第41話 明代ちゃん強襲
次の日、
午前中の過酷な授業を乗り切って、お昼休み。
お弁当は、どこで食べようか。
とりあえず教室にはいたくないから、屋上にでも行こうかな。
屋上で一人寂しくご飯。
うん、みじめで卑しい僕にピッタリだ。
みんなもそう思うよね。
それじゃ、先に手を洗って──
「──てめえッ!」
……えっ?
うわっ⁉
バシッ! ドカッ!
「うがっ……⁉」
ぶつけた背中が、い、痛い……
教室の隅っ子の壁に、思いっきり……
「うっ、うぅ……」
ズ、ズル……
「──立て。お前は見た目に反して頑丈だろ。この程度でへばったりしないはずだ」
急に僕をぶっ飛ばした相手……
昨日の今日で、なぜか竹刀を持ってる。
そのままゆっくり近づいて、
ギロッ!
見下ろしながら、睨んでくる。
そ、そう……
この人は隣のクラスで、篠宮さんの友だち
名前は、たしか……
「チッ、黙って見ていれば……なんだ、このあり様は」
……それはこっちのセリフだよ、明代ちゃん。
苗字は覚えてないから、もう明代ちゃんでいいや。
教室を出ようとしたら、いきなりこの人に襲撃された。
竹刀を持った明代ちゃんに、正面から斬りかかられたんだ。
あまりに急だった。
脅威の反射神経を持つ僕でも避けられなかったよ。
ザワザワ、ザワザワザワ。
すごい注目を集めてる。
いや、見てないで誰か先生を呼んできてよ。
クラスメイトが暴行を受けてるんだからさ
明代ちゃん……
あの、僕たちってさ、その、ほとんど初対面だよね……
篠宮さん関係で面識はあるけど、話したことは自体全然ないよね。
なのに、なんでいきなり壁に叩きつけられなくちゃならないんだ。
すごく怒ってるのは分かるよ。
親の仇みたいな形相だし。
たしかに昨日、明代ちゃんの肩にぶつかったけどさ。
前を見てなかった僕が悪いけど。
僕と触れたのがそんなに嫌だった?
昨日同様にすごい睨んでくる……
「あ? なんだその目は? 気に入らないってか? 悔しいならなんとか言ってたらどうだ! ああ⁉」
めちゃくちゃ口が悪い。
雰囲気、たたずまい、言動がまさに不良のソレ。
ホントに篠宮さんの友だち?
だけど、
「……僕の何が分かるんだ」
キミに僕の何が……
何も知らないくせに。
それに、近頃ずっと寝不足なんだ。
そんな大声出されると頭に響くからさ。
もうちょっと声を抑えてくれると──
バシンッ!
「このままでいいのか⁉ アイツが! しのぶが! 他の男に取られてもいいのかよ!」
なにそれ……
嫌だよ。
嫌に決まってる。
「ここまで好き勝手されて悔しくないのか! お前はただ見てるだけで何もできないのかよ!」
そんなこと、言われなくても分かってるさ
だけど、
「無理、なんだ……」
「ああ?」
「だって、篠宮さんに関わると、またアイツらに……」
「アイツら?」
そう、僕をボコった不良。
「もし忠告を破ったら、僕はまた……」
今度はもっと……
だから、何もできない。
僕は……
「チッ、やっぱそうか。どうりでビクついてると思ったよ」
……好きに言ったらいいよ。
「なんだ? だから黙って言う通りにしてるのか? ちょっと脅されたくらいでビクビク震えて、情けない」
いや、明代ちゃんは何を言ってるんだ。
こっちは半殺しにされたんだけど。
それをちょっと脅されたで済まされるの?
そうだ。
言う通りにする以外、他に選択肢がない。
こっちの事情を知らないくせに、偉そうに説教しないでよ。
「だんまり、か……おい! なんとか言ったらどうだ!」
気短すぎない?
「……そうやってすぐ怒鳴らないでよ」
怖いからさ。
「そっちだって分かってるはずだ。残念だけど、今さら僕に当たったところで何も変わらない」
何をやったってもう、2人の関係は……
だから──
「うるせえ! しのぶがこうなったのも全部! てめえのせいだろうが!」
バシンッ!
竹刀を床に思いっきり叩きつけた。
そんな滅茶苦茶な……
「チッ! クソ生意気なヤツだ! てめえのその減らず口! もう一撃叩き込んでやるッ!」
来るっ!
ギュッ!
「──ストーップ!」
ガシッ!
「ストップ! 明代氏! そこまでです!」
……ん?
突然、誰かが。
背後から現れた人が、荒ぶる明代ちゃんを止めてくれた。
「ッ⁉ 放せ!」
おかげで助かったけど……
この人はたしか、篠宮さんのもう一人のお友だちで、同じクラス。
名前はたしか、春風──
「放せ友子! 邪魔すんな!」
「何してるんですか⁉ 少し手荒くやるとは言ってましたけど、これはやり過ぎですよ⁉」
「うるせえ! アタシはコイツの腐った頭を何とかしようとしてるだけだ!」
「なんですかあなた⁉ あれだけ大口叩いといて結局暴力なんですか⁉」
モガモガ、モガモガ
春風さん、すごい……
あの凶暴な明代ちゃんを力づくで、腕力だけで封じてる……
「あ、暴れないでください! 見られてます! 周りに見られてますよ!」
「んなことどうでもいいんだよ! 放せって言ってんだろ!」
「なに言ってるんですか⁉ 放しません!」
バタバタ!
「くっ! アタシはお前を! あの時しのぶの前に出たお前にならって!」
バタバタ!
「でもそれは間違いだった! お前はただしのぶを泣かせるだけのクソ野郎だった! お前には心底ガッカリだ!」
ガクッ!
「アイツとはガキの頃からずっと一緒にいるんだ! それをお前は! アタシはアイツを! しのぶを泣かせるヤツは絶対に許さねえッ!」
ウギギギギ……
「は、放せ! 一度コイツの歪んだ根性を叩き直さねえさと、アタシの気が済まねえ!」
「す、すみません皆さん、すみません! うちの神宮寺がご迷惑を! 今すぐ出て行きます!」
「なんだその言い方は!」
「事実じゃないですか!」
少しずつ、僕と距離が離れていく。
そのまま無理やり引っ張って、ドアの方まで、
「あっ! 言い忘れてました、冬木氏!」
モガモガ、モガモガ
「放課後! え~っとたしか……っ! 体育館裏! 体育館裏に来てください!」
ズリズリ、ズリズリ
「出来るだけ早く! そんでもって、そこら辺の茂みにでも隠れててください!」
ガラッ!
「いいですか! 放課後に体育館裏! 絶対ですよ!」
バタンッ!
──おい友子! てめえさっきからどこ触ってる!
──うるさいです! まったく、困った人ですね! みんなが見てる手前でこっ恥ずかしいことさせないでくださいよ!
──それは全部あの腰抜けのせいだろ!
──いい加減にしてください! あとであの教室に戻らないといけないのは私なんですよ⁉
シーン……
なに、今の……
……なに?
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