第38話 ハイスぺ過ぎ

 それから3日後、


「──あははっ、そうなんですね~」


 篠宮さんの、声……っ


「も~、違いますよ~」


 話が、弾んでる。

 すごい、楽しそう……


 いや、違うんだ。

 これは、別にそんなんじゃなくて。


 ただ篠宮さんって、その、別の男と話す時、そんな風に笑うんだ。

 僕の時と違って……

 

 

 ──この前の食堂で、綾瀬先輩から聞いた


 尾崎聖人おざきまさと

 それがいま篠宮さんと話してる男の名前。

 一つ上の3年生だ。


 3年だからもう引退してるけど、サッカー部のキャプテンを務めていたらしい。

 それで、うちの中学はそこそこ強い。


 すでに推薦入試で合格してて、この辺じゃ一番良い公立高校に行くことに決まってる。

 受験勉強をしなくていいなんて、当事者でもないのに羨ましい。


 かと言って、別に勉強ができないワケじゃなくて、成績も常にトップクラス。

 うちの生徒会長と1位を取り合うほど頭が良いらしい。

 まさに文武両道の化身。

  

 おまけに……っていうかこっちの方が問題で。

 上↑の要素を全て取っ払っても、痛くも痒くもないくらいルックスが良い。


 なんだろう、モデル体型っていうのかな?

 ガタイが良いって感じじゃなくて、高身長でスラッとしてる。

 僕の教室にいた時もそうだけど、すごい目立つ。


 それに加えて、顔もイケメン。

 うちの生徒会長と肩を並べるくらいには。


 綾瀬先輩もそうだけど、中学生には見えない。

 僕と同じ男子中学生とはとても思えない。

 早くも高校生の風格を纏ってる。


 そう、とにかく容姿がいいんだ。


 当然、女子にはモテモテ。

 尾崎先輩の周りには、常に女子が数人ほど取り囲んでるそう。

 話も面白くて、クラスのリーダー的存在。


 周りからの評判は高い。

 だから人望もあって。

 それこそ、うちの生徒会長と張り合うくらい高スペックなんだ。


 綾瀬先輩いわく、ちょっと自信家で、プライドが高い。

 それでいて、自分より上がいることが許せない性格らしい。

 端的に言えば、負けず嫌い。


 表には出さないけども、なにかと生徒会長をライバル視してる、らしい。

 でも生徒会長の方はと言うと、特に尾崎先輩を気にする素振りはない。


 まあ、ちょっと変わってるからね、うちの生徒会長。

 そこがさらに気に入らないんだってさ。


 そういう黒い側面も持ち合わせてる。

 だけどそれを加味しても、ハイスペックがすぎる。

 これじゃまるで、そう、少女漫画とかに出てくる人みたいだ。


 それが今、篠宮さんと話してる相手……


 そうだよね……

 篠宮さん可愛いから、やっぱりモテるよね


 そりゃ、僕がいなくなったら、異性からの1つや2つはお声もかかる。

 むしろ今までがおかしかったくらいだ。


 篠宮さん、たしか前に好きな人がいるって言ってたけど、まさか尾崎先輩のこと?


 ……いや、違う。

 これはそんなんじゃなくて、たぶん……


 おそらくは、尾崎先輩の話術によるモノ。

 少しずつ、丁寧に、篠宮さんの警戒を解いていく。


 経験豊富な先輩にとって、落ち込んでる女子を励ますなんて、きっとお手のモノなんだろう。

 そのまま落とすのも、容易い。


 ずっとふさぎ込んでいた篠宮さんも、徐々に笑顔が増えて、今ではもうすっかり打ち解けてる。


 考えたくないけど……僕のことなんてすっかり忘れてる。

 過去の汚物なんて、あっちにポイッ。


 篠宮さんも篠宮さんだよ。

 たった2週間そこらで、もう別の男と……

 切り替えるの早過ぎない?

 女の子ってそんなモノなの?

 

 ついこの間まで、僕に色々言われて落ち込んでたクセに。

 なにさ、ちょっとイケメンにすり寄られたくらいで良い気になっちゃって。

 僕は綾瀬先輩に一切なびかなか……


 ……やめよう。

 もう終わった仲だ。

 僕と篠宮さんの関係はもうないんだ。


 そもそも僕から言い出したことで、向こうは何も悪くない。

 むしろ、こうなって当たり前。

 それを今さらどうこう言うのって、嫌なヤツはどっちなんだ。

 

「えっ? 私の顔にご飯がついてるって、どこですか?」


 篠宮さんについたご飯粒、

 

 フイッ

 

 それを尾崎先輩が、


「へっ……?」


 指でかすめ取って、そのまま篠宮さんのお口に運ぶ……


 そのまま、ニコッと。


「ど、どうも……うぅ……」

 

 っ……篠宮さん

 いや、これでいい。

 これでいいんだ。


 グググ……


 だからホント、収まってよ……







 ──次の日、


 学校は終。

 今日も1日おつかれさま。

 一緒に下校する友達なんていないし、早く帰ろう。

 

 ……と言いたいところだけど、あいにく今日は日直だからそうはいかない。

 日誌を書いて先生に提出しないと。

 相方の女の子は、僕に丸投げして帰っちゃったし。


 せっかく明日から休みなのに……はあ

 ウジウジしてても終わらない。

 とりあえず今日1日の感想をまとめよう。


 

 そして、15分くらいかかった。

 少し遅れた僕の下校。

 日誌の提出も済んだことだし、やっと帰ることができる。


 まずは下駄箱で靴を履く。

 次に、綾瀬先輩に付けられてないか、周りを注意してっと。


 ……いないね。

 じゃ、帰るよ。


 サッ


 ……って、ん?

 あれは……


 篠宮さんだ。

 校門前に篠宮さんがいる。

 まだ帰ってなかったんだ。


 それと隣には……尾崎先輩。

 まさか……

 最近打ち解けたばかりなのに、もう一緒に?

 そんな、距離の縮まり方が尋常じゃないよ


 ホント、僕の時とは……


 あっ、行っちゃった……

 篠宮さんと尾崎先輩。

 2人が並んで校門を出た。


 やっぱりそっか、そうだよね……


 ……ん?

 でもちょっと待って。

 その後ろに誰かがいる。


 ササッ

 

 一定の距離を保って、隠れるように。

 もしかして2人の後をこっそりつけてる?


 クイッ、キラーン☆


 光るメガネ。


 えっと、なんだろう。

 あの人はたしか、篠宮さんのお友だち……


 ササッ



 同じクラスの……

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