第13話 ショッピング

「──ゆう~、何してるの~? もう行くわよ~」

「はーい、ちょっと待ってー」


 母さん、分かってる、分かってるから。

 お願い、今は店内だから。

 大きな声で呼ぶのはやめて。

 すごい恥ずかしいから。


 ……開幕ごめん。

 今日は日曜日で、学校はお休み。


 それで、今は家族でお買い物してる真っ最中。

 母さんと姉さん、そして僕を入れた3人で、近所のショッピングモールに買い物に来てる


 普段は家でお留守番してる僕。

 だけど今日は、不思議と外に出たい気分だった。

 休みの日は部屋でゲームってのが相場なんだけど、たまにはいいよね。


 こうやってゲームソフトも見たかったし、何か美味しいモノとか食べたかったし。

 家族付き合いは大事にしないとね。


 というワケで、


 ジ〜……


 お店のゲームに、目をやる僕。


 目的はコレ。

 近場のゲームショップをチェックしたかった。

 この街で生きていくためには必須事項。


 それにしても、う~ん……

 ここのラインナップは正直微妙。

 比較的新しいソフトばっかりで、レトロとかレアモノ揃えは全然。

 この辺で売ってる所は他にないし、これなら前の方が良かったよ。


 ……あっ、このゲーム。

 前々から気になってたヤツだ。

 pvを見て面白そうだなって。


 でも絵柄や雰囲気がなんだかギャルゲーみたいな感じなんだよね。

 パッケージもちょっとアレだし。

 まあ、そういう所も売りっていう作品でもあるんだけど。


 う~ん、どうしよう。

 内容は純粋に面白そうなのに、ちょっと躊躇ってしまう。

 こんなとこを姉さんに見られでもしたら、なんて言われるか。

 速攻で母さんに報告される。


 いや、そもそも僕ってもう中学生だし、こういうのって気にしたら負けっていうか、別に堂々としてればいい。

 興味がないわけじゃないし、何ならやってみたいって気持ちの方が大きい。

 なのに、こんなことで謎に制限してバカみたい。


 よし、ここは思い切って買ってみるか。


 でもこの絵柄、やっぱりちょっとな~。

 買いにくいな~。


 早くしないと姉さんが僕を探しにやってくる。

 ヤバいよ、ヤバいよ……

 う~ん、どうしよう……


「──冬木、くん?」


 ほら、来た。

 いつもそうなんだ。

 願ってもないのにあっちから、


 ……って、ん?

 このやけに馴染みのある声は、


「あっ、篠宮さん」


 濃い緑っぽい長スカートに、ややサイズ大きめな黒のパーカー。

 袖はまくってて、腕に何か輪っかをつけてる。

 学校にいる時と全く同じ三つ編みスタイル

 

 私服の篠宮さんだ。

 学校にいる時とはまた違った、比較的ラフな感じの篠宮さんがいる。


「え、えっと、冬木くんもお買い物? それ、買うのかな?」

「……あっ」


 今の僕、片手にギャルゲー。


 サッ


「いや、ただ見てただけだよ」

「そ、そうなんだ」


 うっ、篠宮さんにギャルゲーが興味あるのバレた。

 気まずい&最悪。

 できることなら今すぐ消滅したい。


「そういう篠宮さんは……」


 何やら左手に大きな紙袋をひっ下げてる。

 中に入ってるのは、形状からして漫画。

 それが見た感じで10冊くらい入ってる。


 さては篠宮さん、大人買いしたな。

 でも、一体なんの漫画なんだろう。

 僕の知ってるヤツかな。


「大量だね」

「あっ、こ、これは別に……」


 サッ


 隠された。

 僕に覗かれる前に、一番上にあるヤツを素早く裏面にひっくり返された。

 ふむ、見られたくないヤツだったか。

 

 ごめん、そんなつもりじゃなくて。

 ちょっと少女漫画風味のある男キャラが見えた気がするけど……


 いいや。

 これ以上は怒られそうだから、余計な詮索はやめておくよ。


「あ……」


 そして、予想通りの、沈黙。

 無言の間が僕らを襲う。

 き、気まずい……


 篠宮さん。

 まさかこんなところで会うなんて思いもしなかった。

 様子からして向こうも同じだろうね。


 そもそも学校以外の篠宮さん見たことないから、なんかすごい違和感。

 完全にオフモードで油断してたよ。


「ふ、冬木く──」

「ごめん篠宮さん。いま僕、親と一緒に来ててさ。そろそろ行かないと」

「そ、そうなんだ。ごめんね、急に声かけちゃって」

「う、うん……」


 ここは、そう、戦略的撤退。

 それがいい、そうしよう。

 だって、こんなところにいても気まずいだけだし、篠宮さんも早く帰って漫画を読みたいはず。

 だから素早く別れた方がお互いのため。


 うん、僕は逃げるよ。


「それじゃ、また明日……」

 

 グッバイ、篠宮さ──


「──あっ! いたいた」


 っ⁉


「ゆう! アンタまだゲームなんか見てたワケ?」


 げっ、姉さん……


「まったく、母さんがずっと呼んで……って、その子は?」

「あっ、いや……」


 うちの姉さん、なんでいつもこう、間が悪いのかな。

 早くどっか行ってよ。


「へっ? 冬木くんの、お姉さん?」

「……あっ! もしかして……ゆうのガールフレンド⁉」


 もう、余計なことは言わないでよ……


「ゆう? ガールフレンド?……ええっ⁉」


 ほら、篠宮さんも戸惑ってる。


「ち、違うよ、篠宮さんとは……」

「へえ~、アンタ。姉であるこの私を差し置いて、こんな可愛い子を引っ掛けてくるなんて。意外と隅に置けないのね」


 キャッキャッ!


 バンバン! バンバンバン!


 うぅ、痛い……

 叩かないでよ、姉さん……


「──2人とも、こんなところで何騒いでるの? 周りに迷惑でしょう」


 うわっ、母さんまで……


「少しは声のボリュームを……って、あら? ゆうのお友達?」


 ちょっともう、ホントに勘弁してよ……


「母さん見て、ゆうのガールフレンド」 

「なーに? ゆうの彼女さん?……って、彼女⁉ ゆうの⁉ ええっ⁉」



 はあ、うちの家族、タイミング悪すぎ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る