第51話 おすすめ紹介③
──西暦30XX年。
地球。
度重なる環境破壊、止まってくれない温暖化、謎の超常現象の多発。
じき死の星となる、そうなる日は近い。
そう悟った人類は一早く故郷を捨て、新たに宇宙を拠点とすべく、スペースコロニーに移住する計画を立案した。
世界各国から集められた優秀な研究者たち、彼らが導き出した答え、それは木星であった。
木星とはいわゆるガスで構成されるガスの惑星である。
そのガスから得られる超膨大な超エネルギー。
また、周囲の衛星に眠っているらしい豊富な資源。
それらを大量獲得することで、宇宙でも半永久的な生活を営むことが可能だと考えた。
しかし、木星とは前述した通りガスの惑星である。
1000度に達する高温の嵐、触れるだけで即死する超猛毒ガス、無数に降り注ぐガラスのように硬く鋭い雨、etc。
などの過酷な環境下におかれ、酸素はもちろん、地表すら存在しないそれは、生物が暮らすには極めて困難とされる。
また、木星の持つ超重力により、付近にコロニー建設は限りなく絶望的である。
それが政府の出した結論であった。
が、しかし、彼らが研究を諦めることはなかった。
じゃあ、どうすればいいのか。
そこで研究たちが目を付けたのが、木星を周回する軌道衛星、『デブリン』の存在である。
『デブリン』
この衛星は、地球のおよそ8分の1ほどの大きさの衛星である。
主にレアメタルを初めとする特殊な岩石で構成されており、その姿はどこか月を彷彿とさせるモノがある。
また観測上、『海』があると言われている唯一の衛星であり、生物がいる可能性が非常に高い。
『デブリン』
研究者たちはこの衛星を、スペースコロニーと木星を繋ぐ柱として、またエネルギー補給の中間拠点と設定し、計画を続行。
まずは偵察を行うため、『デブリン』に特殊調査隊を派遣したのだった。
しかし、誰も知らなかった。
そこにはすでに開拓者がいたことを。
先に何者かが。
一外敵により浸食された後だったということを。
彼ら調査隊を待っていたのは、人知を超えた超生物、”オメガロドン”であった。
「──って言うのが簡単なあらすじなんだけど……」
「ちょっと待って冬木くん」
「ん? なに?」
「聞き間違いかな? もしかしてまたサメ?」
学校。
お昼休み。
今はご飯を食べた後で、昨日見た映画を篠宮さんに紹介してる。
まあ、いつものヤツだね。
「違うよ。厳密に言えばサメの姿をした地球外生命体だから、むしろプレデターとかエイリアンに近いと思う」
あっ、でも宇宙にいてもサメはサメだから、これもサメ?
でも地球外生命体だし、うーん……
「それってサメを出す必要あるのかな?」
「篠宮さんは何を言ってるんだ。これはサメ映画のくくりなんだから、とりあえずサメを出さないと。何でもいいからさ」
幽霊の出ないホラー映画なんて誰も観ないでしょ?
それと同じ。
まあ、それも見せ方や工夫によっては面白そうだけど。
実は幽霊はいなかった。
じゃあ今までのはなに……?
えっ、こわぁ……みたいな。
「そのサメのせいでいつも台無しなんだよなぁ……」
相変わらずクレーム多いな、篠宮さん。
まあ、B級なんで。
そこら辺は深く考えないで欲しい。
「とにかくすごいんだ! オメガロドンは宇宙で活動する生物だから、宇宙船で逃げようとしても、すごい速さで追いかけて来る!」
宇宙空間で逃げ回るシーンとか迫力あって面白い。
周囲の惑星を破壊しながら追いかけて来てさ。
もうすごいよね!
「海中でいいよね、それ」
「その上、エネルギー弾とか瞬間移動とか使ってきて、無限に追跡してくるんだ」
オメガドロンと宇宙船の放ったビーム光線が衝突して競り合ってるところなんて、無駄にCGが凝っててすごい。
すごいんだ! もう目がチカチカしてさ!
「加えてステルス、赤外線探知、身体発色からのフレア閃光弾、尻尾追尾型爆弾とか。作中でも色々な手を使って、何度も主人公たちを追い詰めるんだ」
「サメがステルス? フレア閃光弾?」
「そう!」
ボシュッ、ボシュッって!
こう言うの手に汗握るって言うの?
見てて何度も、「うおおおおお!」ってなっちゃった。
「相変わらず盛ってくるよね。どうせ最後は丸呑みするくせに」
「それで、最後はヒロイン決死の宇宙船タックルで、誘い込んだ太陽に衝突させてなんとか倒すことが出来たんだ」
「よかったね」
……だけど、
「実はそのオメガドロンはまだ幼体で、その後に、数百単位におよぶ生体のオメガドロンが群れをなしてなだれ込んできて……って、おっと、過度なネタバレは厳禁だったね。ごめん、うっかりしてたよ」
続きはぜひ、キミの目で確かめて欲しい。
「途中、偶然そばを通りかかったスペースターコイズブルーと戦闘する場面があるんだけど、それも結構見どころでさ」
サメとタコが戦う。しかも宇宙で。
ファンなら必見モノだよね。
「戦闘シーンがメインの作品だから、人を食べる描写は比較的少ないし。どうかな? これならグロシーンが苦手な篠宮さんでも──」
「見ないよ」
「えっ? でも篠宮さん、別にこういうの嫌いってワケじゃ……」
「見ないよ。いろいろ工夫してるつもりだろうけど、そんなツッコミどころしかない作品は見ない」
でも……
「しかも最後の方はもう初期設定忘れてるし。SFかサメ、やりたいことは一つに絞りなよ」
「……そっか」
残念、面白いのに。
「はあ、やっぱり冬木くんって変わってるよね。私も明代ちゃんからよく変だって言われるけど、冬木くんはそれ以上だよ」
そうかな?
たしかに自分でもちょっとマニアックだとは思うけど、全然普通だと思う。
こういうのが好きな人も世の中には一定数いる。
げんに何作も作られてるワケだから、一定の需要はある。
何もおかしくないよ。
まあ、仮にそうだとしても、そこは篠宮さんの彼氏だし。
ちょっとくらい変なところがあっても──
「むっ! いま冬木くん、失礼なこと考えてたよね!」
「えっ? 別にそんなことは……」
「ウソ。絶対考えてた。だっていま冬木くん、そんな顔してるよ」
そうかな?
「そうだよ」
顔を見ただけで分かるのか。
「私を甘く見ないで欲しいかな!」
フンス!
篠宮さん。
やっぱり変わってるね。
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