第57話① 好感度

「──やあ、諸君! また会いましたね!」


 シーン……


 この変なポーズを取ってる変な人は、春風さん。

 僕と同じクラスの春風さん。


 窓を背にして突っ立ってる。

 あの、ここ一応、僕の家なんだけど。


 どうしてキミが僕の部屋にいるの?

 部屋はおろか家にすらあげたつもりはないんだけど……


「フフフ……」


 っていうか、なんで人の部屋でさも当たり前のように腕を組んでドヤってるのさ?

 開幕ワケが分からないし、すごい迷惑なんだけど……

 

「そもそも僕たちって、そんなに絡みなかっ──」

「んんっ、そんな些細なことはどうでもいいんです! それよりも、ホイッ! 私の頭にある数字! 気になりませんか?」


 ん? 頭の数字?

 

「──ホントだ。ピンクで56って、一体なんの数字なのかな?」


 あれ? 篠宮さん?

 いつの間に僕の横に。


 篠宮さんもだよ。

 彼女だからって不法侵入は良くないと思う。

 まあ、別にいいけどさ、ふん。


「そうです、良く気づきました。流石は篠宮氏。お目が高いです」


 ニヤリ


「フッフッフッ……これは我々写真部が長い年月をかけ発明した。そう、俗にいう”好感度パラメーター”なるモノです」


 バーンッ☆


「こ、好感度、パラメーター……⁉」


 ガ、ガタッ⁉


 篠宮さんは驚いてるけど、なにそれ?


「そうです。これは我々写真部が試行に試行を重ね、ようやく完成した、数多の偶然なくしては決して成し得なかった科学の超最先端、そして超結晶。それはもはや何モノも超えることは叶わない究極の……」


 もうすごい早口。


「すごい! よく分からないけどすごいよ友ちゃん!」

「フッ、篠宮氏。褒めても何も出ませんよ。ですがまあ、そうですね。否定はしませんよ」


 メガネ、クイッ!


 なにこの、置いてきぼり感……

 あの、ここ一応、僕の部屋なんだけど……


「それで、その”好感度パラメーター”っていうのは何なのかな? 名前からして大体分かるけど、一応教えて欲しいかな」

「それもそうですね。では、口頭で説明するのは少々面倒なので、これを見てください」


 ピラッ


 PXー708:評価パラメーター


 この装置はあなたの周りの評価、つまり好感度を知ることができる装置です。


 まず事前に1人を設定しておく必要があり、その人物に対する周りの評価が頭上に数字という形で現れます。


 自身が相手に抱く評価、または逆の評価、その双方を算出することできます。

 

 #注意#

 こちらは一切の責任を負いません。

 ご利用の際はあらかじめご注意を。


「……つまりどういうことかな?」

「え~っとですね。つまり一人にしか使えないということです。設定した人に対しての周りの評価と、そのまた逆の相手に抱く評価の両方が……」


 興味ないからかな。

 正直よく分からない。


「まあ、試しに使ってみろってことです。ちなみに今は冬木氏に設定しています」


 ん? 僕?

 ……っていうことは、


 チラッ


 【篠宮さん:ピンク97】

 

  一言:私だけの可愛い王子様。

  もう冬木くんでお腹いっぱいだよ〜。


「……ちなみに基準は?」

「え~っとですね~、青と黄色、あとはピンクに分かれてまして。青は嫌悪度、黄色は友好度、そしてピンクはラブ度を表してます」


 青、黄色、ピンク。

 それぞれ意味が違うのか。


「なんかややこしい」

「好感度と言っても色々ありますからね。この中で一番高いモノが表示される仕様なんです」


 なるほど……


「ちょっと設定を篠宮氏に変えてみますね」


 カチッ


「ふむ、私から見た篠宮氏の数字は、黄色の75ですね」

「友ちゃんの数字は、黄色の67……私の方が高いね。これってどのくらい良いのかな?」

「えー、0はまるで無関心。30はたまに話す程度。50はよくつるむくらいの仲。そして70以上から親友って感じです」


 篠宮さん→春風さんへの好感度は、75

 でもって逆は、67


 あっ……


「友ちゃん……私たちって、親友じゃなかったんだね……」


 リアルな数字。

 これって、世に出したらダメな装置なんじゃ……


「私のことはいいんですよ。私はこう見えて冷めてるモノで」


 クイッ


「ちなみにピンクですが、0は無関心。30はまだ微妙。50は告白されたら悩むレベル。70からそれはもう完全にあなたに惚れてます。アイラブユーです」


 カチッ


「そして青は言わずもがな。数字が高ければ高いほどあなたへの嫌悪感マシマシ。一昨日きやがれです」


 あっ、春風さん、設定を僕に戻した。

 篠宮さんの頭上にまたピンクの97が浮かんでる。


 可愛い王子様……

 お腹いっぱい……


 これが篠宮さんが僕に抱く内面……

 

「ふーむ、普通どう頑張っても90は行かないんですが、いやはや、まさかの97……いや、大概ですよ! 篠宮氏!」

「と、当然かな! 冬木くんに対する私の愛はホンモノなんだよ!」


 エッヘン!


「ほー? 恥らいもなく言ってくれますね。ですが、この王子様というのはいささか……」

「そ、それは……うぅ、やっぱり恥ずかしい……」

「後半はちょっとヤバそうなのでスルーしますが、とにかくスゴイですね。いや、これは独占欲ですか? 意外とそういう路線の素質があったり?」

「友ちゃん、もうやめて……」


 篠宮さん、真っ赤になった顔を両手で隠してる。


 そっか、ホントに僕のことが好きなんだね。

 良かった。

 分かってたけど、安心した。


 でも後半の、僕でお腹いっぱいって何さ?

 どういう意味?

 可愛いって言うのはこの際だから多めに見るよ。

 あとでお仕置きするからね。


 でも、


 ……あっ、そう言えば篠宮さん。

 一緒にご飯を食べてる時、よく僕のことを見てた。


 僕を見ながらニコニコして食べてた。

 正確に言うと、おかずが全部なくなった、しかも白ご飯だけの状態で。


 正直、ちょっと気持ち悪いなって思ってたけど……

 あれって僕で食べてたの?

 ひょっとして、篠宮さん……


 僕をおかずにしてる?


「うぅ……それで、肝心の冬木くんの数字が見えないんだけど、それはどうしてなのかな?」

「言われてみればたしかに。僕の頭には何も出てない」


 おかしいな。

 春風さんには出てるけど、僕の好感度。


「そうですね……ちなみに冬木氏の私に対する好感度は、青の15……冬木氏って私のこと嫌いなんですか?」

「別に」


 まあ、変わった人だとは思うよ。


「この前ボールぶつけたからだよ。友ちゃん、まだ謝ってないよね」

「それは悪いとは思っていますが……意外と根に持つタイプ?」


 知らないよ。


「そんなことよりも、なんで私だけ冬木くんの好感度が分からないのかな? 私だけ見られるの嫌なんだけど……」


 なぜか僕→篠宮さんだけ見えない。

 

「壊れてる? それか、なにかの補正とか?」

「ふむ。どうやらこのパターンにだけプロテクトが掛かってますね」

「プロテクト? なんでそんな面倒なモノが……」

「ちょっと待ってください。説明書は……ありました。むむむ……」


 フムフム


「なるほど、そうですか……」


 開発者の春風さんが説明書を読み込んでる


 まさか、ここから先は有料コンテンツ?

 課金とかしないといけない的な。

 最近そういうの多いし。


「分かりました」

「うん、友ちゃん。それで?」

「実績の解除ですね、これは」

「実績? それって何なのかな?」


 トロフィー的な?

 それはそれでまたゲームみたいだ。


「はい。このプロテクトを解除するには一定数の使用。つまり、何人かの冬木氏の好感度を解析する必要があるみたいです」


 ……それってつまり、僕の好感度を見て回るってこと? 周りの。


「んー? それってどのくらい見ればいいのかな?」

「正直言って分かりません。3人で終わるかもしれないですし、あるいは100人見ても終わらない可能性だってあります。はい」

「……なんかめんどうになってきた」


 それに僕、そんなに知り合い多くないよ。

 

「はあ、もういいよ春風さん。そんな無理にやらなくてもさ」


 続きはまた今度でいいから。

 青とか黄色とかあって無駄に複雑だし。

 それを一々見て回るなんてめんどう極まりないよ。


 その装置もアップデートして、どうぞ。


「余ったこの時間は篠宮さんと一緒に映画でも観てるからさ」

 

 もうそれでいいよね。

 うん、サメで尺埋め。


 あと、こう言うのは日頃からちゃんと言動で伝えてるから。

 キスだって会う日は必ず。

 改めて数値なんて見なくても、篠宮さんには──


「行くよ!」

「えっ……?」


 篠宮さん、今なんて……


「行くって言ったんだよ! 私! 冬木くんの好感度を見てみたい!」

「そう来ると思ってましたよ! 篠宮氏!」

「当然だよ友ちゃん! ほらっ! 冬木くんもジッとしないで早く!」


 ガシッ!


「あっ、ちょっと……」


 行くのか。

 はあ、あんまり気乗りしないんだけど……



             つづくよ→

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