急な大声で小さくなる彩人あやと

 それよりも、信じられない言葉がたくみの口から出てきてしまった。

 ここまで来る途中の間、ずっとその言葉が不安でしか無かった。


 言われて欲しくなかった、心が激しくそう叫んでいた。

 お願いだから遠くに行かないでくれ。

 怖くて口から出せないその言葉が、心臓と一緒に叫んでいた瞬間、



 チリン

 鈴の音が1回だけ鳴った。


『家出ってやつ、手伝ってやろうか?』

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