第39話 完全上位互換

 そして、休み明けの月曜日。

 うん、今日も一日がんばろう。


 ガラッ


 ザワザワ、ザワザワザワ


 ん? 教室に入ったんだけど、何やらざわついてる。

 朝から一体なに?


 ザワザワ、ザワザ……キャー♡


 えっ? どうしたの?


 うーん……ん?

 なんか先輩がどうとうか言ってるけど……

 


 ──僕がそれを知ったのは、お昼休みの時だった。

 気になって綾瀬先輩から聞いたんだ。


 綾瀬先輩の話では、昨日、つまり日曜日の出来事。

 篠宮さんと尾崎先輩が、映画館でデートしてたのを、他の生徒が見かけたそう。


 えっ……でー、と?


 ちょっと待って。

 えっと、尾崎先輩が篠宮さんと話すようになって、まだ一週間とちょっとくらい。

 なのにもうそんなのにこぎつけてるの?


 そんな、僕が篠宮さんと映画を観るようになるまで、一体どれだけかかったことか


 デートをするまで、どれだけの日数を重ねて……

 でも尾崎先輩はそれをほんの数日で……


 篠宮さん……

 

 それで、映画館を出た後、少し目を離したスキに、篠宮さんが不良に絡まれたらしい。

 暗い路地裏に連れて行かれて、乱暴されそうになった。


 ……僕の時もそうだけど、篠宮さんって結構悪い人に絡まれやすい?

 そういう体質なの?


 それで、そこを尾崎先輩がさっそうと駆けつけて、不良たちを瞬く間に一網打尽。

 見事撃退したそう。


 話によると、不良は3人いたそうだけど、尾崎先輩はそれを1人で相手した。

 普通、3対1ならただのリンチなるはず。

 だけど先輩は少し腕を負傷したくらいで、特に目立った損傷はなかった。


 喧嘩って3人いても勝てるモノなのか。

 

 迷わず助けに入ったこともそうだけど、きっちり追い払うところもまたすごい。

 女の子を助けるなんて、まさにヒーローみたいだ。


 っていうのが今、学校中で話題になってる話題。


 こういうのってさ、女子なら一度は憧れたりする?

 たしかに姉さんの持ってた少女漫画でもよくあるシチュエーションだけどさ。


 なんか周りがキャーキャー言っててうるさいんだけど。


 ……で、そろそろ気づいたよね。

 そう、僕とは真逆。

 僕はただされるがままだった。

 何もできずフルボッコだった。


 なのに、尾崎先輩は……

 なんだか、すごい差を、感じさせられる。


 ガラッ


「──先輩、ありがとうございます!」


 篠宮さんが戻ってきた。

 食堂でお昼を取っていたんだ。


 だってげんに、尾崎先輩といるし。

 先輩が教室まで見送りに来てるし。


 2人とも、まだちょっと時間があるから、ドアの前で話してる。

 そこで話すのはちょっと迷惑だと思うんだけど……


 チラッ


 あっ、今一瞬、尾崎先輩が僕の方を……


「へえ~、そうなんですか~」


 グイッ


 急に篠宮さんの腰を、身体を寄せた。

 な、なにやって……


「へっ……?」


 驚く篠宮さん


 そのまま頬に、優しく……


 えっ……


「せ、先輩……急に何するんですか……」


 えっ……


「や、やめてください……みんなが見てる前なのに……」


 篠宮さん、明らかに動揺してる。

 頬にキスされて、顔も赤くなって……


 『誰も見てなかったら良いのかい?』


 そう言ってまた、勝ち誇った顔。


「そ、そうじゃなくて……うぅ」


 僕に、見せつけるように……


「くっ……」


 ガラッ!


 アレ以上見たくない。

 あの場にいるのが耐えられない。


 苦しい。

 胸の動悸がすごくて、張り裂けそうだ。

 どうしよう、どうしよう……

 分からない……

 どうしたらいいのか、分からないよ。


 僕は……


 ボスッ!


「──っつ! おい! なんだてめえ!」


 いたっ……

 し、しまった。

 誰かの肩に思いっきりぶつかってしまった


「す、すみません……」


 前を見てなかった僕のせいだ。


「チッ、どこ見てやがんだ」


 うわ……あからさまな舌打ち。


 ぶつかったのは僕と同じくらいの背丈の女子。

 不良とかではなさそうだけど、とにかく気が強そう。

 あとえらく口が悪い。


 なんか右手に竹刀を持ってる……

 見るからに男勝り。

 その辺にいる男子よりもそうかもしれない


 この人はたしか、篠宮さんのお友だち。

 隣のクラスの……


「フンッ、まあいい。次からはちゃんと前を見て歩け。いいな?」


 よ、良かった……

 許してくれるみたい。


 ホッ


「その、とにかくごめん。僕はこれで……」


 とりあえず逃げの一択。

 怖いから。


 すばやく背を向けて、逃亡。


 うん……って、ん?


 ギロッ!

 

 うわ、すごい睨んでる……

 ジッとしたままこっちを、きつい目つきで見てくる。

 この人、さっき許すって言ったけど、絶対許してないよ。


 ちょっと肩をぶつけただけでそんなに?

 そんな目の敵みたいに睨まなくても……


 ギロッ!



 こ、怖すぎ……

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