第48話 ドッジボール

 シュルルルル! バッ! キャッチ! 

 

 キュッ、キュッ! スッ! スパーンッ!


 ──アウトー! ガイヤ!


 バッ! バンッ! キャッチ!


 クイッ! 


 ギュルルルルル……キラーン☆


 ──ココダアアア!!!


 バシンッ


 ──アウトー! ガイヤ!



 ここがどこかって言うと、もちろん学校。

 で、今は体育の時間。

 みんな体操服に着替えて、授業に励んでる最中なんだ。


 あっ、体育館にいるよ。

 

 それで、今日は体育の先生が風邪でお休みしてる。

 だからこの時間はほとんど自由時間。

 各自好きなスポーツをやってて良いんだってさ。


 というワケで、みんなでドッチボールをしてる。


 授業って言うよりは遊んでるに近いかも。

 日々の過酷な授業の息抜きって感じで、みんな生き生きとしてる。

 まるで小学生の頃に戻ったみたい。


 お昼休みになると急いでグランドに行って、みんなで楽しくドッチボール。

 なんだか懐かしくなるよね。


 まっ、当時のほとんどを図書室で過ごしてた僕には、そんな記憶はないんだけどね


 そんなことはさておき、一度戦況の確認。

 味方は僕を含めて、5人。

 でもって、相手は4人。


 うん、激戦。

 僕らが思ってるより、決着は早いみたいだ


 意外にも僕は残ってる。

 ほらっ、僕って影が薄くて、クラスでも目立たない存在だから。

 まだ転校生補正が残ってるからなのか狙われにくい。


 それに、

 

 サッ

 

 避けるのは案外、得意なんだ。

 当たらないよ、そんな弾。

 見切ってる。

 

 サッ、サッ


 僕にはこの脅威の反射神経があるからね。

 このくらいなら集中してればいくらでも避けられる。

 見てからでも全然。


 そうだよ、スピードタイプなんだ、僕は。


 サッ、サッ


 ……それにしても、


 チラッ


 お隣では女子たちがバレーボールをしてる


 キャッ、キャッ!


 あっちはあっちで盛り上がってるみたい。

 中には参加しないで、男子を応援してる子もいたりする。


「頑張って友ちゃん!」


 篠宮さんもいるね。

 休んで観戦してる。


 残念ながら友だちのいるバレーの方を応援してて、こっちは見てない。

 僕としては、いいところを見せたいんだけど……


 ピキーンッ


 おっと、よそ見は禁物。


 サッ


 バシンッ!


 あっ、僕が避けたせいで味方やられちゃった。

 ごめん。

 おかげでこっちもあと4人。


 う~ん、この人数だと、そろそろボールをキャッチする方向にシフトしないといけない。

 味方からもクレームが出ちゃうからね。


 避けてるだけじゃ絶対勝てない。

 なんとかボールを奪取をして、外野にいる味方に渡さないと。


 あと、最後まで残って一人になるのはなんか嫌だ。

 それなら少しでもチームに貢献して、華々しく散った方がいいよね。


 大丈夫、別に怖くないよ。

 実は姉さんとよくキャッチボールをやってて、それで姉さんの必殺投球を取れるくらいには慣れてる。


 それに比べたら、この程度の弾速はなんてことない。

 大きい分取りやすいし。


 キュッ!


 っ! ボールを持った相手が僕を。


 来る!


 ザッ!


 重心を低くして、防御体勢の構え。


 こっちはもう僕以外は強者しか残っていない。

 だからこの人は僕を狙おうとしてるんだ。

 ずっと避けてばかりいる弱腰の僕を。


 でもね、果たしてそう上手くいくかな?

 こっちだって望むところだ。


 帰宅部だからってなめないで欲しい。


 そうだよ、僕は動ける帰宅部なん──


 ダンッ!


──いきますよ~っ! 秘技! 春風ストライク!


 バシュンッ! ギュルルルルル!


 ガンッ!


「うがっ⁉」


 この衝撃、一体……⁉


 僕は今、なにを、どこから……


 グラ~


 そ、そんな……

 視界が……真っ暗に、歪んで……







「う、う~ん……」


 真っ白な天井。

 知ってるようで、知らないような……


 ここは……

 僕は、たしか、


「──あ、起きた」


 横から声が。

 この聞き慣れた声は、


「おはよう! 冬木くん!」


 声大きいよ、篠宮さん。

 寝起きに響くんだけど。


「ここは、保健室……そっか」


 僕、あれから気を失ってたんだ。


「僕ってここでどれくらい?」

「……1週間だよ」

「えっ⁉」


 そんなに⁉


「ウソだよ。大体1時間くらいかな」

「はあ、なんだ……驚かさないでよ」


 ホント、寝起きに悪い。


「今は4時間目だけど、もうすぐお昼休みだよ」


 たしかに、時計はもうすぐお昼だ。


「冬木くんが倒れた後にね、体育の先生がいなかったから、とりあえず保健室で寝かせておこうってことになったんだ」

「そうなんだ……」


 みんなに迷惑かけたらしい。

 あとで何か言ったほうがいいのかな。


「……えっ、じゃあなんで篠宮さんはここにいるの?」


 今は授業中、


「勝手にサボって大丈夫なの?」

「それがね、保健室の先生も風邪で休んでるみたいで。冬木くんをみておく人がいなかったんだよ。それで……」


 なるほど、それで篠宮さんが立候補してくれたのか。

 篠宮さんとはクラスで一番仲が良いからね


 他の人だと絶対気まずくなるから、僕としてもこの方が助かる。


 でもまさか、この僕が気絶するとは。

 しかも、ボールを受けただけで。

 僕の強靭な意識が、一瞬にして断ち切られた。

 まるで強制的にシャットダウンされたみたいだった。


 アレだけ張り切ってたのに、情けないよね。

 恥ずかしい。

 迷惑をかけたこともそうだけど、教室に戻りづらい。


 それにしても、相手の投げたボール……

 軌道が全く見えなかった。

 って言うか、いつ投げたのかすら分からなかった。

 気づいた時にはボールが当たってやられてたんだ。


 たしか、相手はまだボールを手に持っていたような気がするんだけど……


「災難だったね。まさか女子の方からボールが飛んでくるなんて」


 ……なるほど。

 女子からの流れ弾だったのか。


 急に視界の外から来たモノだから、僕の脅威の反射神経をもってしても対応できなかったよ。


「ごめんね。友ちゃんにもあとでちゃんと謝罪させるから……あっ、そうだ!」


 ん?


「私が看病してあげるよ!」

「看病?」

「そう! 冬木くんの看病を私がするんだよ! こうなったのは友ちゃんのせいなんだから、その友だちである私が責任を持って診るべきだと思うんだ」

「いや、何もそこまでしなくても……」


 別に篠宮さんが責任を取る必要は……

 かわせなかった僕も悪いし。


 それにもう大丈夫だよ。

 ひと眠りしたからかな。

 割とスッキリしてる。


 ここだけの話、最近ちょっと寝不足気味だったから。

 案外ちょうど良かったのかもしれない。


「もう起きたんだし、普通に戻るよ」


 特に痛いところもないし、怪我だってない。

 変に張り切ってるところ悪いけどさ。

 どこも悪くないんだ。


 だから──


「ダメだよ」


 グイッ


 ベットから出ようとしたところを、肩を掴んで無理やり戻された。

 うそ、この子、力強すぎ……


「ダメだよ。今の冬木くんは怪我人なんだから、大人しく安静にした方がいいよ。それにすごい音だったよ。もしかしたら表に出てないだけで結構重症かも!」


 たかがボール如きで、それはないと思うけど……

 ボールに何か仕込んでるならともかく。

 たまに過保護だよね、篠宮さんって


「だから包帯巻いとかないとダメだよ」

「いや、そんな、事を大袈裟にしなくても……」

「うんうん、冬木くんの言い分はよ~く分かったよ。でも何かあった時じゃ遅いから。とりあえず包帯、巻こっか?」


 ……聞いてないし。


「良い子だから、ねっ?」


 はあ……

 あのね、篠宮さん。

 包帯は巻けばいいモノじゃないよ。


 もしかして、包帯を巻けば何でも治るとか思ってる?

 そんな万能なモノじゃないよ。

 なにもゲームじゃないんだからさ。


「あっ、熱もあるかも!」


 篠宮さん、なに勝手におデコを出してるのさ。

 それを僕にくっつけるつもり?

 お医者さんごっこでもしたいの?

 

「いや、しないよ」

「そっか、まあいいよ。とりあえず今は包帯、う~ん……包帯、包帯……う~ん、どこだったかな~」


 ゴソゴソ、ゴソゴソゴソ


 勝手に物色してるよ……


「いいよ別に……それより早く教室に戻ろう、篠宮さん」


 これ以上勝手にお世話になるのは良くない


「早く体操服も着替えたいし。それに先生がいないからって、いつまでもここにいていいワケじゃ……」

「大丈夫だよ。なんたって今日は~、ンフフ〜、ここで食べる日だから!」

「は……?」


 な、なにを言って……


「ちゃんと冬木くんのお弁当も持ってきたよ!」


 僕のお弁当をジャーンって見せつけてくる。

 人のカバンを勝手に漁ったのか。


「ほらっ、怪我人は黙って、あーん、だよ」


 流石にそれは……

 いや、たしかに今は2人っきりだし、イチャイチャするのに良い機会だと思うよ。


 だけど授業サボってる身なんだから、そんなことできない。

 みんなに悪いよ。


「あっ、そう言えばさっきデザートを買って来たんだ~、冬木くんが寝てる間に!」


 ちょっと篠宮さん。

 ここ一応学校なんだけど……

 なにこの子、ちょっと自由過ぎない?


 もしかしてタガが外れてる?

 非日常感に当てられてはっちゃけてる?


 まるでフリーダムそのモノ。

 フリ宮さんなの?


「ふふ~ん」


 ~~♪


 

 ……まあ、本人が楽しいそうならいっか。

 それで。

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