第57話② パラメーター

 そして、


「──へぇ~、それでまずは私のところに来たってワケね」

「はい!」


 姉さん……


「ん? なにアンタ。私のこと睨んで」


 僕のこの目……

 姉さんなら分かってくれるはずだ。

 分かるよね。


「いいわ。ちょうど暇だし付き合ってあげる!」


 この、姉さん……


「相手の好感度が分かるなんて、なんだか新鮮で面白そうじゃない」

「そうですよね!」

「それに、アンタのシスコン具合も一度確かめてみたかったし、ちょうどいい機会ね」


 聞いた? 僕がシスコンだってさ。

 ふん、笑わせないでよ。


 ソレを言うなら、姉さんだってそうだ。

 こっちが黙って聞いてれば、僕だって望むところだよ。


「流石は冬木氏の姉君です! では、さっそく行きますよ!」


 ピピッ!


 【冬木姉:ピンク90】


  一言:生意気だけど可愛い弟よ。

  (や~ん、ホント可愛すぎ……)

  (なんでこんなに可愛いのかしら……)

  (迫られたらちょっとヤバいわね……)


 ピピッ!


 【冬木:ピンク93】


  一言:なんだかんだで良い姉さんだよ。

  (姉さん、姉さん姉さん)

  (僕だよ姉さん)


「……この機械、壊れてるわね」

「……そうだね、壊れてる」


 うん、珍しく姉さんと意見が合うよ。


「冬木く~ん、ちょ~っとこれはどういうことなのかな?」


 篠宮さんが迫ってくる……

 ニコニコしてるけどまるで笑ってない。


「し、知らない……」


 僕はもちろん、他の誰も……


「お姉さんもですよ! これはどういうことなんですか⁉」

「さ、さあ……? 分からないわね」

「むぅ~」


 プクー


 ほらっ、精密機械だからさ。

 きっと故障だってあるんだよ、うん。

 だからそんなにほっぺを膨らませないでよ、篠宮さん。


「あー、これはアレですね。家族の場合だと愛情とかの関係でピンクになるんですよ。なのでこれは家族愛的なモノかと」

「ホントかな? それにしたって後半の一言が……」

「それはまあ、潜在意識ですかね? 知りませんけど」

「さっ、次行こう」


 1人にこんなに時間を掛けてたら、いつまでも終わらないよ。


「まあ、姉弟なんて案外こんなモノですよ。かく言う私もかわいい愛弟がいるんで、気持ちは分かりますよ」

「ちょっと! まだ話は終わって──」

「行くよ、篠宮さん」


 グイッ


 ささっ、つぎつぎ。



「──えっ? ゆう、なにかしら?」


 母さん……


 ピピッ


 【冬木母:ピンク76】


  一言:危なっかしくてすごく心配。

  それと最近、反抗期で困ってる。


 【冬木:ピンク82】


  一言:言いたいことは多々ある。

  だけど良い親だよ。


「……普通ですな」

「そうかな? うん?」

「息子さんの方が若干高い気もしますが、それくらいですね」

「そうだね、友ちゃん」


 2人とも、なんでそんな微妙な反応なのさ。



 ──シャー!


 ピピッ


 【サタン:黄色50】


  一言:シャー!


「流石に畜生の言語までは解析できないようですね」

「そうだね、友ちゃん」


 シャー!


 ……あくまで威嚇対象ってことか、僕は。



 スタタタ、学校ヘ移動。


「お次は、いでよ! 明代氏!」


 バシッ! 竹刀を叩く音。


「なんだ、しのぶじゃないか」

「久しぶり! 明代ちゃん!」

「だな!」


 ガシッ!


「で、どうしたんだ? アタシに何か用か?」

「それが……」

「ちょっ、明代氏! なんなんですか⁉ 私の存在はガン無視ですか⁉」


 バッ! バッ!


「はあ、うっせえぞ友子。いるならいるって言え。ったく、紛らわしい」

「なっ⁉ なんですかその反応は⁉ 私の影が薄いって言いたいんですか⁉ それは昔の話であって今は──」


 サッ


「ん? なんだアイツ?」


 ブルブルブル……


「冬木くん? どうしたのかな? そんなとこで隠れてないで出ておいでよ」


 ごめん、無理。

 明代ちゃんのところに行くなんて聞いてない。


「冬木、だと?……チッ」


 ギロッ


「ひっ⁉」


 ビクッ!


 【冬木:青:25】


  一言:怖い、怖いよ明代ちゃん……

  なんでそんなに怖いのさ……


 ピピッ!


 【明代ちゃん:黄色56】


  一言:一応、認めてやっても──


「チッ」


 ピピッ

 

 【明代ちゃん:青75】

 

  一言:しのぶを泣かしたらぶっ○す。


「おおう、明代氏……見事なまでに恐怖の対象ですね。御見それします」

「……いま一瞬、数値が変わった気がするけど、気のせいかな?」

「いいじゃないですか。それよりも見てくださいよ、冬木氏のこの怯えっぷり。尋常じゃないですよ」


 ブルブルブル……


「チッ、知るかよ。こんな情けないヤツ」


 好きに言えばいいさ……

 そうやって遠くからグチグチとね。


 だ、だからさ、


「あん? んだよその目は!」


 ギロッ!


 睨まないでよ……



 

 ──そして、


「で、次は誰にしますかね?」

「う~ん、どうしようかな?」


 廊下を歩く僕たち。


「あの、そろそろ戻らない?」


 僕の部屋に。


「いやいや、まだ来たばかりじゃないですか。そうは問屋がおろしませんよ」

「友ちゃんの言う通りだよ。ここまできて諦めるなんてあり得ないよ。冬木くんは何を言ってるのかな? ねっ? 友ちゃん」

「そうですよ、ナンセンスです」

 

 ネー


「いや、でも……」


 ほらっ、僕って友だちとかいないからさ。

 学校にいても他に見る人が……


「そうですね~。ふひひっ、こうなったら校内の卑しい男子共を片っ端から……」

「と、友ちゃん、それって……」


 ゴ、ゴクリッ


「いや、冗談ですよ。おやおや〜? さては篠宮氏~、またよこしまなことでも考えていたんですか~? いけませんねぇ~」

「なっ⁉ ちょっと友ちゃん! やめてよ冬木くんの前で! アレかな! 友ちゃんはバカなのかな!」

「またまた~。ピッピの前だからって清楚ブラなくていいんですよ。冬木氏を使って夜な夜なコソコソと励んでいるのは知ってるんですから〜」

「し、してないよ! 冬木くんでそんな想像しないから!」

「ホントですか~? あっ、それともあっちの方でお世話になってたり……おっと、今のは流石にマズいですね」

「だからしてないって! それに冬木くんは理解のある彼くんだからいいんだよ! もうっ! 友ちゃんのバカ〜っ!」


 ボカボカッ! ボカボカボカッ!


「あの、篠宮氏。割とガチで痛いんでやめてください。シャレになってないですよ」

「うるさいよ! 友ちゃんが悪いんだよ!」


 ボカボカボカッ!


 ……あの、女子だけで盛り上がってるところ悪いけどさ。

 もういないと思うんだ。


 僕と接点がある人なんて、もう誰も……

 ちょっと前までは、篠宮さんって言う仲の良い友だちがいたんだけど、もう彼女に昇格しちゃったし。


 友だちゼロ。14歳。

 自分で言ってて悲しくなる。


 はあ、そもそも向いてないんだ、こういうイベント。


 だから、


「──冬木君、やっ!」


 ……あっ


「珍しく賑やかだね。こんなところで何してるの?」


 綾瀬先輩……


 ……って、なにちょっと嬉しくなってるんだ僕は。

 ものすごい不覚。

 アレだよ、この人は認めないから。


「ところで、キミのお姉さんのことでちょっと話が──」

「ムムッ! 出ましたね! 妖怪略奪女!」


 バッ!


 あっ、春風さんが僕の前に、


「妖怪? 私が?」

「他に誰がいますか! ここであったが100年! 行きますよ~! 秘技ッ! 春風アイ~ズ!」


 キラーン☆


 ピピッ!


 【綾瀬先輩:ピンク90】

  

  一言:よく見たら似てるね。

  お姉さんに♡


 うわぁ……なに、うわぁ……

 綾瀬先輩さぁ……

 いや、こうだろうとは思ってたけどさ。


 でも、僕でこれ?

 っていうか、これは僕じゃなくて、僕の向こうにいる姉さんを見てない?

 なにこれ? 一番見たくなかったんだけど……


「これは、思ったよりヤバいですね」

「う、うん……」


 2人も引いてる。


 ヤバいよ、ヤバいよ……

 姉さん、早く逃げて。


「んー? なんで急に避けるの?」


 ピッ


 92↑


 ……なんで上がるのさ。



 

 ──しばらく学校を歩くことにした。

 周りの生徒たちの好感度を片っ端から見ることにしたんだ。


 それで、当然だけど、みんな頭の上にある数字を疑問がってるね。

 これは一体何の数字なんだろうって。


 中には周りより高いからって、嬉しそうにはしゃいでる子もいるけど。

 ごめん。

 キミの頭にあるそれ、僕の好感度なんだ。


「はあ~、結構回ったね。保健室の先生が意外と高くて驚いちゃった」

「はい。それとピンク色多めの男子もチラホラいましたね」


 ウシシッ


「やめてよ友ちゃん。例え男子相手でも冬木くんは渡さないから」

「ほう、今の聞きましたか? だそうですよ冬木氏~。熱々ですね~。ホレホレ、さっきから黙ってないで、何とか言ったらどうですか~?」


 ウリウリ~


 はあ、うざ……

 好感度下がりそう。


 はあ、もう疲れたよ。

 女子って集まると妙に元気になるよね。

 2人に散々振り回されて、もう帰りたい。


「さて、そろそろいいでしょう。んっ、どうやら解除されたみたいです」


 ガチャンッ!


「見てください。解除された音がしました」

「はあ、やっとここまで来たんだね。長かったよ~」


 僕の、篠宮さんに対する好感度……


「冬木くん? さっきからどうしたのかな?」

「篠宮さん、ここまで来て言うのもアレだけど、その、やっぱり見ない方が……」

「むっ、なんでかな? 冬木くんだけ見ておいて、私には見せないなんて、そんなの卑怯だよ」


 いや、それはそうだけど……


「そーだそーだー。ちと見苦しいですよ冬木氏。これを見るために頑張ったんですから、いい加減腹を決めて晒しやがってください」


 でも……


「これでようやく拝めますね。冬木氏の好感度を。トップシークレットです」

「うん! さてと、冬木くんの数値はどれくらいかな? そんなに低くはないと思うけど、お姉さんの件もあるし……」


 ジト~ッ


 うっ……


「まあ、痴話喧嘩はそれくらいにして。爆発してください」


 ピッ


「では行きますよ」

「はあ、やっと冬木くんの好感度が分かるよ。まあ、流石に私よりは──」


 ピピピピピピピ!


 【冬木:ピンク103】


  一言:キミは僕を照らす、優しい光。

  ずっと一緒にいようね、篠宮さん。


 ピピピピピピピ!


「んなッ⁉ なんですかこの数値は⁉ 冬木氏! あなた限界突破してますよ⁉」

「ふ、冬木くん……」

「それにこれは、プロポーズしてるようなモノですよ⁉」

「プ、プロポーズ……冬木くん⁉」


 はあ……


「チッ、見せつけてくれますね!」


 

 だから言ったんだ……

 見ない方がいいって……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣の席の篠宮さんはちょっと変わってる 二月ふなし @tapical_25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画