第11話 可愛い寝顔

 お昼休みが終わって、午後の授業。

 今日もお隣にいる篠宮さん。


 頭がコクン、コクン


 良い天気だからね。

 絶賛睡魔に襲われ中、大丈夫かな。

 

 頑張って授業について行こうとしてるみたいだけど……

 たまにピクッてなったりで、意識が朦朧としてる。


 ノートの文字もところどころ歪んでて、軽度の薬物中毒者みたいになってる。

 これは代わりに僕がちゃんと取らないとね


 昼間食べたカツ丼にやられた?

 仕方ないよ。

 だって人間は体温が上がると眠くなっちゃうからね。


 たしか酸素が関係してるとか、してないとか。

 この前体育の先生が言ってた。

 つまりちゃんと呼吸をしてれば、眠くならなかったりするのかな?

 

 ……やめよ、なんだか僕まで眠くなってきた。

 とりあえずノートを綺麗に書くことに集中する。

 あとで篠宮さんに見せていっぱい感謝されるんだ。

 そのタメならどんな苦行だって。

 うん、僕は頑張るよ。



 そして、成し遂げた。


 キラキラキラ~☆


 僕のノート、うん、僕にしては良い感じに仕上がったよ。

 見やすさ、写しやすさに全部振り。


 あとは隣にいる眠り姫に、これを、


「う、う~~ん……!」


 身体を伸ばして、大きなあくび。


「眠そうだね、篠宮さん」

「そうなんだよ~、実は昨日夜更かししちゃって」

「遅くまで勉強? 頑張ってるね」

「ううん、漫画を読んでたんだよ。それで読みだしたら止まらなくて、結局最後まで読んじゃった」

「なんの漫画? 少女漫画とか?」

「ううん、冬木くんには教えな~い」


 ひょっとしてまだ寝ぼけてる?

 可愛いね。


「午前中は逆に冴えててまだ良かったんだけど、午後になると流石に厳しいかな」

「分かるよ、相当キツイんだろうね。僕もゲームに夢中でたまにそうなるから」


 時間を忘れて、つい。

 やめどころか見つからなくて、つい。


 実際問題、ふかした後って普通にヤバいよね。

 吐きそうっていうか、キツいってことしか考えられなくて、とにかく気分が最悪。ナーバス。

 アレばっかりは人間の活動時間の限界を、睡眠の大切さがよく分かる。


 それが嫌だから、僕は基本的にちゃんと寝ることにしてる。

 次の日が潰れて無駄になっちゃうからね。


「あ~あ、塾さえなければもう少しマシになるんだけどな~」

「塾って親の強制?」

「そう、私の意志はないよ。ほらっ、私って冬木くんと同じで帰宅部だよね? それで『帰ってアニメばかり見るんじゃありません、部活をしないなら代わりに塾に行かせます~』ってお母さんに言われてね……」

「そ、そうなんだ」

「勉強したいとかそんなの全然ないよ。はあ、自由な冬木くんが羨ましいな~」


 いや、篠宮さんほどじゃないけど、僕も似たような境遇だよ。

 それに僕もそのうち塾に連行されるかもしれない。


 もちろんその時は、篠宮さんと同じ所にしてもらう予定。

 篠宮さんとならどんな苦行も乗り越えられる、気がする。


「……冬木くん、なんかルンルンしてるのね。なにか良いことでもあった?」

「えっ? いや、別に」


 しまった、顔に出てたか。

 僕って単純なのかな。

 そんなことないと思うけど。


「ふーん、私はこんなに苦しんでるのに。良いご身分だね」


 じ、ジト目……

 やめてよ篠宮さん、その目は僕に効く、やめて欲しい。


「まあ、次の授業は社会だから、思う存分に眠ると良いよ」

「言われなくてもだよ。次もノート、お願いしてもいいかな?」

「うん、任せて」


 篠宮さんのためだ。

 僕の集大成をこのノートに込めるんだ。







 それから、


 スー、スー、スー……


 さっそく隣から可愛らしい寝音が聞こえる。

 篠宮さん、予告通り本当に寝てるよ。


 もうホント、ZZZZZ……って感じでぐっすり。

 うつ伏せで眠ってるもんだから、髪が前にダレ下がってて、ホラー映画でよくあるアレみたいになってる。

 フフッ、ちょっと面白いかも。


 クルッ


 あっ、寝返り。こっちを向いた。

 篠宮さん、ホントに気持ちよさそう。

 清々しいっていうか、良い夢でも見てるのかな?

 まるっきし無警戒で僕の方を向いてる。


 ムニャムニャ……

 

 それにしても篠宮さんって、寝顔もちゃんと可愛いんだね。

 見てるとなんだかいたずら心を刺激されるような。

 なんだろう、幸せそうなほっぺた、柔らかそう……


 突っついてもいい?


 篠宮さんの滅多に見られない、貴重な寝顔。

 これは、ぜひとも一枚写真に収めて保存……

 おっと、今のは完全にアウト。

 

 気持ち悪かったね。

 ダメだ、しっかりしないと。

 うん、常時警戒を強めていくとするよ。


 ZZZZZ……


 それにしても、篠宮さんの寝顔。

 なんでこんなに可愛いんだろう。

 アレだ、ずっと見ていられる可愛さだ。

 


 

 そして、授業は終わり。

 僕、満足、僕


「ん、う~ん……冬木くん、おはよう~」


 隣にいるお姫様も目を覚ます。


「おはよう篠宮さん、今ちょうど終わったところだよ」

「あ~、腕が痺れてるよ~。いた~い」


 篠宮さん、おでこに跡が残ってる。

 その様子だとよく眠れたみたいだね。


「おかげでだいぶ楽になったよ、結構スッキリかな!」


 うん、それはそれは。


「んー? 冬木くん、なにか良いことでもあった?」

「えっ、なんで?」

「なんでって、そんな顔してるよ。もしかして自覚ない?」


 やっぱり僕って顔に出やすいタイプなのかな? 

 僕に限ってそんなことはないと思うけど。


「別に、何もないけど……」

「ふ~ん、まあいいや。あとでノート見せてね」


 あっ、まずい。

 ノートを取るの、完全に忘れてた。

 ずっと篠宮さんの寝顔を見てたからほとんど書けてない。


「ごめん篠宮さん、実はノート取ってない」

「えっ、なんで? まさか冬木くんも寝てた?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

「ん? じゃあ、なんで?」


 言っちゃっていいのかな、これ。


「実は、その、篠宮さんの寝顔が気になって……」

「へっ? 冬木くん、私の寝顔……見てたのかな?」

「う、うん。気持ちよさそうにしてたから、つい……」


 だってこっちに顔を向けて寝てるんだもん。

 あんなの、遠慮せず見てくださいって言ってるようなモノだよ。

 正直、僕は悪くないと思う。


「えっ……あっ、えっ? うわ~……私、冬木くんに寝顔見られてたんだ、どうしよう……」

「ごめん」


 篠宮さん、赤くなった頬を両手で押さえてる。

 そうだよね。

 寝顔を見られたら恥ずかしいよね。

 僕だってそうだし。


「へ、変じゃなかった? 私の寝顔……」

「いいや全然。むしろ可愛いくらいだよ」

「へっ? あっ、えっ? か、可愛い? 私が?」

「うん、可愛い。篠宮さんらしくて」


 授業なんてあっちにポイッ。

 どうでも良くなるくらいには。


「ふ、冬木くん……うぅ、か、からかわないでよ、別にお世辞とか……」

「いや、そんなつもりじゃないけど。実際ノート取れてないワケだし」

「わ、分かったから、分かったからもういいよ……」


 篠宮さん、分かりやすいくらいに照れてる。

 これはしおらしいって言うの?

 それに、さっきより顔がカアって、真っ赤だ。


 これは、


「……正直また見たいかも。篠宮さんの寝顔」


 ちょっと追撃。


「もう~! 冬木くんはバカだよ~っ!」



 机に突っ伏して足をバタバタ。

 うん、やっぱり可愛い。

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