第21話 悪魔祓い
とある部屋の一室。
ほとんど何もない殺風景な部屋。
中には人が。
男と少女と見られる人物が2名。
みすぼらしい姿の少女は椅子に縛れ、身動き一つ取ることができない。
対して、立ったまま見下ろすように彼女と向き合う、黒服に身を包んだ男。
部屋に響く絶叫。
それは少女が発するモノとは到底思えない、世にもおぞましい低音。
そんな少女に向かって、もう一人の男は片手に黒い本を持ち、何か必死に異議唱えていた。
手に持つ十字架に、バキッ! 亀裂が!
──アアアアア! アアッ! アアアアア!
ガンガンッ! ガンガンガンガンッ!
『神は全てを見通している。ここは本来お前がいるべき所ではない。彼女の身体から放れ、ここを立ち去れ。そうすれば神は全てを許し、幸福で満たすだろう』
──ウガアアアッ! ウグッ! グルルルルッ……
『神は全てを救いになる。その穢れた魂を浄化し、天にいる母の元へと還そう』
『ブハッ! 無駄だマイケルッ! ペッ!』
ビチャッ!
『っ……少女は夢を見た。緑色のカエル、冷たい池の中で飛散する白蛇、非常の楽園、それはどんな罪をもふるい落とす神の──』
『ハハハハハッ! ケビン神父は死んだぞ。あとはお前だけだマイケル』
『くっ……!』
『神を信じてないな? お前の言葉からはまるで信仰心を感じないぞマイケル』
『ッ⁉ 黙れ! 神の言葉に嘘はない! いい加減に彼女の身体から離れろ!』
『フフフ……お前の闇を知ってるぞマイケル。愛する母を友人に取られ、そして将来を誓い合った愛人までも別の男に……おお、可哀そうに、なんて可哀そうなマイケル……孤独がお前を蝕んでるぞマイケル』
ガタッ!
『黙れ! お前に何がわかるッ! 僕の何がッ!』
『ああ、分かるとも。お前は負け犬だマイケル。このままやられってぱなしでいいのか? お前を嘲笑う醜悪な者たち、奴らを蹴散らしてやりたいとなぜ思わない? 』
『彼女から出ていけ! 彼女を解放しろ!』
『母親がお前のベッドで友人とヤッていた時、お前は何を思った? あのビデオを見た時、愛人を奪われたと知った時の、お前の目には何が映っていた?』
『やめろ! これ以上僕の頭に入り込むな! そうやって! 勝手に心を覗き込むなッ!』
『フフフフ……で、次はどうだマイケル? 今度はアイツか? あの性悪女か? お前が心から慕っている彼女も、今ごろ別の教徒とよろしくヤッてるぞ。ハハハハハ』
『やめろ!』
『さっきコイツを救うとか言っていたな? なら俺がお前は救ってやる。どうだ、悪い話ではないだろう? お前の望むモノは何でもくれてやる。何も与えてくれないお前の主と違ってな』
『やめるんだッ!』
『マイケル、おお……神に見放されたマイケル。一生独りぼっちの可哀そうなマイケル。どなたか彼に救いを、この哀れな男に、どうか神の施しとやらを与えたまえ』
チラッ
『おっと、今のは女神の方が良かったか?』
フッ
『うっ、うわあああああ! やめろおおおおおお!!!』
『ハハハハハッ! ハハハハハハハハハハッ!』
『あああああああ! ああああああああ!!!』
『……』
『はあ……はあ……はあ……』
『マイケル、時間だ』
『はあ……はあ……わ、分かった、認める、認めるよ……』
『フフフフフ』
『ああ……』
『ようやく理解したか、自身の内にある孤独を。その寂しさを埋められるのは俺だけだ』
『ああ、ああ……』
『そうだマイケル、俺だけがお前の痛みを理解できる。俺と組めマイケル、そしてこの俺に服従しろマイケル』
『キ、キミの言う通りだ……母は僕を捨て、信じていた友人にも裏切られた。急に出てきたアイツも、アイツを選んだ彼女も、全てを憎んでいる……きっと神に対しても、そうなのかもしれない』
『ハハハハ』
『だけど愛は、僕の愛する心だけは本物だ。彼女たちを想う僕の気持ちに、神を祈る僕の心に、嘘偽りはない』
『……ん?』
『今まで知らないフリをしていた、決して認めようとはしなかった。無意識に抑えていたこの快楽を、この内なる喜びを……でもこれからは違う』
『ん? ん?』
『僕はとっくに壊れている、そうだ、当の昔に破壊されているんだ』
『マイケル、お前なにを……』
『これは最初から僕の望んでいたことだ。どれも偶然なんかじゃない、こうなることを分かっていたんだ。全てを分かった上で……認めるよ、僕の罪を、本当の自分を』
『……』
『あと神も信じる』
『ッ⁉』
バッ!
『忌まわしき邪悪の手先! お前に命じるッ! 神の鉄槌の元お前に審判を下すッ!』
『ぐあッ! ああああああ!!!』
『お前を裁くのは神だ! 恐怖、絶望、快楽! 神はあらゆるモノを打ち砕く!』
『ああああああああ!!!』
『人はお前を恐れるだろう、だが神はお前を恐れないッ! 神は全てを超越する!』
『ああああああああ!!!』
『引き裂かれた大地! 荒れ狂う死の海! 暗雲に差す光の天鱗! この神域を前に、何者の冒涜をも許さないッ!』
バッ! バッ! バッ!
『ぐおおおお! マ、マイケル……マイケル! やめろおおおお!!! 俺を! 俺を一人にするなあああ!!!』
『……それは違う』
ピタッ
『ッ⁉』
『お前を一人にはしない。なぜなら、神がお前をいざなうからだ。お前を同士として、こちら側へ迎え入れるからだ』
ヒ、ヒエッ……
『ッ⁉ よせマイケル! それだけは! それだけはいやだあああああ!!!』
『神の力がお前を勧誘する! 新しい力がお前を歓迎する! 神の導きに感謝し、この教典と十字架の前にその態度を示せ!』
『ほわああああああああ! やめろおおお! やめてくれええええ!!!』
『同胞となった魂よ! その証としてお前の名をこの場で明かせ! さあ、名前を言え! 今すぐここで名前を言うんだ!』
『ゴ、ゴース……』
『名前を言え!』
『ゴース、ゴースだ……』
『名前を言え!』
『ッ⁉』
『名前を言うんだあああ!!!』
『うわああああああああ!!!』
『ザ・エックソシスト~贖罪の悪魔~』
上映終了
ガヤガヤ、ガヤガヤガヤ
ふう~、やっと終わった。
んっ、耳にまだ余韻が残ってるや。
「うん、面白かった。ねっ、篠宮さん」
って、ん?
「うっ……うぅ……」
ブルブルブル……
あっ、篠宮さん。
僕の隣で震えてる。
これでもずっと手を握ってたんだけど、ダメだったみたい。
「篠宮さん、篠宮さん、ほらっ、目を開けて。もう終わったから、今はもうエンディングだよ」
ユサユサ、ユサユサ
「うぅ……」
あらら。
これはしばらく出られないかも。
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