第45話 ピピピッ!

 それから、3日後。


 ピピッ


 今は、チラッ、18時。

 窓を見るともう暗くなってる。

 なるほど、日が落ちるのが早くなってきてる。着実に。

 

 みんなも早く帰った方がいいよ。

 僕を見習ってね。


 ピピッ

 

 そうだよ、僕は今、家にいる。

 自宅で趣味に没頭してる。


 ピピッ! ピピピッ

 

 そして、ここはもちろん、僕の部屋。


 ピピッ! ピピピピッ!


 っ! 危ない! 回避!

 

 ブリュンッ!


「……あっ」


 また負けた……

 うん、コンティニューしよう。

 この程度でまだ諦めないよ。


 大丈夫。

 時間はまだいくらでもあるから、焦らずじっくり攻略していけばいい。



 ──あれから3日。

 僕は学校を休んでる。

 あっ、別に不登校ってワケじゃないからそこは安心して。


 一週間くらい休んでいいってさ。母さんが。

 よく分からないけど学校のことで色々あるみたい。

 うん、大人の事情。

 子どもが介入してはいけない。


 それで、もうすぐ冬休み。

 みんなには悪いけど、一足先にウィンターを満喫してる。

 僕の冬休みはすでに始まっているんだ。


 一応、終業式の日は行く予定だから、その日になったら教えてよ。


 それで、怪我についてなんだけど、まあまだ全身が痛い。

 結構派手にやられたからね。

 そっとやちょっとで治るモノじゃない。


 ん? 骨?

 大丈夫だったよ。


 幸い、一つも折れてなかった。

 あんなにボコられたのに……

 僕って意外と防御タイプ?


 日常生活を送るぶんには特に問題はない。

 手の周りは負傷してないから、こうやってゲームするのには全然困らない。

 せいぜいお風呂の時に染みるくらいかな。ふん。

 

 宿題とかも特にないから、ずっとゲームしてる。

 今みたいにずっと部屋にこもって、プレイに勤しんでいるよ。


 普段は口うるさい母さんには何も言われないから、これが結構快適。

 朝早く学校へ行く姉さんを気持ちよく見送った後、ゲームの電源を、ポチッ


 うん、控えめに言って最高。

 まさに天国みたいだ。


 ひょっとして今の僕ってダメ人間?

 これはあとで痛い目を見るヤツ?

 なんだろう。

 冬休み明けの反動とかすごそう。


 まあ、そんなことは隅に置いといて。

 とりあえず今は……


 ピピッ!


 ゲームに夢中な僕。


 ピピピ、ピピピピ


 おっと、危ない。

 ギリギリ、今度は回避できた。


 ピピピピ! テュリュリュリュリュ!


 いける、いけるよこれ。


 ピキーン! 


 ここだ!


 ブリュンッ!


 よし! 倒した! これでステージクリ──


 キラーン☆ グイーン↑↑


 ……へっ?


 ブオンッ! バコッ!


「……は?」


 テュルンテュルン♪


 死んだ……

 残機ゼロ、また最初から……

 

 えっ、なにこれ……? 


 えっ、やっと倒したと思ったら急に発狂して、意味が分からないんだけど。

 削ったはずのHPバーが全快して、意味が分からないんだけど。


 えっと、いま僕がやってるこのゲーム。

 ギャルゲーみたいな絵柄のくせに、すごく難しい。


 色々大味なところもあるし。

 開発した人はちゃんとテストプレイしたのかって疑問になる。


 どのボスも体力が半分になると、狂ったように暴れ出すんだ。

 しかも、なんとか倒しても第二形態まである……

 とてもクリアできそうにない。


 なんだろう、ただただ理不尽なだけって言うか。

 こうすればいいんでしょ? って感が滲み出てる。

 高難易度をはき違えてるよ。


 う~ん、かれこれ一時間くらいずっと同じボスをやってるけど……

 ダメだ。

 全然勝てる気がしない。


 これは時間がかかりそう。

 う~ん、そろそろ集中力が切れてきたよ。


 このまま続けても勝てないだろうし、ただストレスが溜まるだけ。

 身体に悪影響が出てしまう。


 そうだね。

 ちょっと気分転換に、姉さんところにでも──


 ──ピンポーン


 んっ? チャイムの音が。

 配達員さんかな? 

 こんな遅くに、ご苦労様だね。


 まあどのみち、僕は基本的に出ないから、その辺は関係な──


 ──ゆう~! ちょっと降りてきて~!


 一階から、母さんの声が……


 えっ、僕?

 あの、今ちょっと忙しいんだけど……


 ──早くしなさ~い!


「っ……あーもうっ! 分かったよ!」


 母さん、分かったから。

 大きな声で僕を呼ばないで。

 すごい恥ずかしいから。


 もうっ!


 バタンッ!


 部屋から出て、ドコドコドコ!


 階段を下りて、玄関を開ける。


 ったく、誰か知らないけど、こんなに時間に一体なんの──


 ガチャッ!


「……あっ」


 し、篠宮さん……


 篠宮さんだ。

 玄関を開けたら、その先に篠宮さんがいた……


「や、やあ、冬木くん、久しぶりだね」

「う、うん、久しぶり……」

 

 篠宮さん、こんな時間にどうしたのさ。

 今日は学校があって、塾があって、忙しい一日だったはず。

 なのに、こんなところにいる暇は……


 っていうか篠宮さんって、僕の家を知ってたんだ。


「はい、これ。冬木くんにあげるよ」

 

 ドサッ!


「ありがとう。で、なにこれ?」


 この分厚いプリントの山は、一体……?


「学校から支給された冬木くんの課題。授業に遅れないようにって、先生が届けてくれって」

「……な、なるほど」


 私立ってそんなことするのか。


「あとこれは冬休みの課題だよ」


 ドサッ!


「あ、ありがとう……」


 こんなにあるの?

 うそ、僕の宿題、多すぎ……

 っていうかこれ終わる量じゃなくない?

 先生の思念がこもってない?


 とりあえずこの課題の山は、玄関の前に置いておこう。

 よしっと。

 ふう~、重かった。

 

「それで……冬木くん、ちょっと話せるかな?」

「えっ、それは構わないけど、今から?」


 今日はもう暗いから、早く帰った方が良いと思うんだけど。

 明日から土日だから、日をまたいでゆっくり……


「その……今がいい、かな」


 ……篠宮さんがそこまで言うなら、


「分かったよ」


 じゃあ、その、とりあえず上がってく?


 ……っていうのは冗談で、


「母さん、ちょっと篠宮さんを送ってくるから」


 女の子を一人で返すのは危ないからね。

 僕とお話したいなら、その間にでもどうぞ。


 ……って、ん?


「あっ! ちょっと姉さん! なに見てるのさ!」


 リビングから顔だけ出して!

 ニヤニヤして気持ち悪い!

 見世物じゃないよ!


 ヒョイッ


 ……ったく。

 早くあっち行ってよ。


「ごめん篠宮さん。じゃ、行こう」


 玄関を出る。




 篠宮さんをお家まで届ける僕。

 その道中。


 改めてまだ18時くらいなのに、もうすっかり暗くなってる。

 こんな暗いのに一人で来るなんて。

 怖くはなかったのかな? 

 篠宮さん怖がりだから。


 それにしても、


 チラッ


 篠宮さん、お話がしたいって言ってたけど……

 僕たち、さっきから無言。

 家を出てから一言も発してない。


 気まずいとかじゃないけど……

 これは、僕から何か喋った方がいいのかな。

 でもこの前のアレで、何をどう切り出していいのやら──

 

「ねえ、冬木くん」

「なに?」

「あの公園、寄っていかない?」



 えっ……

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