第49話 デビルハム☆
学校。
お昼休み。
教室で篠宮さんと一緒にいる。
「はあ……」
「どうしたの? 篠宮さん」
開幕、そんなに大きなため息をついてさ。
机に顔を埋めて、今日はずっとこんな調子
体調でも悪いのかな?
なんだったら、今から保健室に……
「……ハムスター」
「ん? なに?」
「ハムスターだよ。いや、ハムスター可愛いな~って」
なにそれ?
またいきなりだね。
「最近ハムスターの動画をよく見てるんだ。すごく可愛くてもう癒されるんだよ〜」
「そうなんだ」
「あの食べ物をいっぱいに詰め込んだほっぺとか、もう可愛くて堪らないんだ〜。あと寝てる姿とか、砂遊びしてる時とか、カシャカシャしてるところとか、あげるとキリがないよ」
「ふ~ん」
分かるよ、篠宮さん。
僕もたまに子猫の動画とか見てる。
可愛いよね。
別にネコが好きってワケじゃないけど、不思議と子猫はずっと見ていられる。
見てると愛くるしくてさ。
気づいたらあっという間に時間が過ぎてる
だからつい夜更かしをって……
ごめん、ちょっと自分語り。
今はハムスターの話だったね。
「じゃあ、なんでそんなに悩んでる感じなの?」
今の篠宮さん、全然癒されてる人には見えない。
「私も飼いたくなっちゃって。それで、試しにお母さんにハムスター飼っていいか聞いてみたんだけど、ダメだって。どうせすぐ飽きて世話しなくなるでしょって、全く耳を貸してくれないんだ」
「そっか、それは残念だね」
「そう、うちはペットとかは基本的にダメなんだ……はあ」
すごく落ち込んでる。
そっか、篠宮さん、ハムスターに興味があるのか。
でも、親がそういうのに厳しいらしい。
かわいそうに。
「だったら僕の家に来る?」
「えっ?」
「ちょうど僕の部屋でハムスター飼ってるよ」
「えっ⁉」
ズイッ
わっ、なに急に。
いきなり顔を近づけないでよ。
「……冬木くん、今なんて?」
「い、いや、だから僕、ハムスター飼ってるよって。前に言わなかった?」
「初耳だよ! どうして今まで黙ってたのかな!」
別に、黙ってたワケじゃ……
「……行くよ」
「えっ?」
「冬木くんのお家にお邪魔するって言ってるんだよ! 冬木くんのハムスター見てみたい!」
「そ、そう……じゃあ、学校が終わったら、僕の家に……」
放課後に、ね。
だから少し離れてよ。
顔近いからさ。
──そして、スタタタタッ!
ガチャ
「どうぞ」
「お、お邪魔します……」
学校が終わって、僕の家へ直行。
玄関。
篠宮さん、ぬいだ靴を綺麗に並べてる。
お行儀良いんだね。
ちなみにここだけの話、姉さんはぬぎっぱ。
帰ってきたら靴をポイッって。
めんどくさいらしくてさ、代わり僕が揃えてるよ。
ホント世話のかかる姉さんだよね。
少しは僕の彼女を見習ってほしいよ。
「この階段を上がった先が僕の部屋だよ」
で、さっそく篠宮さんを部屋までご案内。
冷静に考えなくても、これって……
僕、なにげに篠宮さんを家に連れ込んでる
まだ他の住人は帰ってきていない。
この絵面だとまるで、僕が家族のいない日を狙って、彼女と自宅でイチャつこうとしてるみたいになってる。
姉さんの少女漫画で見たことある展開。
まさか僕が、篠宮さんを……
……まっ、僕たち付き合ってるし。
彼女を家に招待するくらいどうってことないよね。
別にやましいことをするワケじゃないんだからさ。
うん、普通普通。
「ここが僕の部屋だよ」
ようこそ、篠宮さん。
誰かを入れるのは人生初めて。
いや、前に姉さんの友だちが勝手に……
「う、うん……」
篠宮さん、緊張してる。
彼氏の部屋に初めて入るんだから、それもそうだよね。
なんだか僕まで緊張してきた。
「へえ~、意外と整理されてるね」
まあ、普段から綺麗にはしてるよ。
精神衛生上、部屋が散らかってるのはあまり良くない。
ゲームにも支障が出てしまうからね。
「そっか、冬木くんはここでいつもゲームをしてるんだ」
そう、神聖な気持ちでプレイしたいから、なるべく部屋は綺麗に──
ゴソゴソ、ゴソゴソゴソ
「……って、何してるの? 篠宮さん」
なんでベットの下なんか覗いてるの?
「いや、ないとは思うけど、一応ね」
「なにが?」
「ううん、分からないならいいよ」
篠宮さん? んー?
「そんなのところにハムはいないよ。ほらっ、篠宮さんのお目当てはここ」
窓際に置いてある小さめな水槽を、机の上に持っていく。
そして、いよいよ、お待ちかね。
本日のメイン。
開けるよ。
カパッ
「こ、これが……」
キラキラキラ〜☆
うん。
シャー! シャー!
シャー! シャー! シャー!!!
「……すごい威嚇してるね、冬木くん」
「そうだね」
「……これは大丈夫なのかな?」
「別に大丈夫だよ。いつもこうだから」
「そ、そうなんだ……」
あれ? 篠宮さん、あんまり嬉しそうじゃない。
思ってたのと違うような、微妙な反応。
ごめん、期待させちゃった?
僕らが見てる小さな水槽。
その中には両手をこっちに向けて、前歯を剥き出してる小さな生き物がいる。
僕と篠宮さんを交互に威嚇してるから、首がすごい動いてる。
コイツが僕のハムスター。
品種はたしか、ゴールデン何とかっていう無難なヤツ。
シャーッ!
「……名前はなんて言うのかな?」
「サタン」
「えっ?」
「サタンだよ。コイツ、こうやって僕に威嚇するのが好きなんだ」
まるで悪魔に取り憑かれたみたいに。
「だからサタン」
「えぇ……」
ふと寄ったペットショップで偶然コイツを見かけてさ。
その時もこんな感じで威嚇された。
両手でゲージを掴んで、僕を見ながらガサガサガサって。
まるで狂乱者みたいに威嚇してた。
それを見た時、なんかビビッと来たんだよね。
特にハムスターとかに興味があるワケじゃなかったんだけど、自分でも不思議。
すぐに母さんに頼んで飼ってもらったんだ
なんか怖いよね。
「篠宮さん、触ってみる?」
「いいの? でもこの様子だと噛んだり……」
「噛まないよ。日頃の溜まったストレスをこうやって解放してるだけだから」
グジグジグジグジ〜!
「そ、そうなんだ……」
うん、こんな感じだけど、水槽から出しても逃げたりしない。
ゲージじゃなくて水槽で飼ってるってのもあるんだけど、今まで脱走したことは一度もないんだ。
「こう見えて暴れたりしないから、掃除にも手がかからなくて……あっ」
そう言えば、
「冬木くん、どうしたの?」
「……ごめん篠宮さん。今日の僕、お風呂掃除の日だった」
マズい。
完全に忘れるところだった。
浴槽とその周りを掃除して、お湯を張らないといけない。
母さんが帰ってくる前にやっとかないと怒られる。
「ごめん、すぐ戻ってくるから。その間サタンと遊んでてよ」
「ま、待ってよ冬木くん!」
シャーッ!
大丈夫、威嚇するくらいには懐いてる。
じゃ、行ってくる。
バタンッ
──そして、ふう~、長引いちゃった。
ほらっ、僕ってこう見えて意外と凝り性だから、汚れがあると気になっちゃうんだ。
落とすのについ夢中になって……
いけない。
長いこと彼女を1人で待たせてる。
早く戻らないと。
階段を登って、
ガチャッ
「お待たせ篠宮さん。お詫びと言ってはなんだけどジュースを……あっ」
ピタッ
こ、これは……
「あっ、冬木くん……」
篠宮さんが、僕のベッドに……
僕のベッドにいる……
「く」の字で横になって、僕の大事な毛布に抱きついてる……
僕の存在に気づくまで、ずっと顔をうめて……
僕の、毛布を……
「し、篠宮さん……」
なにをして……
シャー! シャー!
シャー! シャー! シャー!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます