第40話 進まなくていい
そっか。
何も変わってない。
あの頃と同じで、何も。
7年前のアレは守ったんじゃなくて、ただ身代わりになっただけ。
ただ意味もなくボコられただけ。
きっと僕がいなくても何とかなってた。
余計なお世話だったんだ。
ホント、勝手に守った気になってた自分がバカみたい。
だけど、尾崎先輩は違う。
あの人は僕とは違って不良をやっつけた。
3対1なのに、それをもろともせず1人で。
そこまでされたんだ。
もう素直に認めるしかないよ。
そうだ。
そもそも、僕にはもう篠宮さんと一緒にいる資格はない。
酷いこと言って、篠宮さんを傷つけた。
こんな僕なんかといても、篠宮さんは幸せにはなれない。
何も守れない僕といるより、尾崎先輩といた方がずっといい。
だってそうじゃないか。
あの人は僕と違って、篠宮さんを守り切った。
どっちが一緒にいた方が良いかなんて一目瞭然。
考えるまでもないよ。
それに、もう遅いよ。
たぶん、2人はもう……付き合ってる。
だって、さっきのアレは、そういうことだ
あの勝ち誇ったような目。
僕がもう二度と手を出せないように、尾崎先輩に釘を刺された。
そんなことしなくて、僕は別に……
お似合いだと思うよ。
篠宮さん可愛いし、相手側も清々しいほどにカッコいい。
はたから見ると美男美女のカップル。
うん、良いと思う。
それでいて、2人とも楽しそうにしてる。
僕といる時よりもずっと話も弾んでる。
なにより、僕といるよりはるかに良い絵面になってる。
きっと僕よりも相性が良いんだ。
その証拠に、2人とも急速に仲良くなった。
話すようになってまだ一週間くらいしか経ってないはずなのに、もうあそこまで……
むしろ僕の方、今までがおかしかったんだ。
僕がみたいな陰気なヤツが、篠宮さんみたいな可愛い子と話してたことが。
放課後、図書館で勉強したり、一緒に下校したり、お昼を一緒に食べたり。
全部、何から何まで異様だった。
それが終わっただけ。
世界が正常に戻っただけなんだ。
僕じゃなかった。
クズ人間の僕じゃ不釣り合い。
隣のいるのは役不足。
そうだ、こんな陰気な僕が、篠宮さんと一緒にいること、それが自体が間違いだったんだ。
篠宮さんは、尾崎先輩が好き。
それは、向こうもそう。
2人は両想い。
2人は付き合ってる。
考えたくないけど、認めないといけない。
隣にいるのは僕じゃなくて、あの人。
それを。
篠宮さんにやっと良い人ができて、これで一安心。
だってその人は、篠宮さんを笑顔にできる。
そばにいて守ることができる。
篠宮さんを幸せにできる。
そう、とうに僕はただの部外者で、篠宮さんにとって何者でもない。
むしろマイナスの存在でしかない。
出来ることなんて何もない。
あるとすれば、それは篠宮さんが僕を見て嫌な気持ちにならないように、2人が不快にならないように、なるべく視界に入らないようにする。
それくらい。
そうだ。
これは、普段は目立たない篠宮さんが、学校のアイドル的存在の尾崎先輩と出会ってって、そういう話なんだ。
主人公は僕じゃなくて篠宮さんで、そういう物語。
モブの入る隙間なんて最初からなかった。
今までがバグか何かだった。
もうそれでいいじゃないか。
なのに……っ
『篠宮と関わるな』
ズキッ
ダメ、なんだ……
頭では分かってるのに、どうしても……
引き下がらないと、そう思わないといけないのに……なんで、
なんで……っ、胸が、痛いよ。
今にも張り裂けそうで、なんでこんなに苦しいんだ。
根暗の僕なんかがはなっから敵う相手じゃない。
篠宮さんにとってもこっちの方がいい。
いくらそう言い聞かせても、全然収まってくれない。
頭では認めようしても、身体の震えは止まらない。
篠宮さん、そんな声、僕といる時は出さなかったよね。
僕以外の男と楽しそうにしないでよ。
あの人のどこがそんなにいいんだって。
……分かってるさ、最低だって。
自分から突き放しておいてこの様だよ。
ホント今さらだけど、すごく後悔してる。
受け入れないといけない。
でも無理だ、どうしても。
篠宮さんが誰かとそういう関係になるなんて、日に日に仲良くなっていく2人を見るのは、これ以上耐えられない。
篠宮さんの隣で笑ってるのは僕じゃない。
それがこんなにも……
覚悟はしてたけど、まさかこんなにも辛いなんて。
胸が苦しい。
苦しくて、苦しくて、ずっと。
言いようのない不安がいつも僕の喉元にあって、それが全く落ちてくれない。
だけど、一体どうすれば……
どうしたらいいのか分からない。
それどころか、何がしたいのかすらも。
何も。
もうどうにかなりそう。
このまま頭がぐちゃぐちゃになって壊れてしまうんじゃないかって。
ゲームをしてる時も、ベッドの中にいる時も、ご飯の時も、ずっとこのことばかり。
頭から離れない。
こんな気持ちになるんならいっそ、初めから全部なかった方がマシだって。
何度もそう考えてしまう。
僕だけが前に進めない。
7年前から何も変わってなくて、あの日から全部止まってる。
結局何も、僕1人だけ。
思い知らされたよ。
でも、分からないんだ……
ホント、どうすれば……
分からない。
誰でもいいからさ、お願い、誰か教えてよ。
僕は、どうすれば……
……あっ、そっか。
進めないなら、ずっととどまっておけばいい。
別に無理に進もうとしなくても良いんだ。
ずっとここにいたらいい。
このまま1人で一生後悔する。
だって、もうそれしかないから。
進む資格なんて僕にはないんだから。
ずっとこのままで、このことを一生引きずって、苦しみながら死んでいく。
それが僕の人生。
最初から決まっていたことなんだ。
うん、これが僕に与えられた、僕に相応しい末路。
どこまでも惨めで、ゴミのような存在。
幸せになる資格なんて、僕には無いんだ。
それでいい。
僕にはピッタリ。
うん、スッキリした。
もうそれでいいからさ。
僕は大丈夫だから、
だからさ、
ホント、収まってよ……
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