第15話 ゲーセンで遊ぶ

「あ~、また負けたよ〜。冬木くんっ! もう一回! ねっ、もう一回やろうよ!」

「そうだね、受けて立つよ」

 

 じゃ、コインを2枚投入っと。


「うぅ~、次こそは絶対にリベンジするから! 冬木くんのその得意顔、絶対へし折ってあげる!」


 フッ、やってみなよ。

 篠宮さんに出来るモノならね。


 1,2,3……スタート!


 ブブーッ、ブーーーンッ!


「わわっ⁉ また失敗⁉ もう~っ! シビアだよ~!」


 いま僕たちが何をしてるのかって言うと、それはゲームセンターに来てる。

 ショッピングモールの中にある大きなゲーセンで、篠宮さんと2人で遊んでるんだ


 ゲーセンと言ったら、まずはこれ。

 定番のレースゲーム。

 どっちが先にゴールするかで勝負してる。


 今は5回戦目で、たぶんコレも僕が勝つ。

 この機種は初めてだけど、もう操作は大方覚えたし、ある程度コツも掴めてきた。


「なんで追い付けないのかな⁉ 私のだけ遅いよ!」


 篠宮さんって意外とムキになりやすいのかな。

 何回負けても僕に挑んでくる。

 勝つまでやめないタイプか。

  

「うぎぎぎ……ま、曲がれ~!」


 ズガガガガッ! ガガガガガッ!

 

 カーブする時も、身体が凄い角度で一緒になってる。

 そんなことしたってその速度じゃ曲がれないし、僕には追い付けない。


 そもそも、そのパワータイプの機体じゃなくて、僕みたいにスタンダードのヤツにしないと。

 たしかに見た目は強そうだけど、その機体は初心者には難しいと思うんだ。

 上級者向け。


 案の定上手くいってないし、それじゃ僕には勝てないよ。


 プーーーンッ!


 ゴール、1着、僕の勝ち。


「ええ~ん! 全然勝てないよ~!」


 ごめん、篠宮さん。

 悪いけど僕、手加減とかはしないんだ。

 ハンデとかなら別に良いんだけどね。

 その中で全力を尽くすだけだから。




 グローブよし、フォームよし、


 いざ、


「フッ!」


 スッ……バンッ! 


 \73点/


 あれっ、思ったより低い。

 そんな、毎日シャドーボクシングやってるのにこの程度なの?


 うそ、僕のパンチ力、低すぎ……


「フフフッ、次は私の番だね」


 ポフッ、ポフッ


 篠宮さん、やる気だ。

 グローブを叩いて感触を確かめてる。


「じゃあ、行くよ!」


 まあ、流石に女子より低いってことは──


「フンッ!」


 クルッ……ドゴオッ!


 \125点……!/ 


「やったー! 私の圧勝だね! 冬木くん!」


 ピョンピョン!


「えぇ……」


 篠宮さん、えぇ……




 ピピピピピピ


「そろそろかな?」

「まだ、もう少し……」


 ピピピピピピ


「ここだよ! えいっ!」


 ポチッ


 ウウィイイン、ガシッ! ピロピロピロ~


「やった! 掴んだよ冬木くん!」

「そうだね、あとはこのまま……」

「これはもう取ったんじゃないかな?」


 ピロピロピロ~……ストンッ


「あっ……」


 ピンピンピン、ピピピピピピン~♪


 残念、取れなかったね。


「なにこれ! おかしいよ! だって今たしかに掴んだよね⁉ なんで途中で外れたのかな⁉ アーム緩すぎだよ!」


 篠宮さん、すごい悔しがってる。

 それはもうキーッて感じに。


「インチキ! ただのインチキマシーンだよ! これ!」


 まあ、UFOキャッチャーなんてどこもこんなもんだよ。

 設定がどうとかこうとか、知らないけど。


「はあ、全然取れる気がしないよ……」


 そっか、そのクマさんのぬいぐるみ、そんなに欲しいのか。


 なら、


「僕に任せて。こういうのは結構得意なんだ」

「ホントかな? じゃあお願いするよ」


 それじゃ、コイン投入。


 ピピピピピピ


 さっきので分かった。

 これは掴むんじゃなくて、こうやって、引っ掛ける系!


 クイッ、コロンッ


「すごっ! ホントに取ったよ!」

「はい篠宮さん、これ」


 クマさんのぬいぐるみ、僕から篠宮さんへのプレゼント。

 正直一回で成功するとは思わなかった。

 僕としても、篠宮さんに良いところを見せることができてよかったよ。


「うわ~、ありがとう~。ずっと大切にするね!」


 うん、僕だと思って大切にしてよ。




 ちょっと休憩、ベンチに座って一休みっと。

 自販機のアイスクリーム、コロンッ


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 じゃ、さっそく食べよう。

 ペロっと。


 う~ん、このアイス、色合いはオレンジなんだけど、味はレモンみたいで結構すっぱい。

 でもちゃんと甘くて食べやすい。

 うん、冷たくて美味しいよ。


 スッ


 ん? 僕の頬近くに冷気が、


「一口どうぞ」

「えっ、でも……」


 もう口付けてるよね、それ。


「チョコミントは嫌いかな?」


 いや、食べたことないから何とも……


 そうじゃなくて。

 篠宮さん、そういうの気にしないタイプなのか。


 どうしよう、僕そういうの耐性ない。

 姉さんともしないよ。

 でもここで変に断ると嫌な感じになっちゃう。


 う~ん……仕方ない、いっちゃえ!


 パクッ


「どうかな? 美味しい?」

「……うん」

 

 美味しい、美味しいよ。

 でもそれどころじゃない。


 だって今、篠宮さんと……

 このスースーする感じは、一体……

 

「そっか、お口に合って良かったよ」


 じゃ、じゃあ……


「僕のもその、どうぞ……」


 な、流れ的にこうなるよね。

 何も間違ってないよね。


「うん、じゃあ一口貰うね」


 パクッ!


 篠宮さん、一切躊躇することなく僕のアイスに……

 

「ん~~、美味しい~!」


 バタバタ!


 なんか、その、すごくカップルみたい……




「ほらっ、冬木くん! 早く入ろうよ!」


 グイッ


「で、でも僕、こういうのはちょっと……」


 キラキラ〜☆


 ブ、ブリクラ……

 女子がよく筆箱とかに張ってる、例のアレ。

 色々デコってキラキラ輝いてる、例のアレ。


 なんだろう、住む世界が違うっていうか。

 キャピキャピしてて僕にはちょっと……いや、正直かなりキツい。


「冬木くん、ひょっとしてブリは苦手? 大丈夫だよ、最近は男の子でも撮ってるらしいから変じゃないよ」


 いや、そういう問題じゃなくて、もっとこう根元から苦手で。


「ブリは初めてかな?」

「そうじゃないけど……」

「えっ……まさか、お姉さんと?」

「うん、実は姉さんと一回だけ」


 篠宮さん、よく分かったね。

 まあ、僕って一緒に撮る友達なんていないから、いるとしたら姉さんくらいしかいないんだけど。


「アレだよ。ゲームに釣られて仕方なく……って、篠宮さん?」


 僕を見たまま固まってる。

 その眼力は一体どこで手にいれたの?

 ちょっと怖いんだけど……


「……篠宮さん?」

「入るよ! 冬木くん!」


 ガシッ! グイッ


「えっ、ちょ、ちょっと……!」


 手を掴まれて強引に……

 し、篠宮さん、急になに?







 ──そして、あっという間に時間が過ぎ去り、夕日。


「はあ~、楽しかったね。冬木くん」

「そうだね」


 今日は楽しかった。

 何だかんだ言って結構遊んじゃった。

 貰ったお金もほとんど使っちゃったし、僕は満足。


 はあ、こういう風に女の子と遊んだのって、地味にこれが初めて。

 デートとかじゃなくて普通に友達としてって感じだったけど、それでも楽しかった


 うん、楽しかったよ。


 それで、今は篠宮さんと一緒に帰宅中。

 話しながら徒歩で帰ってる。


 あれから結局、漫画も僕が持ってる。

 遊んでるうちに僕への警戒を解いてくれたみたい。

 なんだか信用されてるみたいで嬉しいよ。


 それとも単に、腕が疲れただけ?

 クマさんを持ちたいだけ?


「んじゃ、私はこっちだから。ここでお別れだね」


 あっという間にさよならの時間。


「うん、バイバイ。篠宮さん」


 また明日、学校で。


「じゃあね! 冬木くんっ!」

 

 手を振ろう、篠宮さんも振ってるし。

 

 バイバ〜イ


 ……よし、僕も帰ろうっと。


 クルッ


「──冬木くん!」


 ん、なに?


「また遊ぼうね!」

「……うん」


 僕もまた篠宮さんと遊びたい。

 出来れば友達としてじゃなくてってのが理想だけど、まあ難しいか。


 とりあえず、疲れたからもう帰るよ。

 すでに宿題は終わってるし、今夜はよく眠れそう。


 それじゃ、


 〜沈む夕日を背景に、家を目指す僕~


「……あっ」


 ピタッ


 まずい。

 漫画、僕が持ったままだ……


「──冬木く~ん! 私の漫画返してよ~!」



 し、篠宮さん……

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