第36話 本来の日常

 2週間後、


 チャイムの音がする。

 ん、4時間目の授業が終わった。

 やっと終わったよ。


 トントントン、教科書を整理してっと。


 よし、今からお昼だ。

 はあ、お腹減った。

 それで今日は、えっと……そうだね。


 とりあえず昨日は屋上前の階段だったから、今日は体育館にしようかな。


 綾瀬先輩が来る前に早く移動しよう。

 あの人まだ姉さんのこと諦めてないんだ。

 アレがもうしつこくてしつこくてさ。

 教えないって言ってるのに全然引いてくれない。 


 悪趣味なドラマの話も聞きたくないし。


 見つかる前に早く行こう。

 それじゃ、教室を出るよ。


 ガラッ


 

 そして、着いた。

 ここは体育館の2階にある観客席。

 

 今はお弁当を広げて食べてる。

 当然、1人で。


 モグモグモグ……


 う~ん、体育館。

 イチャついてる人たちもそれなりいるけど、それと同じくらいお一人さまも多い。

 5分5分の良い勝負ってところ。


 まあ、大多数は食堂か、教室で食べてるワケだから、ここにいる生徒の数なんてたかが知れてる。

 ザッとみて20人くらい。


 空間的にも余裕があって結構空いてるもんだから、1人でも落ち着いて食事を取ることができる。

 そうだよ、ここって意外と穴場なんだ。


 モグモグモグ……


 うん、今日も美味しい。

 


 ──あれから2週間。

 特に何も起きないまま、相変わらず僕の退屈な日常は続いていた。


 淡々と学校へ行って、終わると下校する。

 で、家に着いたらゲームの電源をポチッ。


 それの繰り返し。

 何も変わらない。

 代わり映えのない日々。


 篠宮さんとは一切口を聞いてない。

 それどころか目も合わせてない。

 たまに配られるプリントが足りない関係で、横にいる篠宮さんから流れてくる。

 それくらい。


 お昼の別々に食べてるし、下校も一人で帰ってる。

 もう完全に他人って風で、一か月前がまるで幻想みたいに感じる。


 篠宮さん、やっぱり最初の方は落ち込んでた。

 僕に言われたことが結構キテるらしくて……そうだよね。

 あれだけ酷いことをぶちまけたんだから、そうなるのも無理ないよ。


 僕がそうしたってのもあるんだけど、そんな感じの篠宮さんがずっと横にいて、正直僕まで気が参ってくる。


 ここ最近はずっとふさぎ込んだまま。

 たまに学校をお休みしたり、次の日に登校したと思ったら目の周りが赤く腫れてたり。


 僕のせいではあるんだけど、結構ひどい状態。

 もう合わせる顔がないってくらい。


 友達といる時もそう。

 表面上は明るく振る舞ってはいるみたいだけど、それはどこか作ってるみたいで、遠目から見ても辛そうにしてる。


 きっと友達を心配させないように、無理してるんだと思う。


 それで、朗報。

 席替えがあったんだ。


 新しい席は前の方。

 うん、ガッカリだよ。

 最初は周りが人がいて、敵に囲まれてるみたいで緊張してたんけど、案外すぐに慣れることができた。


 元々ここに来る前はこんな感じだったから。

 身体が覚えてるってヤツなのかな?

 どうやら染みついてたみたい。


 一方の篠宮さんと言えば、後ろの方。

 なんと僕がいた窓際の席。


 また後ろの、それも端っこの方。

 なんて豪運の持ち主なんだ。

 素直に羨ましいよ。


 窓際を取られたのは正直痛いけど、これでいい。

 ずっとあのままは気まずかったし、正直助かってる。


 後ろさえ見なければ篠宮さんを視界に入れなくて済むからね。

 ちょうどいい機会だと思ってる。


 前とはガラリと変わった僕の生活。

 でも本来、これが僕の日常なんだ。

 そう、ただ戻ってきただけだから。


 僕は平気、うん、平気。



 ごちそうさま。

 お弁当も食べ終わったことだし、そろそろ戻るよ。

 戻ったらとりあえず明日の課題でもやろうかな。


 家に帰って少しでもゲームの時間を確保したいし。

 うん、そうしよう。


 じゃ、僕は戻るよ。




 ──そして教室へ、ドアを開けよう。


 チラッ


 ……ん? ちょっと待って。


 後ろの方から入ろうとしたら、篠宮さんがいた。

 ドアをちょっとだけ開けると、隙間から席に着く篠宮さんが見えた。


 おかしいな。

 たしかこの時間帯はいつもはお友達と食堂で、って……


 んん? 男がいる。

 篠宮さんの向こう側の席に、男がいる。


 篠宮さん、男といる……


 誰だろう? 知らない人だ。

 上履きの色からして3年。

 見た感じ背も高そうだし、なんだか明るくて活発そう。

 それにぱっと見だけどすごいイケメン……


 篠宮さんになにか話しかけてる。

 だけど、当の篠宮さんはまだふさぎ込んだままで、会話はおろかろくに返事すらしていない。

 3年の人が一方的に話してるって感じだ。


 ……分からない。

 篠宮さん、これはどういう状況?

 その人は、一体……


 ……いや、よそう。

 僕には関係ない。

 篠宮さんが誰といようと、僕にはもう関係ない。

 今さらだよ。


 危ない。

 このままずっと棒立ちのままだと変な人になる。

 幸い、向こうには気づかれてないみたいだから、今のうちにこっそり席に戻ろう


 影が薄いのが役にたった。


 そうと決まれば、素早く右折。

 大丈夫、こういうのは結構得意──


 チラッ

 

 あっ、いま一瞬、3年の人がこっちを見た。

 僕が曲がる直前に、目が合ってしまった。


 スッ


 ……とりあえず、そのまま自分の席まで戻ったんだけど、



 ……なに今の?

 なんか、嫌な感じだ。

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