第12話 中間テスト

 今は夜中、ここは僕の部屋。

 外を走る車はもうない。

 でも時おり、野良ネコと思われるだろうネコが鳴いてる。


 害音はそれくらい。

 正直、いつアレが出てもおかしくない。

 これ以上考えてはいけない。

 そんな雰囲気。


 そんな静まり返った部屋の中で、ライトの明かりだけを頼りに、


 カキカキ、カキカキカキ……ピタ


「よし、これくらいにしよう」


 時間は、チラッ、もう12時。


「ふう~、疲れた~」


 伸び伸びしよう、グッ、グッ、グッっと。

 

 ん、ずっと机を向き合ってたから、身体がすっかり硬くなってる。

 頭も回らくなってきたし、何より眠くなってきた。

 これ以上は僕の脳みそが拒否ってるみたい。

 今日もうこのくらいにしようかな。


 そうだよ、明日はテストの日。

 僕がこの学校で受ける、初めての中間テストなんだ。


 今までテスト勉強なんて特にやってこなかったんだけど、今回は違う。

 何たって私立だから、みんなちゃんとやってる。


 僕だけやらないのは非常にまずい。

 たださえ成績が悪いっていうのに、これ以上みんなと差が広がると取り返しがつかなくなる。


 このままだとグレて不良になっちゃうよ。

 根暗な僕には絶対似合わない。


 それにビリなんて取ってきたあかつきには、母さんが怖いからからね。

 うん、僕の生活がかかってる。


 それはさておき。

 正直、こんなに勉強したのは人生初めて。


 勉強ってつまんないイメージで溢れかえってたんだけど、篠宮さんと一緒にやってた時はそんな感じはしなかった。


 今はソロだけど、不思議とそこまで苦じゃないし。

 あれ? おかしいな、勉強って意外と楽しかったりする?

 まあ、たぶん篠宮さん効果なんだろうけど


 ここだけの話、自分のためって言うよりは、篠宮さんによく思われたいからって側面の方が強かったりする。

 もちろん自分のためでもあるんだけど。

 僕が良い点を取ったら、篠宮さん、きっと……


 おっと、そろそろ寝ないと。

 見ての通り頭がおかしくなってきてる。


 死滅した脳細胞を少しでも休ませないと。

 徹夜はダメだって、篠宮さんも言ってた。


 不安要素も多々ある。

 だけど、諦める。

 こういうのは完璧にやろうとしたら、いつまでも終わらない。

 だから程々に切り上げろって、姉さんも言ってた。


 もう寝るよ。

 そうと決まれば、


 カチッ


 ライト切断、ベッドに、バッ!


 うん、おやすみ。







 ──そして、一週間後。


「冬木くん、これは……」


 さっそくテストの結果が返ってきた。

 今は篠宮さんと図書室の自習コーナーで、テストの答案を見せ合ってる最中なんだ


 それで、気になる僕の結果なんだけど……


「学年32位……す、すごっ」

「そうかな」

「うん、ホントにすごいよ冬木くん!」


 フフフッ、篠宮さん、どうやら分かってくれたみたいだね。

 ふん、そうだよ。

 僕はすごいんだよ。ふん、ふん。


 個人的にはもうちょいいけると思ってたけど、僕にしてはまあ上出来かな。


 それにさ、


「ありがとう、篠宮さんのおかげだよ」


 全部キミのためだよ……なんて、おえっ


「ううん、そんなことない。私はただ勉強を見てあげただけで、これは正真正銘、冬木くんの実力だよ」


 篠宮さんにそう言って貰えると、やっぱり嬉しいな。

 これは、フフッ、ニヤニヤが止まらない。

 今の僕の顔、一体どうなってる? 大丈夫かな。


「そういう篠宮さんは12位。やっぱり先生には届かないや」


 テストの出来が思ったより良かったから、ワンチャンあると思ったんだけど、そう甘くはない。

 そう簡単に偉大な師は超えられない。


「それでもすごいよ! 私、今回は結構勉強したからこれだったけど、普段ならたぶん負けてると思う」

「そ、そうかな」

「そうだよ! 頑張ったね、冬木くん!」


 篠宮さん、まるで自分のことのように喜んでくれてる。

 こういう時って普通、何を言っても嫌味に聞こえるはずなんだけど、篠宮さんのソレは本当にそう思ってるって感じ。

 篠宮さんのにこやかな表情、とても噓には思えない。


 うん、頑張った甲斐ってモノがあるよ。


「苦手だって言ってた国語と数学もちゃんと出来てるし。社会と理科にいたっては、うへぇ~、私より高いよ」

「数学は篠宮さんがつきっきりで教えてくれたから。そのおかげ」

「どういたしましてだよ。冬木くんにそう言って貰えると、私も教えた冥利に尽きるよ」


 国語はマグレ。

 ヤマを張ってたのが当たったんだ。

 始まってすぐ問題に目を通した時、脳内が軽くハイになってた。


 英語は……うん、犠牲になったんだ。

 社会の犠牲にね。

 次から頑張るよ。


「前々から思っていたけど、冬木くんって頭良いよね」

「ん、僕が? そんなことないと思うけど」


 IQ低いし、パズルとかクイズをやったら全然ダメ。

 要領だって悪いし、むしろバカな方。

 まあ、みんな分かってるとは思うけど。


「違うよ。そういうことを言ってるんじゃなくて、地頭、記憶力の方だよ。冬木くんって飲み込みが早いっていうか、物覚えが良い方だよね?」

「そうかな? 別に普通だよ」

「うそ、絶対そうだよ。一緒に勉強してる時も集中力すごいし、結構向いてると思うな、勉強」

「篠宮さんがそう言うなら、まあ」


 単に僕って頭に何も詰まってないから、色々入りやすいだけかも。


「いいな~。私、物覚えが悪い方だから、人より何倍も往復しないと頭に入らないんだ。はあ、天才肌の冬木くんが羨ましいよ~」


 違うよ。

 今回成績が良かったのは、篠宮さんによく思われたくて頑張ってただけで、地頭とかそんなんじゃない。


 事実、裏でコソコソやってたワケだし。

 圧倒的物量、影勉。

 大事なゲーム時間を削ったんだ。

 絶対に篠宮さんよりやってた自信がある。


「これじゃ、次は抜かれされちゃうな~……はあ、冬木くんがもう私の元から巣立って行くなんて、私はとっても寂しいよ」


 なにそれ、面白いね。


「まあ、それはそれとして。頑張ったね、冬木くん! 偉い、偉いよ冬木くん」

「そんな、やめてよ篠宮さん、僕はただ……」


 やった。

 篠宮さんがまた褒めてくれた。

 僕は嬉しいよ。


 どのくらい嬉しいかって言うと、もし明日地球に超巨大隕石が落ちてきても、何も悔いがないってくらい嬉しい。

 もうここで終わってもいいくらい。


「あっ、そうだ。ねえ、冬木くん」

「ん、なに? 篠宮さん」

「ご褒美、あげよっか?」


 へっ……?


「篠宮さん、今なんて……」

「もうっ! とぼけないでよ。ご褒美だよ、ご、ほ、う、び! 生徒がこんなに頑張ったんだから、何か応えてあげるのも先生の役目だと思うんだ」

「いや、僕は別にそんな……」


 ご褒美ならすでに篠宮さん、キミの笑顔で十分なんだけど……おえっ


「うんうん! いいからいいから。で、何にしよっか? 冬木くんのお願いなら何でも聞いてあげるよ」


 な、なんでも……?

 えっ、待って篠宮さん、なんでもいいの⁉


 えっ、どうしよう……

 たぶん一個だけだよね。

 篠宮さんと、篠宮さんと、えっと、篠宮さんと……って違う、そうじゃない。

 そう言うことじゃなくて。


「い、いいよ別に、何もそこまでしなくても……」

「もしかして遠慮してるのかな? 気にしなくていいんだよ。ほらっ、何をして欲しいか正直に言ってごらん?」

「いや、だから……」

「決まらない? なら私が決めていいかな?」


 聞いてよ、篠宮さん……

 なんだか楽しそうだし、はっちゃけ気味だし、ひょっとしてまたからかってる?

 ギャルなの?


「う~ん、どうしようかな~。肩はまだ凝ってないだろうし、でも膝枕は流石に……」


 別に考えなくていいから。

 篠宮さんの膝枕……いや、しなくていいから


「……そうだ! 頭を撫でてあげるってのはどうかな?」


 っ⁉ 篠宮さん⁉


「うん、それが一番無難だね、うん! ていうか私がやりたいし」


 い、いい子いい子してくれるの?

 そんな、確かにちょっと気になるかもだけど……

 いや、僕はそんなの求めてないから。

 篠宮さんに母性なんて感じてないから。

 ホントだよ。


「だから、勝手に話を進めないでって」

「フフッ、そうは言っても冬木くん、また顔に出てるよ?」

「えっ⁉」

「は~い! というワケで、ちょっと失礼するね~」

「わわっ⁉ ちょっと、篠宮さん⁉」

「わ~、冬木くんの頭、柔らか~い。ずっとやってみたかったんだよ~」


 ヨシヨシ、ヨシヨシヨシ


「フフフッ、可愛い~」

「うぅ……し、篠宮さん……」



 や、やめてよ……

 僕、ダメ人間になっちゃう……

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