第54話 サプライズ休暇

 僕は今、家にいて、自分の部屋にいる。


 ヌクヌク


 あったか~い。

 この魔力、一度入ったら出られない。

 力が急激に吸い取られていくって言うか。


 これだけ快適だとついだらけちゃう。

 うん、何もやる気が起きないよ。


 ヌクヌク


 そうだよ、僕は今コタツにいる。

 首まですっぽりと入って、顔だけをひょこって出してる。

 部屋でくつろいでる真っ最中なんだ。


 う~ん、冬はやっぱりコタツに限る。

 なんで僕の部屋にコタツがあるのかは知らないけど、なんだか贅沢だよね。

 みかんもあるし、かなり快適。


 うん、ぬくぬく。


 ──シャー!


 やあ、サタン、お前もぬくぬくだね。


 シャー!!!


 コイツはペットのハムスター。

 こうやって飼い主を威嚇するのが大好きな、ちょっと風変わりなヤツ。


 でもなんか、今日はちょっといつもと違うような……

 その悪魔的な耳と尻尾。

 そんなのついてたっけ?

 背中には小さな羽までついてるし。


 冬バージョン? 限定ガチャ的な。

 それに、うちにハム用のコタツなんて置いてなかったような……


 まあいいや。

 それよりポカポカしてきた。

 なんだか頭がボーっとする。

 

 だんだん、考えるのも億劫に……


 今日は……なんだっけ……


 意識が、のまれて……


 コタツと……一体……化……


 ZZZZZ、スヤア







「──んっ?」


 パチッ


 おはよう。

 ごめん、いつの間にか寝ちゃってた。


 ん、3時間くらい寝てた。

 昼間から寝るなんてだらけてるね。

 僕としたことが、流石はコタツ。

 完敗だよ。


 う~ん、スッキリした~

 このザマだともう眠れそうにない。

 今日は夜更かし確定。

 コタツに入ったままゲームをするのが決定した。


 あーあ、このままずっといると太りそう。

 これじゃ、篠宮さんより先に丸くなっちゃうよ。

 ぶくぶくって。


 フフフッ……

 あっ、今のは本人に聞かれると結構マズイから内緒にしてよ。

 

 はあ、今の僕って夜でもないのに変なテンション。

 まるでエナジードリンクが決まってる時みたい。


 みかん、パクッ


 モグモグモグ、篠宮さんは今頃なにしてるんだろう。

 僕と同じでコタツにいて、動けないまま一日を無駄にしてる?


 それとも漫画を読み漁ってる?

 励んでるね。


 ……ん? なになに?

 今日はずっとだらけてばかりじゃないかって? 

 お前は一体何がしたいんだって?


 そろそろそのコタツから出て動いたらどうだ、だって?


 ……いいんだ。

 だって人間には適度な休息が必要。

 そういう生き物だから。


 最近色々あって疲れたし、こうでもしないとやってらんないよ。

 だからたまにはこうやって自主的にサボらないとね。


 ゴロンッ


 それにさ、キミたちもよく休んでるよね。

 こっちは毎日ぶっ続けでやってたワケだから、そろそろ休んでいいと思うんだ。


 不公平だよ。

 だから動かない。

 外野に何と言われようと、僕はここから動かない。


 それに、なんたって今は、冬休み──


 バンッ!


「──じゃーん! ゆう! メリークリスマスよ!」


 なに、姉さん、急に。

 せっかくの休暇なのに。

 まさか邪魔する気? 僕の休暇を。


 あといつも言ってるよね。

 来る時はノックくらいしてって。


 はあ……ったく。

 これだから姉さんは。

 いくら姉さんでも許され──


 ギョッ⁉


 って、なにその恰好⁉

 それは、サンタさん⁉

 姉さんがサンタさんのコスプレしてる⁉

 

「ね、姉さん、なんでサンタさんに……」


 一体どこでそんなモノを、


「演劇部から借りたのよ。それよりもどう? 似合ってるでしょ?」


 一々回ってヒラヒラしなくていいよ。

 それを僕に聞いてどうするのさ。

 僕が正直な感想を言うとでも?

 

「フフフッ、こういうの一度やってみたかったのよね。サプライズ的な? クリスマスと言えばやっぱりコレね」


 サプライズ? これが?


「あっ、アンタ的にはメイド服の方が良かった?」


 メイドさん……いや、別に。

 興味ないよ。

 ホントだよ。


 あとさ、クリスマスはもう終わってるよ。姉さん。

 1週間前にケーキを一緒に食べたよね。


 それを、なんで今さら過ぎたイベントを引っ張って来るのさ。


「まあ、細かいことはいいのよ。それよりも、ほらっ、今日はアンタのために特別ゲストを用意したわ!」


 ゲスト? 母さんとか?

 それとも姉さんのお友だち? 

 どうしよう、全然嬉しくない。


「今日の主役! さっ、篠宮さん、入ってきて!」


 ガタッ


「うぅ……」


 えっ……篠宮、さん?


「お姉さん……その、やっぱり恥ずかしいですよ……」


 そ、その恰好は……


「うぅ、スースーして落ち着かない……」


 姉さんと同じだ。

 普段は履かないはずの短いスカート。

 冬なのに、そんな恰好して……


「ふ、冬木くん……」


 恥ずかしそうにギュッと、短いスカートを手で押さえる仕草。

 こっちに助けを求めるような、それと見ないで欲しいっていう入り混じった表情。


 そんな……

 なんて、なんて可愛らしいんだ……


「よかったわね、篠宮さん。見なさい! ゆうのヤツ、すごく喜んでるわ!」

「べっ、別に喜んでるワケじゃ……」


 これはただ衝撃すぎて、言葉を失ってるだけで……


「こういうのアンタにはまだちょっと早い気もするけど……どう? アンタの彼女、すごく可愛いでしょ? 姉である私に感謝なさい!」


 フンス!


「いや、そんな自信満々に胸を張られても。別に姉さんが可愛いワケじゃないから」

「あら、ひどい言い草だこと。所詮は母さんの子ね」


 姉さんのやれやれって感じの素振り。

 なんだろう、いつになくムッとくる。


 それより、篠宮さんになんてモノを着せてるのさ。

 人の彼女で勝手に遊ばないでよ。

 着せ替え人形みたいに。

 

「何よその顔? 気に入らないって感じね。言っとくけどね、これは全部アンタのためにやってるんだから。ねっ? そうでしょ? 篠宮さん」

「は、はい……」


 コクン……


 ウソだ、単に姉さんが着たかっただけだ。

 さっきそう言ってたし。

 篠宮さんを巻き込んで、迷惑かけないでよ

 

 それにいま楽しんでるのってたぶん、姉さんだけだと思うよ。


「まったく、素直じゃないわね~。あっ、そう言えば……実はこれ、もう一着あるのよね」

「……えっ?」

「サイズ的に母さんは入らないだろうし。って言うか、絶対着たがらないだろうし……」


 当たり前だよ。

 人の彼女だけじゃなく自分の母親にまで。

 なんてモノを着せようとしてるのさ。


「せっかく借りたのに使わないってのもちょっと……う~ん、困りモノね」


 白々しく頭をひねる姉さん。

 あんまり困ってなさそう。


「う~ん、そうねえ……どうする? 篠宮さん」


 チラッ


「そうですね~、どうしようかな?」


 チラッ


 2人とも、なんで僕を見るの?

 姉さんはともかく、なんで篠宮さんまで僕の方を?

 な、なんか、すごく嫌な予感がする……


「お姉さん」

「ええ、そうね。私もそれが良いと思うわ」


 えっ、なに? 一体なに?


「フフフッ……」


 2人の僕を見る目が……

 

 まさか、まさか、


「そ、それを、僕に……?」


 サンタ服を?

 その丈の短いスカートを僕に着せるつもり⁉

 

「イ、イヤだ!」

「あら、まだ何も言ってないじゃない」


 着ない! 

 絶対に着ない! 

 フリじゃないから!


「うんうん。冬木くんの言い分はよ~く分かったよ。でも私も着てるんだから、冬木くんも着るべきだと思うんだ」


 いや、なにそれ。

 篠宮さんの言ってることがおかしい。

 まるで意味がわからない。


 っていうかキミ、さっきまで恥ずかしがってたよね?

 一分前までスカートを手で押さえて、ウルウルって。

 それが今では何ともなくて、これじゃさっきのがまるで演技みたいになってる。


 まさか、もうその状態に慣れた?

 適応しちゃった?


「大丈夫だよ。冬木くん可愛いから絶対似合うよ」

「そうね。私には敵わないだろうけど、アンタもそこそこ良い線行くんじゃない?」

「いや、そういう問題じゃなくて……」


 篠宮さん、言ったね。

 また可愛いって言った。

 それ禁止事項なのに。

 これは後でお仕置きしないとね。


 っていうか、なんで篠宮さんの方が着せたがってるのさ。


 姉さんは分かるよ。

 昔よく僕を着せ替え人形にして遊んでたからね。

 中学の制服を着せられたりもした。


 でも篠宮さん。

 なんでキミまで?

 僕、キミの彼氏なんだけど……


 いや、たしかに前の学校でも、何かと僕を女装させたがるおかしなギャルがいたけどさ。

 僕の頭に勝手にリボンを付けて、ギャハハ☆って。


 なに?

 最近そういうのが流行ってたりする?

 男を女装させる遊びみたいな。


 それともなに?

 僕って意外とそういう……


 いやいや、ない。

 絶対ないから。

 何を血迷ったことを考えてるんだ。

 そもそも僕にそういう趣味はないよ。


「着ない! 絶対着ないから!」


 何と言われようと絶対!

 うん、断固拒否するよ!


「うんうん、分かったから。とりあえず着よっか?」


 篠宮さん、目が怖いよ……


「ゆう、諦めなさい。篠宮さんは本気よ。あと私も見てみたいし、アンタのサンタコス(女性用)」


 姉さんはなんでカメラを持ってるの……


「冬木くんが可愛すぎるのがいけないと思うんだ~」

「そうね、それは同感だわ」


 ゴ、ゴクリッ……


「フフフフフッ……」


 目をギラギラさせた2人が、ジリジリ迫ってくる……

 

 これは、ダメなヤツだ。

 早くここから逃げないと。

 この2人をかわして、部屋から脱出しないと


 よし、そうと決まれば──


 ガシッ!


「うっ⁉」


 なっ⁉ 僕の足が⁉

 コタツから出ようとしたら、何かに足を掴まれた。

 

 コタツに誰かいる⁉

 

 これは……


「ひっ⁉」


 ギョッ!


 か、母さん⁉

 死んだ魚の目をした母さんが、僕の足を掴んでる⁉


 ユウ……


「うっ……」


 ユウウウウウウ!!!


「うわああああ!!!」


 シャー!



「──うわああああああ!!!」


 ガバッ!


「はあ……はあ……」


 こ、ここは、僕の部屋……?


「はあ……はあ……?」


 ゆ、夢……?



 シャー! シャー! 

 

 シャー! シャー! シャー!!!

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