第8話 雨の日
今は授業中。
そして僕は窓を見てる。
雨だ。
雨が降ってる。
まだお昼なのに外は真っ暗で、ちょっと強めな雨が降りしきってる。
いま外に出るのはあまりおススメしない。
でもこれを見てると、なんでだろ?
不思議と心が落ち着く。
僕と同じでどんよりとしてるから?
外に出なくて良いっていうか。
むしろ家の中にいて良いんだよって、天から告げられてる気がする。
それに、このジメッとした感じが僕の心とマッチして、安らぎをもたらしてくれる。
きっと僕がこんな性格だから、雨との親和性が高いんだと思う。
だから、うん、僕は雨属性。
「え~、よって銀河の中心には、超高質量のブラックホールがあるとされ……おっと、時間だ。オホンッ! 続きはまた今度だな」
キーンコンカコン
ふう~、退屈な授業がやっと終わった。
今から10分休み。
さて、どう乗り切ったモノか。
とりあえず……うん、ゆっくり時間を掛けてトイレへ、
「──ねえ、冬木くん」
ゴー……って、ん?
「なに? 篠宮さん」
隣の席の篠宮さん。
僕に話しかけてきた。
ちょっと僕、お手洗いに行きたいんだけど
「あの、次の授業って社会だよね?」
「そうだけど」
社会。
ノートさえ取ってれば、あとは何をやっても良い。
それがここの社会、
「それがなに?」
「実は私、教科書を忘れちゃって。だから、その、冬木くんのを見せて欲しいなって……」
えっ?
「冬木くんが良ければだけど、ダメかな?」
篠宮さんの、若干の上目遣い。
そんな感じでお願いされたら、僕は……
いや、そうじゃなくて。
教科書を見せろだってさ。
それは別に構わないけど……
いや、ピキーン!
僕に電流走る。
教科書を忘れただって。
普段はどこか抜けてるけど、基本的にしっかり者な篠宮さんに限って、そんなことが?
誰でもミスはある。
ここは百歩譲って本当に忘れたとしよう。
だけど次の授業って別に、教科書が無くても困らない。
ノートさえ取ってれば*以下略だからね。
そもそもの話、忘れたなら隣のクラスから借りてくればいい。
まあ、友達のいない僕には出来ない芸当なんだけど。
つまり何が言いたいのかって言うと、これは色々おかしい。
おかしいよ、篠宮さん。
「あ、明代ちゃんから借りようとはしたんだけど、部室に放り投げてるらしくて」
それはそうだ。
必要な場面皆無だし。
「それに……ほらっ、私って教科書を見ながら授業を聞くタイプだから、そうしないと頭に入らないんだよ」
ふむふむ。
「うぅ、教科書がないと落ち着かないよ……」
それは、少し苦しいような。
でも、篠宮さんがそこまで言うなら、
「……別にいいけど。僕は見ないし」
「はあ~、良かった。助かるよ〜」
篠宮さん、一安心って感じ。
でもなんか引っかかる。
う~ん……
「な、なに?」
「いや、別に……あっ! そういえば僕、トイレ──お花を摘み行くんだった」
そうだった、危ない危ない。
次の時間大変なことになるところだった。
「あっ、引き留めてごめんね。早く行ってきなよ」
「うん」
急がないと。
そして、
バシャー、レモン石鹸ゴシゴシゴシ。
手を洗う僕。
チラッ
鏡に映るもう一人の僕。
僕の意志に反して動いてる、気がする。
にしても篠宮さん。
教科書を忘れてたって言ってたけど、さっきそれらしきモノが鞄の中から見えたような……
もしかしてわざとやってる?
そんな、たしかに前の学校ではよくギャル目な女子から嫌がらせを受けてたけど……
貸した教科書がデコられて返ってくるんだ。
本人たちは楽しいから良いんだろうけど、やられた方はたまったモノじゃないよ。
篠宮さんに限ってそれはないと思いたい。
たまにからかってくるくらいで、僕に危害を与えたりしない、はず。
ピッ、ピッ、フキフキフキ
考えても分からない。
時間がないから早く戻ろう。
ガラッ
ギリギリ滑り込みセーフで教室へ、
「あっ」
衝撃の光景……
篠宮さん。
僕の机とくっつけて、教科書を真ん中に広げて待機してる篠宮さんがいる。
そうか、教科書を見せるってそういう……
てっきり僕のを借りるとばかり思ってた。
い、一緒に見るんだ……
「冬木くん、おかえり」
「う、うん」
「どうしたのかな? 早くしないと授業始まるよ?」
「……お、お邪魔します」
「うん、どうぞ」
ち、近いよ。
まさか、これで一時間過ごすの?
うぅ、緊張する……
ペラ、ペラペラ
「フフッ。あっ、今日はここだね」
篠宮さん、なんで笑顔なの?
ひょっとして僕がドギマギする様を見て楽しんでる?
やっぱりからかってる?
ギャルと同じなの?
そして、ふう~、今日も一日お疲れさま。
あとは帰るだけ。
荷物を、グッ、グッと。
よし、忘れ物はないはず。
下駄箱、校舎を出て、
ザッ!
いざ帰宅部、始動!
「──冬木くん」
「……なに?」
隣にいる同じく部員の篠宮さん。
今度はなんだろう?
「あのね、実は私、傘が無くて……」
「えっ? でも篠宮さん、たしか朝はちゃんと差して……」
「あ、明代ちゃん! 明代ちゃんに貸すことになったんだ」
「ん?」
「ほらっ、明代ちゃんって剣道部だよね? 朝練の時は雨が降ってなかったから持ってきてないみたいで」
な、なるほど……
「うぅ、このまま帰ったら風邪ひいちゃうよ……」
それは大変だ。
篠宮さんが学校を休んだら僕も寂しいからね。
なんだったら僕が代わりに風邪を引いて、学校を休みたいくらいだ。
そんな顔でこっちを見ないでよ。
もしかして僕がそういうの弱いって、分かっててやってる?
一応言っておくけどそれ、篠宮さん限定だから。
「それで、どうかな? 冬木くんの傘に入れてくれると助かるんだけど……」
「別に構わないけど……」
でもそれって、つまり相合傘? 篠宮さんと?
傘がないなら親に迎えに来てもらえばいいのに。
げんに塾の時だってそうしてるワケだし。
なのにあえて僕と?
やっぱりそういうことでいいの?
えっと、僕はその、篠宮さんのことが好きなワケだけど。
でもこれは……
例えそうじゃなくても、異性なら誰だって意識しちゃうよ。
ど、どうしよう。
僕の傘、実はそんなに大きくない。
2人も入るかな……
「私が持つよ」
「い、いいよ、僕が持つ」
「う〜ん、それだと何だか悪いし……あっ、そうだ! じゃあ間を挟んで2人で持つっていうのは──」
「僕が持つから」
バサッ
篠宮さんと一緒に入る。
ちょっと狭い。
「じゃ、行こう」
「うん!」
僕たちは校門を出て、帰り道を進む。
篠宮さんと相合傘。
お互いに無言。
気まずいってのもあるんだけど、そもそも話をする雰囲気じゃない。
一つ同じ傘の下にいる男女。
これってはたから見ると、完全に恋人。
自惚れすぎ?
そう思ってるのは僕だけ?
「……肩、濡れるよ。もっと寄りなよ」
「い、いいよこれで」
これ以上は、無理。
だって僕の心臓が破裂しそう。
勉強会の時もそうだったけど、こういうのにホント耐性がないんだ。
まして相手が篠宮さん、どうにもできない
そうだよ。
僕が耐えられるギリギリの、適切な距離を保って──
「んっ」
ギュッ
っ⁉ 篠宮さん⁉
適正距離の、崩壊⁉
か、肩と肩が完全に触れて……
ほ、本当に、なに?
まずい、僕の体内メーターが急激に、
篠宮さんにバレ──
「ちょっと、ドキドキするね」
「えっ……」
「ううん、何でもない」
し、篠宮さん……
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