第22話 かっ飛ぶ爽快

「うえ~ん! 怖かったよ~!」

「だからやめた方が良いって言ったのに」


 そんなに号泣するくらいならさ。


「だって、だって、冬木くんが~!」


 はあ、まあそれも篠宮さんらしいけど。


 今回の映画。

 うん、面白かった。

 ストーリーや演出、どっちもかなりレベルが高くて良かった。

 最後の方はちょっとよく分からなかったけど、とにかく最高だったよ。


「うぅ、冬木くん……私、頑張って観たよ……次は恋愛だからね、約束守ってよね」

「うん、分かってる」

「ホントだよ、絶対だよ」


 そのうちね。

 でもどうせ映画館で観るなら、迫力のあるヤツの方が良いと思うんだけど。

 まあ、いいや。


 そうだよ、僕はいま映画館にいる。

 正確に言えばショッピングモール内にある映画館。

 そこで篠宮さんと一緒にホラー映画を観たんだ。


 それで、今はもう見終わって、隣のフードコートで一休みってところ。

 お昼はもう済ませてあるから、今は軽いデザート食べてる。

 篠宮さんはイチゴクレープ。

 でもって僕は、杏仁豆腐。


 そもそも、何でこんなになってるかって言うと、、、


 

 ──ちょっと時間をさかのぼって、うん、回想。


 ポワワ~ン


 僕と篠宮さん、教室にて。


『ふ~ん、冬木くんってお姉さんと映画観てるんだ。ふ~ん』


『う、うん……姉さんも映画が好きでよく一緒に観てるよ。それこそ小さい頃から一緒にね』


『へえ~、どんなのを観てるのかな? やっぱり怖いのとか?』


『そうだね。ホラーもそうだけど色々。パニック系とかアクションにSF。あとは、恋愛系とか』


『えっ、恋愛? ちょ、ちょっと待って冬木くん。冬木くんってお姉さんと恋愛映画を観てるの?』


『うん、観てるよ。よく姉さんの方から誘ってくるんだ。それで、次は僕の観たいのをって。まあ、要はギブアンドテイクみたいなモノだよ。観たいのを交互にリクエストしてるんだ』


『……』


『この際、篠宮さんだから言うんだけど。ここだけの話、恋愛系って意外と面白かったり……って、ん? 篠宮さん、どうしたの?』


『……』


 

 ポワワ~ン


 で、なぜか今に至ると。

 なんでこうなったのか僕はもちろん、誰にも分からないよ。


「うぅ……しばらく一人でトイレにいけないよ……」


 なんでそこまでして観たのさ。

 別に僕と恋愛系が観たいなら、最初からそう言ってくれればいいのに。


 篠宮さんの頼みなら、わざわざギブアテなんかしなくてもいいのに。

 まあ、トイレに関しては僕も同意見だけど


 それにしても、今日の篠宮さんの恰好。

 この前のラフ宮さんとは違って、結構気合が入ってるっていうか。


 下は相変わらず長いんだけど、そのジャケット?みたいなのの着こなしとかなんか良さげ。

 漫画家が被るみたいなその帽子も可愛くて似合ってる。

 

 なんだろう。

 そのバックとかそうだけど、全体的にお金がかかってそうな感じ。

 これが篠宮さんの本来の姿? 外出時の。


 ちなみに僕はと言うと、母さんたちが選んでくれた服をそのまま装備。

 着せ替え人形みたいな。

 だってさ、ファッションなんて全然分からないからさ、2人に頼んで丸投げ。


 下手に選んで爆死するよりかは全然賢い選択だと僕は思うんだ。

 それにあの2人が選んでくれたんだし。

 うん、結構悪くない、はず。


 それで、休日に男女2人で映画を観る。

 今の僕たちってはたから見ると完全にデートしてるみたい。


 もしかしたら周りの人たちには、僕らが付き合ってるように見えてるかもしれない。

 でも残念ながら違う。

 本当にただ映画を観ただけなんだ。


「ところで冬木くん、腹ごしらえは済ませたけどまだ時間あるし、もう少し遊んで行かないかな?」


 篠宮さん、復活。

 からの提案。

 もちろん僕は悩まないよ。以下略。


「いいよ。で、どこに行くの?」


 この前にみたいに色々周るのかな。


「んふふっ、それはね~」


 ……ん?

 なんかウキウキしてる。







 ──そして、


 バッ! カキーンッ!


 ボールのかっ飛ぶ、爽快な音。


 そうだよ。

 僕は今、バッティングセンターにいる。

 篠宮さんの提案でバッティングセンターに来てるんだ。

 意外だよね。

 篠宮さんってこういうところに来たりするのか。


 ちなみに僕って、バットを持つのは地味にこれが初めて。

 キャッチボールはやったことあるんだけど、ボール自体を打ったことはない。

 だからこれが初めての体験。


 そしてバットは当然……フッ、これが一番軽いヤツ。


 シャキーン!


「冬木くん、ほら前見て! ボール来るよ!」


 ヘルメットをかぶって待機してる篠宮さん。

 すでにバットも新調済みのようだ。

 

 大丈夫、分かってるから。

 うん、ここは先発である僕が良い所を見せないとね。


 ブブブブブブ……


 ボールが壇上に上がって、


 グ、ググ、グググググ……キラーンッ☆


 ピキーン! 来た! 


「フッ!」


 スカッ


 ……あれ? ううん、もう一度!


 バッ! スカッ


 ……おかしいな。


「フッ! フッ! フンッ!」


 スカッ、スカスカスカッ、スカッ!


 全然当たらない……

 なんで、タイミングは合ってると思うんだけど。

 時速100キロ。

 たしかに速いは速いよ。

 でも僕の目で追えないほどじゃない。


 なのにっ!


 バッ!


 当たらない。

 そんな、後ろで篠宮さんが見てるって言うのに……

 これじゃ、まるで公開処刑。

 カッコ悪すぎて後ろを振り向けない。


 い、一体どうすれば……


 バッ!



 それで……


「はあ、結局カスりもしなかった……」


 あの、ただお金を吸われただけなんだけど……

 マシーンに呑まれただけなんだけど……

 ちょっと僕、無様すぎない? 今日の僕。


 てっきり130キロくらいなら簡単に打てるとばかり。

 だからまずは手始めに100キロからって思ってたのに。

 そっか、野球って思ったより難しいんだね


 ガラッ


「バッターアウトだね、おつかれさま」


 フッ、笑いなよ、篠宮さん。


「……はい、次は篠宮さんの番」


 選手交代、バッターは篠宮さん。


 打席に入って、マネーを投入。

 そして、ポチッ、80キロを選択。

 ふーん、僕の骨は拾ってくれないんだ。ふーん。


 シャキーン!


 おお、ホームラン予告。

 篠宮さんのバットの先っぽが光る。

 なるほど、挑発的だね。


 第一投球。

 まずはどれほどのモノなのか、お手並み拝見といこう。


 グググ……ボールが上がって、


 バッ! 来た。


「フンッ!」


 カーンッ!


 うわ、当たったよ……

 しかも結構飛ばしてるし。


 カーンッ! カーンッ! スカッ……カーンッ!


 普通に当ててる……

 フォームも綺麗で様になってる。


 アレだ、バットの振りが僕と違って軽くてスムーズだ。

 ボールが来る瞬間にタイミングよく利き足をあげて……


 でもなんで?

 篠宮さんってたしか運動とかは苦手なはずなんだけど。

 この前の体育でバスケをしてた時だって、すぐヘトヘトに。

 なのに今はまるで別人で、とても僕と同じ帰宅部とは思えない。


「フフフッ……まっ、こんなモノかな。今日はこれくらいで許してあげるよ」


 戻ってきた。

 なんかドヤッてる。


「すごいよ篠宮さん。ほぼ全部当ててたし、それにホームランも何回かあって」


 僕の圧倒的完敗。

 これは素直に負けを認めるしかない。

 っていうか涙目で敗走レベル。


「フフッ、前に明代ちゃんにコツを教えてもらったんだ。あとたまに行くからね。意外と良いストレス発散になるんだよ」


 そうか、女子だけでバッティングセンターに行くのか。

 活発なんだね、最近の女子って。


「それに比べて僕は、はあ……」


 情けないよ。


「いや、冬木くんは何を言ってるのかな。いきなり100キロは私でも無理だよ。初心者はまず60キロくらいから始めた方がいいよ」


 60キロか。

 流石に遅すぎると思うんだけど。

 って、なに普通に女の子からアドバイス貰ってるの?


「冬木くんはバットを振るスピードがゆっくりだから、ボールが来るちょっと前に振りな」


 スイングが遅いってことか。

 フッ、言ってくれる。

 ちょっと早めに……なるほど、来るところを予測してカウンターみたいな感じ?


「あと構えはこうだよ。もっと重心とか意識して」

「こう?」

「違うよ、こうだよ、こう」

「こう?」


 構えってそんな大事なの?

 別にどうでも良くない?


「う~ん……ちょっといいかな」


 ギュッ


 しびれを切らした篠宮さんが、僕の後ろで手をまわして、フォームを調整してくれてる。

 いや、教えてくれるのは別に構わないよ。

 この際だから言うけど、身体がすごい密着してるのも別にいい。

 なんか良い匂いもするし、まるで仲のいい恋人同士みたい。


 でも、


「……違う」

「えっ、違うって何かな? 私の教え方、どこか間違ってる?」

「ううん」


 僕が思ってたのと、違う。







 ──そして、すっかり日が暮れて、僕もう帰る。


「ふう~、楽しかった~」


 篠宮さん、満足そう。

 前半のホラー映画のことをもう忘れてる。

 完全にバッティングセンターに持っていかれてたよ。


 一方の僕と言えば……

 うん、篠宮さんの指導のおかげで、なんとか当たるようにはなった。

 だけど手が痛いし、腕もなんだか重い。

 明日、筋肉痛確定だね。


「……ねえ、冬木くん」

「ん? なに?」

「ごめん、ちょっとあの公園に寄ってもいいかな?」

「公園? 別にいいけど」

「そっか、ありがとう」


 篠宮さん、どうしたのかな。


 

 とりあえずベンチに座る僕ら。


 座ったのは良いんだけど、何も話さない。

 不思議と気まずいとかはない。


 それに、最近こういうのも嫌いじゃなくなってる。

 感覚が麻痺ってきた。


 でもいいのかな。

 もうすぐ暗くなるけど、早く帰らなくても。


 ただ単に休憩したかっただけ?

 にしては篠宮さん、何やら真剣な顔持ち。

 とても休んでる人には見えない。


 それか、何か僕に言いたいことでも……


 ……はっ! ま、まさか、告白⁉ 

 このタイミングで⁉

 そんな、たしかに雰囲気は良いと思うよ。

 だけどそんな、今するの?


 あっ、もしかしてそのために今日僕を映画に誘って……

 僕に告るために。

 まさか、そんな……


 っていうかそもそも、こういうのって男の方から言うべきであって、篠宮さんには……


「……冬木くん」

「は、はい!」


 ど、どうしよう、まだ心の準備が、


「この公園のこと、覚えてる?」

「……えっ」



 それって……

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